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20.小さなカケラ

「あるじ…いえ、閣下、とりあえず抱えていた全ての案件が片付きましたね。はい、これが連続美女失踪事件、こちらが謎の美少女行方不明事件。あとこれが…黒の家の最近の動きです」

「ああ……」

 表向き部下であり、自分の子飼いで護衛でもあるディノが、ドサドサと私が座る執務机に書類の束を積み上げる。

 

 王都憲兵隊…市民向けには警察であるこの組織だが、実態は内務省管轄の国軍だ。

 有事の際には軍隊として出兵するし、平時でも…軍の取締や治安維持のため、ありとあらゆる活動を行う。

 僕は若い身でありながら、その生まれに由来して大佐としてこの組織を預かっている。

 

「どちらの事件も黒の家とは関係無かったですね。よかったのか悪かったのか…」

 黒の家…。

 今最も国王陛下を悩ませる、目下最優先で排除すべき存在。奴らがこの国の地下経済を牛耳っている事は分かりきっている。違法賭博、薬物、武器の密輸入、人身売買…ありとあらゆる犯罪の裏では、必ずこの組織に行きあたる。

 なのに…あと少し、もう少しというところで、まるで煙に撒かれるように、その尻尾を掴み損ねてしまう。

 今回の事件も、7人もの女性が消えたという異常さから、黒の家を追う僕の管轄になった。


「…短期間でえらく詳細な裏付けが出来たな」

「そうですね、うちの部隊もそれなりに優秀って事ですかね」

 …優秀は優秀だろう。僕が陛下から預かる部隊だ。というか優秀でなければ困る。

 だがこの報告書はまるで情報提供者がいるような…。

「この事件…犯人逮捕のきっかけは、最後のカロリーナ・バーンズの件だったな。僕もその現場に…立ち合った…?」

 そう、この数週間というもの、何かを思い出そうとする度に頭に霞がかかったようになって、何を思い出そうとしたのかさえわからなくなる。

 確かに僕は犯人逮捕の現場にいた。

 …でも、何故?


「そういや閣下、この美少女誘拐の件なんですけど…何か変なんですよね」

「変…とは?」

 ディノが指差す箇所を覗き込む。

「ここ、ここです。行方不明の届けが出されて、その後無事に所在を確認。そりゃそうなんですけど、所在確認したの閣下になってますよ。美少女絡みの事件に僕を呼ばないなんて変でしょ?」

「…僕が……確認」

 王都西第六区で急に姿を消した少女。

 最後の目撃場所は…レイヴン通りの…廃墟…?いや、あそこは占い屋で……占い屋……。

 そうだ、占い屋だ。僕はそこに最後の被害者、カロリーナと行ったはず。だから…逮捕現場に立ち合って…いや違う。違う!少女が無事なことを確認して…。

「大丈夫ですか…?」

「ああ…」


コンコンッ

 執務室の扉がノックされる。

 ディノが扉の外で書類を受け取ると、紙を捲りながら私の目の前に立つ。

「あれ?この店の事件もう解決してる。内偵先にピックアップしてたんだけど。あ〜バニー見たかった!!」

「バニー…?」

「あ、閣下も興味ありました?ウサミミいいですよね〜!ポニーテールにウサミミとか萌えですよ!」


ガタンッ!!

 思わず立ち上がれば椅子がひっくり返る。

「閣下…?」

「僕は…彼女に会ったはず。間違いなく会ったんだよ。なぜ何も出てこない…!!」

「か、閣下!?」

「お前だって会ったんだよ!この事件の全てで!!」

「会ったって…誰に…」

「被害者で、加害者で…情報提供者……」

 それだけか?それだけだったか?

 そう、会ったのは間違いなく〝彼女〟だ。

 彼女に会うたびに何かを思ったはずなんだ。


「ディノ、車出してくれ!」

「は、はい!どこへ…」

「確かめたい事がある」


 無くしたものがあるならば、拾い集めるしかない。

 どんなに小さなカケラだって。

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