118.エピローグ
後世の歴史家は大いに戸惑い、そして王家の子孫は大いに感謝することであろう。
長いフェザント王国の歴史の中、あらゆる革命的出来事が起こった稀な時代において、それを成し遂げた王について書かれたのは歴史書にたった一行のみ。
「父上、どうしてウィルフレッド王はたった一行しかご自身のことを残されなかったのですか?」
「いやいや、手記が残っておるだろう」
「…王妃との恋愛小説じゃないですか」
「いやいや、なかなか良い出来じゃ。読み応えがある」
「…どうにも成し遂げた偉業との落差が激しくて、納得出来かねるのですが……」
「時が来ればお前にもわかる。儂も歴史書に残す一行はすでに決めてあるからな!」
「どうせ〝ウィルフレッド王に生き写しのような王だった〟と残すのでしょう?彼より後の王は揃いも揃ってそればかり……」
「何を言うか。儂は〝シャロン王妃にそっくりの美丈夫だった〟と残すのだ!…数少ないシャロン王妃の言葉にな、『心の底から好きな人に出会えたら、その人を運命の相手にするために努力するのよ』というのがあってじゃな、儂はその言葉を励みにお前の母に5回求婚して…」
「あ、その話は62回ほど聞きました。あと、歴史書で詐欺を働くのはいかがなものかと思います。父上はどう考えてもロストラム本流の顔です」
「……………。で、留学の準備は済んだのか?」
「ええ。師匠には明日の朝着くと伝えてあります」
「…グレゴリー高祖父によろしくな」
「最新のカメラを持って行きますよ」
ウィルフレッド王とシャロン王妃について国民が知ることができるのは、三男二女をもうけ、仲睦まじく暮らしたことのみ。
だが彼らが残したものは、今日のフェザント王国に色濃く受け継がれている。
国はますます開かれ、近隣国との人材の行き来はもはや当たり前になったこと。
海路の整備と大型船の改良が進み、裏側の大陸との貿易が始まったこと。
国内の医療水準の大幅な向上が図られたこと。
…魔法使いの存在が、御伽噺ではなかったことが明らかになったこと。
数え上げれば切りはない。
しかしその稀有な時代の王について残された記述はたったこれだけ。
『健康に気をつけ長生きし、王妃とともにドレイクの地に埋葬された』
ドレイクの陵墓では、2つ寄り添うように並んだ石碑の周りで、枯れることない青い花が時を経た今も咲き誇っているという。




