表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/119

54.目覚め

 寝ても寝ても眠い。

 夢うつつに枕元を見れば、相変わらずテリーが眠ったままなのが目に入った。

 そっと体に触れて、ちゃんと温かいことを確認する。

 こうする事で自分も生きているんだと実感する。そう、幼い時からの習慣なのだ。

 

 そう言えば、さっきの夢の中に師匠が出てきた。今みたいに微笑みをたたえた悪魔のような顔ではなく、なぜだか泣きそうな顔をしていた。

 そして誰かを責めていた。本気で怒っていた。

 …あの女の人は誰なんだろう。


 師匠の夢なんか見たら一瞬で覚醒しそうなものなのに、今日の私はやっぱり調子が悪い。

 寝ても寝ても…眠いのだ。

 





 混乱したままの頭を抱えて、僕はディノの運転する車で公爵邸に向かっていた。

 …なぜか助手席にグレゴリー殿を乗せて。


「グレゴリー殿、先ほどの話は一体何なのですか?あの言い方だと、まるで僕がクレインの姫に長年片想いして来たかのような……」

 後部座席からグレゴリー殿の後頭部に文句を言う。

「おや、違いましたか?どうもあなたの顔を見ていると、300年ぐらい叶わぬ恋に悩んでいるように思えたのですけどねぇ?」

 300年……

「ははあ、なるほど……。グレゴリー殿、お互い隠し事は無しにしましょう。あなたはギルバート・ウォーブルを知っていますね?」

 グレゴリー殿が顔半分だけ振り返りニヤっとする。

「ふふ、いいですね。やはりあなたを弟子にする事にします」

「ごまかさないで下さい!弟子になっても魔法が使えるようにはならないのでしょう?雑用係は御免です」

「おやまあ、ふふふ。そうですねぇ…あなたも秘密を一つ明かすというのはどうでしょう。…気になってるんでしょう?あの子の…年齢」

「!!」

 この人は…頭の中でも読んでいるのか?


「魔法使いには年齢なんて意味がないんですけどね、人間はそういう訳にもいきませんものね。ちなみに、あなたの許容範囲は何歳までなんです?あの子は…当然範囲外だと思いますけど」

 ……彼は本当に食えない。

「なかなか意地の悪いことをおっしゃるんですね。僕が気にしているのは彼女の年齢ではありません。彼女はちゃんとした…成人した女性なのか、まだこちらでいうところの十代の少女ぐらいなのでは無いかと、それを気にしているだけです」

「あ!確かにそれは困りますね。十代の子に長年片想いしていたなんて話になったら、あなたも変態の仲間入りですからね!ははは!」

 ……会話が面倒くさい。


「ウィル君、貴方の質問も、シャロンの年齢も、その答えは全く同じところに行きつきます。そうですね…シャロンもそろそろ知るべきなのでしょうね。…ギルバート・ウォーブルとリーシャについて」

 リーシャ…黒の家であの男が何度もその名を口にした女性……。

「ウィル君、あなたは賢い。おおよそ気づいているのでしょう?でもシャロンに話すべきか悩んでいる。一つだけ分からないことがあるから。違いますか?」

 やはり…頭の中を覗かれている気分だ。

「…私、欲しいものがあるんですよねぇ」

「……クレインにガソリンはあるんですか。それが無いと車は走りませんよ」

「……!あなた、私の頭の中覗きました!?」

 …やっぱり覗けるんだな、この人たち。




 


 テリーの公爵邸での目覚めは、事件から二日後の真夜中のことだった。

 そして私の意識の覚醒は、テリーの絶叫によって引き起こされた。


「ギャーーー!!」

「きゃーー!!って何て声出してんのよ!!……テリー?あなた目が覚めたの!?」

「ギャーーー!!」

「寝起き早々失礼しちゃうわね!!人の顔見て絶叫するなんて!!」

「……いやーーー〜〜!!」

 

 テリーの絶叫が響いたのだろう。邸内がにわかに騒がしくなる。

「ちょ、ちょっと馬鹿テリー!静かにしなさい!!」

 パニックで暴れ回るお猿を追いかけ回す。

「テリー、待ちなさいってば!!」

 ドタバタすること数分、部屋の扉がバターーンと開く。

「シャロン!何ですか騒々しい!」

 なぜか最近隣の部屋に住み着いている師匠が飛び込んで来た。

「し、師匠、ごめんなさい!テリーの様子がおかしくて…。あの子どうしちゃったんだろ。呪いがきつすぎたのかな………」

 謝りながら変態師匠の顔を見る。

「…師匠?何ですか、その顔」

 

 驚愕に見開かれた目、開きっぱなしの口、固まった体…。

 麻痺の呪いにでもかけられたかのように、フリフリレースのナイトキャップを被った気持ち悪い師匠は、部屋の入り口に突っ立っていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ