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35.クレインからの使者

 昨夜のことを思い出していた。

 殺風景なウィルの部屋に、まるで似つかわしくなく飾られた青い花。私が魔法で出した花。

 …ウィルの瞳と同じ色だと、ただ無意識に出しただけ。そう、無意識に…。

 だけど昨日の手紙の存在は、〝無意識〟なんてこの世界に無いのではと思うには十分だった。

 私はきっとギルバート・ウォーブルが〝あらかじめ〟用意していた部屋に住むことを決められていた。

 まるで誰かが未来を視ていたかのように。

 誰か、なんて決まってる。

 ギルバート・ウォーブルの手紙に返信したあの人。

 …先代の、クレインの女王だ。


 じゃあこの修行の意味は?本当に私が魔法を理解できていないから?

 …もしこの国に修行に来ることが予め決まっていたのなら?

 …私は、女王の視た未来をなぞっているだけ……?

 私に最初から選択肢なんてなかったんだとしたら、迎える結末は一体なんなんだろう。

 私は人生で初めて…魔法が怖かった。



「シャロン、いつもみたいにブワーッとやってよ!僕図書室行きたいんだけど。何チマチマ掃除してんのさ!」

「うるさいなー。テリーは肝心な時に役立たずなんだから、本より空気を読みなさいよね!」

「…何ちょっとうまいこと言ってんの。変なシャロン!」

 魔法を使わない私に何の価値があるんだろう。

 こうやって箒を使う掃除なら…私より早くて上手な人はいっぱいいる。

 勉強も嫌いだし、粉からパンも焼けない。

 …何でウィルは私をここに置いてくれたのかな。

「はぁ〜………」

「ちょっとシャロン!もうお昼になっちゃうよ!シャロン!…えっ、シャロン!?」

 もう…うるさいなぁ。こっちは考えすぎて頭がクラクラするっていうのに……

「シャロン!!」




 

「陛下、ウィルフレッド・ウォーブル参りました」

「おぉ、すまんな。当事者のお前も直接話を聞いた方がいいだろうと思ってな」

 

 滅多にない王宮からの正式な召喚状。

 宛名は陸軍大佐ウィルフレッド・ウォーブル。

 憲兵隊の代表としての召喚だ。


「…何か至急の案件でもありましたか」

「至急…というよりは、膠着状態の例のアレの件だ」

 例のアレ…黒の家だ。

「…隣国から共同捜査の依頼が来ておる」

「隣国?まさか………」

「ああ。…クレインだ」

「!!」

 クレインからの使者…!シャロンの国の…使者!



カッカッ!

 近衛が銃剣を床に打ちつける。

 賓客の訪れを知らせる合図だ。

「クレイン共和国国防省グレゴリー・マクベルク大臣、そして補佐官3名ご入場です!」

 ゆっくりと謁見の間の観音扉が開く。

 妙な緊張感で普段よりやや早く心臓が鼓動を刻むのを感じる。

 開ききった扉の向こうでは、深く頭を下げて一礼する男性が四名。

 彼らの頭が、ゆっくりと前を向く。


「…国王陛下におかれましては、急な訪問にも関わらずお時間を賜りまして誠にありがとうございます。…クレイン共和国にて国防大臣の任に着いております、グレゴリー・マクベルクでございます。以後、よろしくお願いいたします」

 シャロンの国の人間とは思えないほど丁寧な挨拶をする人物は、灰色の長い髪を緩く一つに結んだ、金色の瞳が印象的な…どう見ても30代後半にしか見えない不思議な人物だった。


「よくぞ参られた、マクベルク大臣。楽にされよ。えー…フェザント王国、リチャード・アールブルグ・ロストラム・ロイ・フェザントだ。こちらこそ宜しく頼む」

 陛下が…名乗った?

「…そして隣が陸軍大佐ウィルフレッド・ウォーブルだ。以後見知り置きを」

 陛下の紹介の言葉に合わせ頭を下げる。

 そしてゆっくりと顔を上げると、僕を凝視する金色の瞳と目が合う。

 まるで僕のことを昔から知っているかのように、逸らされることのない瞳に少しの違和感を感じるが、陛下の着席の声かけで現実に戻る。


 緊張の会談が今、始まろうとしていた。

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