6.運命の相手占い
「こちらが失踪中の女性の氏名一覧です。…ちなみになんですが…見覚えは?」
「疑ってるでしょ」
「いえいえ、念のため、です」
嘘つけ。
胡散臭い男が依頼してきたのは〝尋ね人〟の占い。
まあ、私が言うのも何だが、そのものズバリの魔法である。
探す事が出来るのは〝人〟ばかりじゃないけれど。
男から差し出された紙に目を通しながら、書かれた名前を読んでいく。
「アイリーン、ソフィ、ナンシー、ララ…。んー…どこにでもある名前ね」
「(……だね)」
男が頷く。
「メイベル、ローラ、マンダリン…マンダリン?マンダリンマンダリン…マンダリン!!」
「見覚えが…?」
「ある!食べたいなって思った!」
「…そうですか」
「(アホ)」
「いや、そうじゃなくて、ちょっと待ってて!」
えーと、薄い記憶の中に確かにいた。マンダリンが。
私は黒い布で覆った占い机の引き出しから顧客名簿を取り出す。
「やっぱり!2か月前に占いに来てる!マンダリーン!ええっと、占った内容は……」
青い瞳の男が訝し気にこちらを見る。
「失礼ですが、そちらの名簿は?」
「これ?顧客名簿です。…いいですか、こういう商売は信用第一なんです」
私は声を落としてヒソヒソと話す。
「ですから、リピーターが来たときに前と占い結果が大きく違わないように記録してるんです。秘密ですよ?」
「………ありがとうございます」
「チュ…。はぁ〜……」
「マンダリンは運命の相手占いをやってますね。ん?アイリーン、ソフィ、ナンシー…あれ?メイベル、ローラ…。偶然てすごい!同じ名前がこんなに!へー!こんなことって…」
口に出した瞬間、男が声を荒げる。
「あり得ません!!シャロンさん、そんな偶然あり得ません!もう一度名簿と一覧を見比べて下さい!」
な、なによ、急に怖い声出さなくても……。
とは思いながらも、言われた通りに二つの書類をちゃんと見比べた。
「間違いありませんね?」
「はい……」
結果、7名全員の名前が顧客名簿にあった。
しかも全員が…運命の相手占い……。
「あーー!!」
私の叫びに男とテリーがビクっとする。
「運命の相手占い!!リーナ!リーナが!!」
「リーナ…それは昨日の彼女のことですか?」
「え?何であなたがそれを……」
とたんに男の目がすわる。
「あなた…私のことがわからないと…?言いませんでしたか…?また寄らせてもらう、と。お ば あ さ ん ?」
聞いたぞ聞いた!そのセリフ!昨日の夕方、帰り際ー!!
「リーナの恋人の…ウィロ!!」
「ウィル!はぁ〜…もう疲れた。私はウィルです。とりあえずリーナさんについて詳しく!」
「(…ウィルだって。テリー気づいてた?)」
「(シャロン、君が馬鹿だってことにはだいぶ前から気づいてたよ)」
「んなーんですっ……あ、リーナね、リーナ。リーナは今日最後のお客さんで、そう!あの子も運命の相手を占って欲しいって!」
「運命の相手…。あなたは何と答えたのですか?」
「ええと…確か、今夜、そなたの元へやって来る……」
ガタンッ!
突然立ち上がる…ウィル。
「相手はどんな姿だった!やって来る場所は!時間は!?」
「えっ、えっ?ええっと、時計は8時半、公園のような、木が生えてて…街灯が…」
「ーー!着いて来て!!」
「えっえっええー!!ちょっと、テリー!!」
「チュー(いってらっしゃい。僕ご飯の時間だから)」
「(はあーーっ!?)」
裏切り者ーー!!
腕を引かれて外に出される。
店の前にはなぜか自動車。え、これってすっごく高いんじゃないの?金貨で買うヤツ。
「ディノ!すぐ出せ!」
「閣下!?その子…」
「話は後だ!地図を!エリアは…六区…念のため七区も!急げ!」
「は、はい!」
走り出した車の中、用意された地図を目の前でガサガサ広げるウィル。ところどころ赤いペンで丸を書き込んでいる。
「シャロン、君が見た…占ったものは、時計、木、街灯、他には何かある?」
「他…?うーん………。」
てか名前呼び捨て?私の方が絶対年上なんだけど?
まあそれはさておき、腕を組んで足元を見ながら、とりあえずリーナに行った未来視を思い出す。
「リーナがいて…時計を見る。時間は8時半、間違いないわね。そこにシルクハットの運命の相手が来るでしょ、で、二人がベンチに座って…ベンチを街灯が照らして…あ、街灯はブドウみたいなヤツ。んー…あ、この木変な形だわ。切った人すごいセンス。あとは……」
ダメ、出て来ない。
首を振りながら顔を上げると、ウィルが目を皿のように開いて驚愕の表情を浮かべている。
「……うーん、ごめんなさい。出て来ない」
「いや、出てたでしょ……」
「え?何が?」
「いや、全部口に出てたよね!?」
「………あーーーー!!!」
テリーと話すいつもの癖がこんなところで出るなんて!!
あのお猿…何で来ないのよ!!