15.視えたもの
私の顧客名簿。
占った相手の名前と、占いの種類を書いただけの簡単な名簿。
だけれどこれには秘密がある。
名前を書く時のインクに私の記憶を溶かしてあるのだ。
彼らの前でこれをやるべきかどうかはわからない。
だけど、必要なのは客観的証拠。
それを私の記憶から探すのは…彼らの仕事だ。
「私が彼女たちに頼まれたのは、〝運命の相手〟を探して欲しいという占いです。だから私は…彼女たちのことを…自分の運命の相手だと信じている人間を探しました」
「ええとシャロン、君が言っているのは、女性の事を運命の相手だと思いこんでいる男を探した、という意味?」
当時はそうは思っていなかったけれど、事実、そうなのだろう。今となっては…ものすごい勘違いだった。
だから私は頷くしかない。
「お二人に一つだけお願いがあります。今から私は7人分の女性から視えたものを口に出していきます。喋っている間私はメモを取れません。だから、記録はお二方で取って下さい」
そう述べると、ウィルとディノは怪訝な顔をしたが、こくりと頷くと紙とペンを用意した。
「…始めます」
あとは…野となれ山となれ、だ。
「クレイン歴4238年6月18日来店。アイリーン、本名アイリス・コナー、31歳。王都西第五区パロット通り24の〝ジュエル〟に来たシルクハットの男。6月25日シルクハットと海の側の公園。近くに白いヨット、夕方4時…そこでダイヤの指輪。次、クレイン歴4238年7月4日来店。ソフィ、本名ソフィア・ジェンナー、33歳。王都西第五区カナリー通り19〝パラダイス〟に来たシルクハットの男。7月10日シルクハットと劇場。愛の逃避行、19時開演…帰りにダイヤの指輪……」
あなたたちがどんな顔をしているかは今は見ない。
…どうせ怪物を見るような目をしてるんでしょ?
「…これで最後。クレイン歴4239年11月30日来店。リーナ、本名カロリーナ・バーンズ、28歳。王都西第七区ピーコック通り8〝ララバイ〟に来たシルクハットの男。その日の夜、8時半、変な形の木と街灯の公園、シルクハットからダイヤの指輪……」
喋り終わった私はテーブルの上のお茶を乱暴に掴むと、グビグビ飲んだ。冷めたお茶が喉に清々しかった。
そして…ゆっくりと顔を上げた。
並んでいたのは…真剣な二つの顔。
あれ?怪物を見るような目は?
「シャロン…君は…天才なのか…?」
「はい?」
「シャロンちゃん、なぜ普段は馬鹿な振りを…?擬態…?」
「はい!?」
「シャロン…これはすごい情報だよ。時系列に並べれば被害者達が男と出会ったのは、君の占い屋に行く前だという事がわかる。あとの裏付け捜査は僕らの仕事だ」
「はあ〜、シャロンちゃんがいれば憲兵なんかいらないんじゃないですか?」
彼らの話は途中からどんどん専門的になっていって、私は途中で理解する事を諦めた。
…魔女だっていうことはバレたんだろうか。
「シャロン、ありがとう。疲れたよね?夕食、本邸の方に用意させるから一緒に食べよう。…クレインの料理は、今度ちゃんと準備するね」
「!!」
「シャロンはクレイン出身だったんだね」
「え、え、何でわかったの?」
「…それは馬鹿な振りなの?それとも本気…?君の名簿、暦が全部クレインのものじゃないか」
「……はっ!そこか!!」
「……なるほど、紙一重ってヤツか…。ま、僕は君がもっと遠い国の出身だと思ってたから案外近くから来てたことが意外だったけど」
何ですと?今何とおっしゃった?
「…クレインが、近くの国…?」
「そうでしょ。だって湖挟んで隣じゃないか」
クレインが、魔法使いの国クレインが、この人間の国の隣………?
そんなバカなーーー!!!




