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46.残されたもの

「ついて来い。いいか、何か食ったら大人しくしろよ」

「ありがとう!」

 …やっぱり突破口はネギだった。というか色気が無い以上、食い気を全面押しにするしかない。

 …もっと雑誌の駆け引きハウツーコーナーを読んでおくべきだった。


「しかしなぁ、俺にはあんたは普通の子どもにしか見えないけどなぁ。ボスは何だってあんたにこだわるんだか」

 そりゃそうでしょうね。可愛い女の子に見えるようにこの数ヶ月努力してますから。

 少し違うな。老婆に見えるようにも努力したし、要は人間が逃げ出さないように努力してるっていう話よ。

 …特にウィルには嫌われたくなかったし。

 住むところと食べ物くれる人だよ?…好かれたいに決まってる。

 でももう無理かな。魔法の真髄に触れてから何故か魔力がどんどん増しているのがわかる。

 へっぽこ3人組をごまかし続けられるのも、きっとあと1時間てところだ。




 

「シャロンが着替えを申し出たって?」

「お師匠!そうなんだよ。シャロン風邪ひいてからやっぱりおかしくなったに違いないよ!」

 …せっかく心に灯した熱と怒りがプスプスと煤けていく。…緊張感が…続かない!!


「…ディノ、シャロンのベッド見に行こう。彼女があえて着替えたのなら何かしらの意味があるはずだ」

 …普段ちゃんと着替えてなかったか?

 昼はメイド服、寝る時は……まぁそれは置いておいて、出かけた時はそれなりに少女のような格好だったし…。

 ここに来る前は真っ黒なローブ、それからバニー…いやいや、頭が変になるな。

「ディノ、僕には二人が騒いでる理由がわからない。何か思うところあるか?」

「うーん…そうですね。実は一つ思い当たる事が」

「え?」

「主とシャロンちゃんが一緒にケーキ屋に行った日のこと覚えてますか?」

「ああ。…もちろん」

 …青い花を貰った日の事だ。忘れるわけがない。


「あの時僕、図書室でシャロンちゃんに『着替えておいで』って言ったんですよね。さすがにメイド服のままってわけにはいかないかな、と」

「まぁ…それはそうだな」

「そしたら彼女、根掘り葉掘り聞くんですよ。どんな服を着たらいいのか、どんな色がいいのか。僕もあんまりよくわからなかったから目についた雑誌の挿絵を見せて、これでいいんじゃないって…。そしたらその通りの格好で主と出かけて行きました」

「…つまり…何?彼女には服を着る習慣が無いってこと?え…クレインでは…はだ」

「ブッブー。ウィル君残念でした」

「……………。」

「シャロンだけじゃなくて、我々魔法使いには、あ え て 服を選ぶ習慣が無いのですよ。我々の正装はローブです。まあ、確かに来て行く場所によって格式がありますが、自分からわざわざ着替えることを口に出さずとも、相手が魔法使いならローブを羽織る姿に違和感なんか覚えません」

 …なるほど、よかった。…よかった?

「シャロンが残したローブを調べましょう。ウィル君の言う通り、何か意味があるのでしょうから」


「主、この鞄……中どうなってるんですかね。何でこんなに物が入ってるんですか?」

 シャロンの鞄の中からは、とめどなく物が出て来る。食器、大量の新聞、雑誌、筆記具、裁縫道具、いやもう全てだ。家の中のもの全て。

 手慣れた様子でグレゴリー殿が乱暴にひっくり返すと、ようやくドサドサと数着の服とローブが出て来た。

 あと、何故か大量の硬貨…。


「何ですか?この…服?」

「うさぎの服ですよ、お師匠!シャロンが働いてた潰れそうな店の制服です。…せめて猿なら可愛いんですけどね。うさぎなんて凶暴な生き物………うぇぇ」

「へぇ、人間は面白い事をしますね。我々なら変身魔法で本物になれるのに」

「「……………。」」

 なんだよ、ディノ。こっちを見るな。


「残っているローブは黒と青…あとは白ですね。これらはこちらで縫ったものでしょう。あの子は頭の作りの割に裁縫だけは得意で……」

「グレゴリー殿、シャロンはこちらにいる時はほとんど黒いローブを着ていたように思います。…老婆に擬態してましたから」

「なるほど。となると……テリー、シャロンがあえて着て行ったのは…灰色のローブですね?」

「…わかんない。何が起こってるのかよく理解できなくて…。でも見慣れた姿だった」

 着て行ったローブの意味は僕にはよくわからない。

 だけど彼女の持ち物で唯一足りないと思えたのは……

「人形が無い…」

 彼女が押収物の中からわざわざ持って帰った、あの人形。

 その記憶に辿り着いたのと、テリーが喋り出したのは、ほぼ同時だった。


『ねぇねぇ、ここってクレインなの?国外に転移できるなんて、あなた達すごい魔法使いなんだね!』


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