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運命の相手は自分で探しましょう  作者: ぶくでん
フェザント城大忙し編
72/119

72.家出

「なんだい、ただの家出娘か。ったく人騒がせだねぇ」

 威勢のいい女の人は、名前をライラというらしい。

 町では鍛冶屋のライで通っているという事で、ライと呼べということだった。

 チャキチャキの職人さんだ。


「家出ってのはね、子どものやる事だよ。大人の真似事がしたい駄々っ子が、親に心配かけて終わるだけの遊びだね」

 ライさんの鍛冶屋で、なぜかビールを注がれている。

「ホラ飲みな。大人なんだろ?ぐいっとやりな!」 

「ぐ、ぐいっと……」

 実はわたくしシャロン、散々大人を自称してきたが、お酒を飲んだことがない。…マズそう。

「なんだ、やっぱり子どもじゃないか。子どもは家に帰ってママゴトでもしてりゃいいんだ」

 むむむ…。せっかく大人の姿になったのに、なんか負けた気がする……。

「どりゃー!!ゴクゴクっっ……うぇぇぇぇ」

 マズい!マズすぎる!!これなら毒消し薬の方がマシだ!!

「あっはっはっは!!あんた馬鹿だろ!!」

 ……ここでもそれか。


「で?何で家出なんかしたわけ?あんた良いとこのお嬢だろ?」

 イイトコノオジョー…?

「いえ、シャロンです。最近シャロン・クレスト…マクベルクになりました」

 ライさんが目を大きく見開く。

「シャロン?本物の?」

「…?偽物がいたんですか?」

「……ははあ。まいったねこりゃ」

 

 ライさんが手を額にあてて溜息をついている。

「あのー…ライさんは一人で鍛冶屋を?」

「あ、ああ、まあね。元は旦那がやってた店なんだ」

 元は…?

「旦那さんは……」

「死んだよ、8年前に。出会った頃からすでに病気でね。ここいらは見ての通り医者なんていやしないだろ?あっけなかったもんさ」

 出会った頃から病気…。

「あ、そろそろ時間だね」

 ライさんが時計を見る。それとほぼ同時に店の扉が開いた。

「ただいまー。あれ?母さん、お客さん?」

「お帰りショーン。そうだよ、お客さんだ。上にオヤツ用意してあるから、手洗って食べな!」

「やった!それじゃあ失礼します」


 行儀よくペコリと頭を下げた男の子の背を見送る。

「ライさん、今の男の子って…」

 小さいけれど、賢そうな男の子…。

「ああ、息子のショーンさ。…忘れ形見ってヤツだね」

「忘れ形見…?」

「そうさ。あの子が産まれたのは、旦那が死んだ後だったからね」

「ええっ!?」

 忘れ形見…って言うんだ。じゃあ私も…忘れ形見?

「…ライさん、ショーン君を産むの…怖くなかったの?…嫌だって、思わなかった?」

 ライさんが私をじっと見つめる。

「怖かったよ。怖かった。あの頃私もまだ若くてね。一人で育てられるのか、まともに親なんてできるのか悩んださ。でも…あの子は旦那が生きてた証だろ?旦那がやり残したことを、きっとあの子に託したんじゃないかと思ってね」


 やり残したことを、託す……。

 

「…託された人間は、どう生きればいいのかな。何をやったら…いいんだろ」

 ボソッと呟くと、ライさんが豪快に笑う。

「あはは!若者は自分の人生を目一杯楽しんだらいいんだよ。で、人生に少し足りなかったものは、あんたがまた未来に託せばいいんだ」

「私が…未来に託す」

「そうさ。人生は短いんだ。私らに出来ることなんてせいぜい一つか二つだよ。一つだけでも…覚悟を持ってやればそれでいいんじゃないか?」

「…ライさんがショーン君を育ててるように?」

「そうそう。シャロン、ホラ飲みな!」

「うっ…にっが」

「はいはい大人の仲間入り〜!田舎の安酒で悪いけどね!」

 

 田舎……。

「あっ!!しまった!ライさん、ここってどこですか!?」

 完全に忘れてた。私ほんとに家出してるんだった!のんびりお酒飲んでる場合じゃない!!

「ここかい?ここは知っての通り、フェザントとクレインの国境さ。東の湖の先がクレイン…泳いで帰るのはオススメしないね」

 国境………!!

 いや、ちょっと待て。

「え、帰る?どこに?」

「はー?あんた結婚が嫌で国に帰ろうとしてんだろ?見た事すら無いけど、うちの王子ってダメンズ?」

 だめんず…?

「ウィルがだめんずだと私は国に帰るの?」

「…は?」

「…私はクレインには帰らないから、多分ウィルはだめんずじゃない。…私が多分だめんず」

「…なんか…おもしろそうじゃないか!!ちょっと話してみな!!」


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