83.夏の始まり
季節は初夏。
冬が長いフェザントの、短く穏やかな夏が来た。
「2人とも可愛い!!制服変えたの?」
「はいシャロン様。フェザント城は今日から夏でございます」
「夏服への衣替えです!」
「「姫様、似合いますか?」」
「衣替え〜素敵!2人ともフェザントでの宝物に加える!!」
「?」
白いブラウスに濃いグレーのエプロンドレス姿だった2人が、今日からは水色の半袖ブラウスに白いレースのエプロンドレスに変わっている。
師匠がいたら、人形コレクションに加えるって言い出すに違いない。
それにしても衣替え…。素晴らしい文化だ。
「実は私たち去年までは中央宮勤めだったので、もっと地味な制服だったんです」
一つ結びのマリーが言う。
「ここは蒼星宮ですもの!姫様のために特別に制服が変わったんですわ!」
三つ編みアリーが初めて聞く単語を言う。
「そうせいきゅう…?」
一つ結びのマリーが続ける。
「ええシャロン様。シャロン様が育ててらっしゃるたくさんの青い花が宮殿中を彩っているでしょう?出入りする官吏が呼び出したようですよ。蒼い星の宮だって」
「「枯れる事のない、不思議なブルースターの宮でございます」」
「あ…!」
ウィルから鍵を預かったあの温室は、かなりすごいことになっている。
毎日夕方に30分だけ、ディノが外で護衛をしてくれる中、植物図鑑で気になった花を取寄せ魔法で取り寄せては水魔法で水やりし、時には大規模に模様替えしたりして魔力を消費している。
ウィルが見に来るたびに季節感がすごいって笑っては、花を一房持って帰る。
…気になる花は、青い花ばっかりなんだけど。
「さあシャロン様、シャロン様も衣替えですよ。少しだけ軽くなりますね!」
「う…うん」
少しだけ布の量が減ったドレス…。
そうじゃない、そうじゃないのよ、私が欲しい服は…。
「姫様お美しいです〜!!黄色も似合いますぅ!」
「もっと衣装をお作りになればいいのに。私どもの意見だけではなく、シャロン様が意見を出された方が殿下もお喜びになりますよ」
「う、うん…」
だが、わからん!ドレスの良し悪しも、着る意味も!
…ローブでいいじゃん。
「さあ朝食です。殿下を待たせてはなりませんから、少し急ぎましょう!」
フェザント城にやって来て半年が過ぎた。
マナー教育はトータル71点で足踏み。学問の方は進みが良くて、実践とかいう過程に入っている。…さんすう以外。
「シャロン、グリーブ国の言葉がわかるって本当?」
「グリーブ?ああ、水晶の国ね。あそこは師匠が好きな美しい水晶が取れるからって、やたらと本を読まされて……」
「へえ!僕も同じ大陸にある国なら日常会話ぐらいは何とかなるけれど、さすがに真反対の大陸の国は難しいよ」
「そうなの?」
「そうだよ。行くのも船で半年かかるぐらい遠いから」
半年…。
「師匠は買い物によく行ってたよ。大きい水晶玉やら小さい数珠やらジャラジャラ買って来てはうっとりしてた」
「そうか…。羨ましいな、魔法使いが……」
何気ない朝食の席だった。
普段何かを羨んだり欲しがったりしないウィルが、ポツリとこぼした一言。
「…魔法使いが羨ましい?」
「そうだね。…色々と羨ましいこともあるよ」
「……………。」
「そうそう、それで語学の件なんだけど、陛下も妃殿下も喜んでいて、新しい教師を雇うって」
「え゛」
「…フフ、嫌そうな顔。でも教師が着くまでにしばらくかかるから……」
「…かかるから?」
「休暇だって。5日後から3日間」
きゅうか…きゅう…
「休暇!!お休みってこと!?」
ガターンと椅子から立ち上がる。
「こらこら、食事中は立ち上がらないんでしょ。フフ、よかったね。…何かしたいことある?」
ウィルが…ウィルがいつもよりキラキラして見える…!!
「ウィル!!私ドレイクに行きたい!!」




