14.客観的証拠
「ウィルは知ってるじゃないですか!私が占いで犯人を視たこと!」
ていうか、あんたが私に占えって言って来たんでしょ!?
〝尋ね人〟はやらず終いだったからお金だって返したじゃん!
そう心の中で悪態をつくが、ウィルの表情は冴えない。
「そうだね…。僕は君が占いをするところを見たこともある。リーナさんへの最初の占いの時、君には何かが見えていると確信したんだけど……」
リーナの最初の時……。
あっ!!ヤバいヤバい、消えろ〜記憶よ消えろ〜…!
ダメだ、記憶を消すには魔法を使わないと!
あー!頭の中で脱がないで!ダメダメ、あの映像が!!
「…何かシャロンさん真っ赤じゃないですか?暑いですか?この部屋よく暖房効いてますもんね」
「う、うん、あ、いいえ。大丈夫、大丈夫デス」
ウィルが悪戯気な顔をする。
「フフ…君が何を見たのかは聞かないでおいてあげるね。とにかくその件があったから、何かのヒントでも得られればと思って君を訪ねたわけだ。そう、結果は大当たり。あとはご存知の通り事件は無事に解決した」
だったらもう私の容疑は晴れたも同然じゃないか。
「…なんだけど、外形的にはそう映らない。占いで犯人を見つけてもらいました、なんて誰も信じてはくれない」
「………………。」
「客観的な事実として存在するのは次の二つだ。一つ、7人の女性は全員君の店に行っていた。二つ、君は犯人を知っていた」
「…何が言いたいんですか」
「怒らないで聞いて。憲兵本部は、君が、犯人に、女性を紹介していた…つまり君と犯人がグルだと考えている。…人身売買だ。その疑念が解けないからヤツはまだ裁かれずに…留置されたままだ」
バッと立ち上がる。怒りで頭が沸騰しそうだ。
私があの暴力男に女達を売っていた?あんな…あんな男に!?魔法も使えない弱い女たちを…なんで…なんで…!!
「…ごめん、泣かないで。…言い方がきつかったね」
なぜか隣に移動してきたウィルが、私の頭をポンポンと撫でる。
悔しくて、悲しくて、瞬きしなくても涙が頬を流れるのが自分でもわかる。
「だから…教えて欲しい。君が女性たちの何を占ったのかを。そこに何かが見つかれば、ヤツを必ず裁きの場に送れる。必要なのは、客観的な証拠だ」
ぼやける視界でウィルを見る。
「はなしたら…ほんとうに、あの男を……」
「…約束する」
占った内容なんて一つ一つ覚えてはいない。でも…。
「…待ってて。ちょっと必要なもの取ってくる」
アレが私に教えてくれる。私の記憶を写したアレが…。
二人の視線を背に受けながら、フラフラと別棟に与えられた部屋へと向かった。
「あるじ…またあの子泣かせちゃいましたね。ワザとなんですか?」
「わざとなわけないだろう。誰が好き好んで……」
ディノの言葉に思わず言い訳じみた台詞を言う。
まあ本当は、彼女泣くかな…?とは思ったけどね。
彼女はおそらく、あんなに治安が悪い場所で暮らしていた割に暴力の場面を見た事がないのだろう。
暴力だけでは無い。男女の色事に関しても全く知識が無い。
だから…変なんだ。
箱入り娘も世の中にはいる。けれど箱入り娘がなぜあんなあばら家で占いなどして暮らす必要がある。
一番納得がいかないのは…やっぱりどう考えても16、7の少女だとしか思えない所だ。
聞いても答えは得られないだろう。ならば自分で確かめるしかない。
「お待たせしました。…これが、多分役に立ちます」
中座した彼女が持って来たのは、いつぞや見た顧客名簿。
そんなもので半年以上前からのたわいもない会話が思い出せるのだろうか。
だとしたら凄い才能だが…客観的証拠にはなり得ない。
そんな事を考えながら聞いた彼女の言葉は…驚嘆の一言だった。




