4.青い瞳の男
「むむむ……そなたの運命の相手は…今夜…そなたの元へやって来る……!」
今日も今日とて仕事はやる。
日銭暮らしはツラい。
「え〜!!ほんとうっ!?やっぱりぃ!なーんか彼の瞳ったら他の人と違っててぇ。リーナにもようやく春が来たってことね!」
昨日の恋人とは…掛け持ちなのだろうか。
なぜかリーナとかいう女は今日も占いにやって来た。脳裏に焼き付く昨日の…アレやコレやがチラつくが…運命の相手占いはやるしか無い。
…だって銅貨3枚もらえるから。
はしゃぐ彼女を見送ったあと、私はフードと覆面を取り外す。
「テリー!!今日はすごいよ、銅貨15枚!!やったー!!ソーセージじゃないお肉買いに行こう!!」
「へー、やるじゃんシャロン。昨日の取調べではどうなる事かと思ったけど」
「昨日のことは言わないで!」
昨日あれから帰って来た質素な部屋は、見るも無惨に荒れ果てていた。
憲兵どもが何を探したかったのかは知らないが、部屋中がひっくり返されグチャグチャだった。
別に指先一つで片付けぐらいできるが、汚したお前らがやらんかいっ!!という憤りは捨てきれなかった。
「それにしても人間って何で運命の相手なんか知りたがるんだろうね。知ったところでどうにもならないのに」
「……どういうこと?」
「えー?だってどの雑誌にも『彼は運命の相手でしょうか?』とか『運命の相手に出会ってしまいました!』とかそんなんばっかりじゃない?何でみんなそんなに知りたがるのかなーって思って」
「ああ、君が読んでる業界研究用のくだらない雑誌ね」
「…くだらないって言うな!そのおかげでこうやってお肉が食べられるんでしょ!!」
そう、私のたゆまぬ業界研究と人間観察の結果として、日銭を稼ぐために始めたのがこの占い屋なのだ。
ここ最近ようやくリピーターが来るようになってきた。
「人間は僕らと違って寿命が短いからね。手っ取り早く相手を探したいんじゃないの?」
「なるほどー……」
お猿のくせに賢いな。
カランカラーン…
ドアベルが鳴る。
「えっ!今日は千客万来!!お肉にフルーツもつけちゃお!」
「はいはい、んじゃがんば……」
そう、これは私のせいじゃない。
全てはお肉が悪いのだ。
「シャロン!!フード!!」
「え?」
振り返ったところで後の祭り。
「あれ?今日はもうお仕舞いですか……?」
「え?」
声の方を向いたところで一巻の終わり。
「あれ……?ここにお住まいなのは確か……」
なんで…なんでコイツがここに…
「…シャロンさんでしたっけ」
青い瞳の男…!!
「シャロンさん、夕べは大変失礼しました」
「はあ……」
胡散臭い笑顔を貼り付けた男が、勧めてもいないのに占い用の机に座っている。
「というわけで、貴女がシャロンさんで間違いなさそうですね」
「はい?」
「お返事なさったので」
「……………!!」
「……チュ(あーあ、馬鹿シャロン)」
「おや、この子はテリー…くん、でしたか。確かに、こうして見るとお猿さんですね。テリー君にも失礼しました」
「チュチュチュー!(シャロン!!こいつヤバい!目が笑って無い!)」
「(……私なんか顔すら笑ってないわよ!!)」
「(はぁっ!?)」
なんなの…この…性格の悪い人間は!!
負けられない!!こんなガキんちょなんかに修行の邪魔されてたまるもんか!!
「…営業許可取るときに……」
「はい?」
「変装しちゃダメだとは……」
「は?」
「書いてありませんでした!!なのでセーフですよね!?逮捕されませんよね!?」
「(アホかーー!!見ろこの男!目がまるで僕みたいじゃないか!!)」
「(何言ってんのよ!!そこさえクリア出来れば万事オッケーじゃない!)」
「フッ…フフッ…。そうですね。その件では逮捕されません」
「よかったー!じゃそういう事で、お引き取りを」
扉を指差そうとする私を、すかさず男が遮る。
「……その件では、ですが」
ニコッと笑うその顔は、魔女の私でも出来ないような、心の底から腹黒さが滲み出る、素晴らしい笑顔だった。