25.現行犯
「ミステリー…ツアー…?」
「そ、そうなんですよ!知りません?大人気謎解きツアー!」
「だいにんき…」
イケるか…?
「な…なる…フ…ほど」
フ…?
「謎は…解けた?」
少しだけ柔らかくなった瞳のウィルが、私に微笑みかける。
「謎?あー…来た時よりも増えました。来た時は謎ゼロだったんですけどね、そこから倍々に増えていってます」
「フフ…そうですか。フ…ちょっと失礼」
ウィルが扉を開ける。
なんか…見覚えあるぞ、この感じ。
「ちょ、ちょっと僕無理ですって!腹筋弱いんですって!」
扉の向こうから現れたのは、どこかで見たことのあるディノだ。
「や、やあ!初めまして」
「…初めまして」
「あー…コホン、えーっと、とりあえず逮捕します」
「たい……はあ〜〜っっ!?」
「…現行犯なので」
「ゲン・コウ・ハン?そんな人知りません!私じゃないです!」
「…グッ…グ…ふーー…よし。建造物侵入罪で現行犯逮捕。とりあえず大人しくしといて、ね?」
な、な、な、なんでよーー!!?
舞い戻って参りました。
四方を厚い壁に囲まれた無機質な部屋。
見上げればやっぱり天井には格子状の木枠。
目の前には前回と同じ質素な机と卓上ランプ。
変わったのは…本当に逮捕されてしまった事だ。
だけど私には、テリー直伝の魔法の言葉がある。
「…名前教えてもらえる?」
それは、無理。
「黙秘…します」
ウィルの目が見開いたのがわかる。
「黙秘っていう言葉はわかるの?」
…ふふん、人間の国の魔法の言葉でしょ?
「…そう。じゃ次。住まいは?」
住まい…か。
「今は…地下に」
「…地下?地下室って事?」
あ、しまった。多分これも答えたらいけない気がする。
「えー…と、じゃ、黙秘で」
「…………。ふむ。じゃあこうしよう」
「え?」
ふと俯き加減だった顔を上げてしまう。
「僕は君に与えてあげられる情報を一つ持っている。…ギルバート・ウォーブルの正体だ」
あ…!そう言えば彼がさっきそんな事を…
「で、だ。情報交換というのはどうだろう?」
「…交換?」
「そう、交換。君の…名前か住所、どちらかと交換」
ーー!!
これは…乗ってもいい話なのか?
でも…でも、ギルバート・ウォーブルがクレインに関わりのある人ならば、私は知っておかなきゃならない。
あ、そうか。別に今寝泊まりしてる場所なんて話しても良かったんじゃん。ただの地下道だし。よし!
「わかりました!じゃあ今住んでる所と交換して下さい!!」
…だから何でこうなる。
『地下道…地下道!?君が!?』
『はあ、まぁそうですね』
…寝る時は姿くらましの魔法かけてますけど。
『案内して』
『はい?』
『今すぐ!そこに!案内する!!』
逮捕されたはずなのに、牢屋じゃなくて車に詰め込まれ、私は王都西エリアと北エリアの間を走るメインストリートへと向かっていた。
憲兵隊の事務所はどうやら西〜中央エリアの付近にあるらしい。ふふふ、私…賢くなってる。
いかんいかん、そんな事を考えている場合じゃない。
だって…目の前のウィルは…完全に機嫌が悪い。
ただでさえ黙って静かにするのは苦手なのだ。ここはお姉さんである私が場を和ませるしかない。
「あのー…とりあえず逮捕されてみたんですけど、ゲンコーハンって何だったんですか?」
お、ウィルの目が開いた。
「建造物と侵入は何となくわかります」
「…他人の建物に勝手に入ってる所を、僕らに見つかったってこと」
僕らに……。
「じゃあ他の人になら見つかってもいい?」
「…それでも現行犯なんだけど…いやそうじゃなくて、他人の建物に勝手に入ったらだめでしょう?だいたいどうやって鍵開けたの。あそこの扉完全に施錠されてたよね?」
うっ、ヤバい話逸らさなきゃ!
「あ…ツアーでもダメ?」
あれ、ウィルが今度は横向いた。
「…例え… 大人気ツアーにたった一人だけで参加してても…だめ」
「……………。」
はい、理解しました!この二人…最初から逮捕する気だったんじゃん!さてはまた笑ってたな!!
もー…何で毎回こうなるのかなぁ。
何がいけないんだろ…。




