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運命の相手は自分で探しましょう  作者: ぶくでん
フェザント城大忙し編
84/119

84.休暇前

「休暇♪休暇♪おやすみよ〜、手づかみしちゃうよ食べちゃうよ〜!フフンフフン♪」

「クスっ、シャロン様お上手ですね。初めて聞く曲です」

 …あ。

「…出てた?私声に出してた?」

「「バッチリ出ておりました」」

 しまった…。おかしいな、頭の中で歌ったはずなんだけど…。

「この数日間殿下がお仕事を詰め込まれていらっしゃるから、お寂しいのですね」

「そっかぁ、だから姫様ご自分を励ますために謎の歌を………」

「…………うん」


 あの朝食の席でドレイク行きをお願いしたところ、ウィルの顔色がサッと変わって、なぜか一緒に行くって言い出した。

『シャロンがお世話になった人にはきちんとご挨拶しなきゃね』

 とか何とか言って、朝も夜もなく仕事を詰め込んでいる。…体壊さないといいけど。

 ライ師匠に会ったらウィルもきっと好きになると思うな。…はっ!好きになったらダメだけど!


「さあシャロン様、今日は休暇前最後の講義ですよ。頑張りましょうね。…数学です」

「ぐっ…!」

 こればっかりはもうどうしようもない。一番進みが遅いから、最近はほぼ毎日さんすうだ。

「でも今日は頑張れる!掛け算も合格してみせる!!」

「まぁ!フフフフ、頑張ってくださいませ」

 


「あ、シャロン見つけた。…何死にそうな顔してんの」

 宮殿の講義室からの帰り際、長い廊下でテリーに会う。

「テリー…知ってた?ゼロって…何を掛けてもゼロなんだって」

「………君が知らなかったんだとしたら、それこそ驚愕なんだけど」

「何で掛けるのにゼロになるの!?掛けたものはどこに行くの!?」

「…ああ、うん。どこに行くんだろうね。…魔女には難しい問題だよね」

 ああ何ということだ。

 あの日…記憶を消したウィルと廃墟で会った日…!知らぬ間に大恥をかいていたなんて…!


「まぁ、そんな事はどうでもよくてさ、明日ドレイクに行くんだって?」

「どうでもいい…?こんな、こんな世界が一変しそうな大事なことが…!!」

「はいはい。それでちょっと……部屋で話そう」

「?」

 そう言えば周りには忙しそうに歩き回る制服姿がたくさんある。

 男の人も女の人も水色だ。

「…人に聞かれるとマズイから」

 ……?念話すればいいのに。


「あのねぇ、廊下につっ立って念話する事ほど不自然なことはないでしょ!!」

「…そうか!」

「はぁ〜………。シャロンに必要なのは講義とかじゃないんだよ。脳味噌の使い方とか、そういう根本的な……」

「…なによ」

 私の部屋に来るなり、テリーが人払いするように言った。

 よほど大切な話のようだ。

「とにかく!いい、しっかり聞いて。わからなかったら逐一質問する!いいね!」

「う、うん」

 

 人型のテリーが人差し指を立てて、教師みたいな立ち姿で喋る。

「君は明日ドレイクに行く。ウィルも一緒に。でもこれはお忍びだ」

「お忍び…?」

「そう、内緒で行くってこと」

 内緒?

「どうして内緒なの?ドレイクはフェザントの中でしょ?」

 テリーが溜息をつく。

「はぁ…。あのね、ドレイクは王都からすっごく遠いんだ。王都はフェザントの西端、ドレイクは東端、馬車でひと月かかる」

「ひと月!?」

「そう。ウィルの車では行けない。途中で燃料を入れられなくなるから。つまり……」

「つまり……」

「転移して行くことになる」

 ………?

「んー?え、最初からそのつもりだったんだけど…?」


 お猿…じゃない人型のテリーが青筋立ててる。何とも師匠に似てきたな…。

「…シャロン?君はどうでもいいとして、いや、もはやどうにもならない立場なんだけど、ウィルが誰にも知られずに出かけられるわけないでしょ!!」

「…え?」

「ウィルが動くって事は、人がたくさん動くんだ。だけど今回はそうはいかない。だからお忍びだ」

「ウィルは…一人で動けないの?」

「そうだよ。この王太子宮の中だけなんだよ。自由に歩けるのは」

「……!!」

「…君はまだ宮から出ないからね。とにかく、明日のことについて説明する」

 

 ウィルは…自由に歩けない?

 ここはウィルの家なのに?

 

 ウィルが呟いた〝羨ましい〟が何を指すのか、その輪郭がぼんやりと見えた瞬間だった。


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