21.天職を得たり
「はーい、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!世にも不思議なマジックショーだよ!種も仕掛けもありませ〜ん!あ、そこのお姉さん、興味あるでしょ?いいんですよー、隠さなくて!」
「ええ〜、どうしよっかな〜。じゃあちょっとだけ…」
我、天職を得たり………!!
いまだに宿無しの私とテリーではあったが、つい最近画期的なお金稼ぎの方法を思いついた。
馬鹿だ馬鹿だと言われて来たが、私にはそっち方面の凄まじい才能があった。
だって…魔女だもん!!
私は明らかに年下のお姉さんの前で、この間までの商売道具だった水晶玉をこれ見よがしに取り出した。
「いいですか〜?この水晶玉、おかしな所ありますか?確認して下さーい!」
お姉さんに水晶玉を手渡す。
「普通…?よね?」
お姉さんが一緒に来ていた友だちと水晶玉を調べている。
そりゃそうだ。普通の水晶玉だし。
「ふっふっふ、ではお姉さん。その水晶玉に念を込めて下さい!消えろー消えろーですよ!」
「ええ?私が!?えー…と、消えろー消えろー…?」
お姉さんの言葉に合わせて、私は水晶玉に消失魔法をかける。
「きゃっ!!えっ!?消えた!?」
「すご〜い!お姉さん魔法使いだったんですね!でも困ったなぁ…。あれ、私の商売道具なのに……」
弱りきった顔をして、今度は自分の左手から水晶玉を現す。
「あっ!お返し頂きありがとうございましたー!」
恭しく水晶玉を左手で掲げ、右手を胸に深く御礼のポーズをする。
一連のショーを見ていた観衆からは、やんややんやの大喝采。
その観客の合間を、子どもに変身したテリーが帽子を持って駆け回る。
「テリー!!私、私……ここで生きていけるわー!!」
今日の稼ぎを前に、私は大はしゃぎだった。
「シャロンってお馬鹿だけど、こういうところ尊敬するよ」
余計な一言を言わずにいられないお猿が、可愛い子ども姿で稼いだお金を鞄に詰め込む。
私の家財道具一式が入った、魔法の鞄に。
「家が無いなら外でできる仕事を探せばいいって思ったの。そしたらこの公園で大道芸やってて!混ざっちゃえば大丈夫かなって!」
「まぁ確かに、スキルを活かした成果だとも言えなくはないけど……」
「なーによ、この仕事のいいところはアチコチ転々としながら出来るところでしょ?ほら、テリーの行きたがってた王都の図書館行くよ!」
私たちは今、王都北方面、いわゆる学術区と言われるところにいる。
自分一人だったら間違いなく足を踏み入れないエリアだが、真面目なお猿はとにかく本が読みたいらしい。
テリーは賢い。昔から。
私たち魔女は、全く同じ日に産まれた動物を使い魔として与えてもらう。
産まれたてで目も見えない頃に主従の契約をし、私の魔力を浴びながら育ったテリーは明らかに他の使い魔より優秀だ。
それすなわち私が優秀だってことなんだけど、いかんせん主従逆転気味なのはなぜなのか。
「テリー、今度は何調べるの?」
図書館への道すがら、人型のままのテリーに話しかける。
「この国の統治機構はあらかた頭に入ったからね。次は法律関係を片っ端から読もうと思ってる。クレインに帰ってからも役に立つだろうし…。シャロン?」
「………………。」
クレインに必要なのは、私ではなくテリーなんじゃなかろうか。私に国の舵取りなんて…無理でしょ。どう考えても。
「テリー、長生きしてよね。それで死ぬまで私の役に立ってね」
「…それ脅迫?シャロンも知ってるでしょ。僕たちは運命共同体だ。僕に長生きして欲しいなら、君が長生きするしかないね」
可愛い姿をしているが、あくまでも小憎たらしい私の使い魔。
「それよりシャロン、修行期間も後半なわけだけど、やり残したことないの?」
やり残したこと…。
「あ!そういえば私、何かやらなきゃならないんじゃなかった!?」
「………やっぱり馬鹿のままだったね」
何か…何かを忘れている。
「天職を得ている場合じゃなかったかも……」
「ま、これはこれ、それはそれでいいんじゃない?お肉食べられるの助かるし」
「う〜む……」
そんなくだらないやり取りをしながら、美しく舗装されたレンガ道を歩く。
「テリー、歩くのしんどい?魔法解除しようか?」
「二足歩行のレンガ道は腰に来るよね。でもこの姿の方が本が堂々と読めるから、ちょっとの辛抱だよ」
テリー…!!なんていたいけな子…!!
「頭の中の馬鹿さ加減が顔に出てるよ。さっさと歩いて」
「………かわいくない」
ほーんと、生意気なんだから。




