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22.恋と結婚

 王都の図書館は圧倒的な大きさだった。

 ここにある本を全部ひっくり返したら、さすがの私でも一瞬で片付けるというわけにはいくまい。

 児童書、一般図書、学術書…本好きなら堪らない空間なのだろうが……

「シャロン、ここからここまでの全部お願い」

「あ、うん」

「シャロン、最大出力のメモライズお願い」

「あ、うん」

「シャロン、静かにしてて。出来ないならその辺で絵本でも読んでて」

「あ…ああん?」

 本の前では私は猿より立場が弱い。

「ったくわかったわよ!テリー、その席から動いちゃダメよ!」

 静かにするのは苦手だ。だから仕方ない。

 もう大人だけど絵本でも……はぁ情け無い。


 だだっ広い図書館をひたすらウロウロする。

 ふと足を止めた目線の先には、膨大な『恋愛小説』が並べられた書架。何とまあ、この本の数だけ世の中には恋やら愛が存在するというのか。

 一切興味は無かったが、何となく手に取りパラパラとめくる。

「ふむふむ、なるほど。ストーリーの流れはいずれも同じ。ヒーロー、ヒロイン、ライバル、ハッピーエンド。そして…運命の…恋……」

 運命の恋?運命の相手とは違うもの?あれ、私確か…。

「あーーー!!!」

「ちょっとそこのあなた!図書館ではお静かに!」

 見ず知らずのトンガリメガネのお…姉さんに叱られてしまった。

「すみませーん、ちょっと本に虫が…」

 しまったしまった、叫ぶ癖治したつもりだったのに。

 

 そうだ、私は未来視を失敗して修行のやり直しになったんだ。

 確か視るべきものの条件設定が違うっていう結論に至ったはず。

 『運命の恋』が先にきて、その恋をする相手が『運命の相手』だとしたら、視るべき未来は『恋』の方になる。いやしかし、それが運命だなんてどうやって結論付けるんだ。

 グルグル回る考えをまとめきれずに、私は適当に書架から数冊の本を抜いてテリーの元へ戻った。

 隣の席で一心不乱に恋愛小説を読み耽る私を、テリーが生暖かい目で見ていたことなんて一切気づかないほど…とりあえず夢中になっていた。



「うゔ…グスッ…まさか、こんなキラーパスみたいな展開があるなんて…グスッ」

「…まーたお馬鹿な事言ってる」

 図書館からの帰り道、私とテリーは今日読んだ本の内容について、ああでもない、こうでもないと一頻り議論を交わしていた。いや、私が一方的に喋っていた。

「だって…ハッピーエンドが定石だから安心して読んでたんだもん。何であそこでジョルジュはレイラを選んだの!?リリアは運命の相手じゃなかったの!?」

「…その下りだけで話の大筋はわかった気がする」

「運命の相手って、運命の恋をする相手じゃないの?もう訳がわからない……」

 ここが理解できないと…未来視は…使えない。


「シャロンにはまだ早いんだよね。はっきり言って。恋と結婚は別物なんだよ。結婚してても、違う相手がいるなんてザラじゃないか」

「えっ」

「そのあたりは自分で経験するしかないね。…君はまだ、魔法使いの国では…ヒヨコなんだから」

「……でもこの国ではお婆さんより年上だもん」

「…あのねぇ、年齢の問題じゃないって知ってるでしょ?君は何十年間赤ちゃんだったと思ってるの?その間僕がどれだけ迷惑を被ったか……」

 ぐぬっ…このお猿…!


「君の修行には基本的には口を出さないように師匠から指示を受けてる。だけど一つだけ…。君はようやくこの修行の最大の目的に近づいてる」

「最大の…目的」

「僕はずっと言ってるよね。君は魔法ってものがさっぱりわかって無いって」

「……でも使えない魔法なんて無い」

「そこだよ。ヒントは、恋と結婚は違う、ってこと」

「恋と結婚は違う……」

「さあ頑張って!シャロンが本当の大魔女になる日が楽しみだなー!」

「…ぐぬぬぬ!」


 お猿は…厳しい。


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