117.いつまでも
結婚披露の晩餐会は、さすがという他ない豪華さだった。
正装で着飾ったフェザントの貴族と、これまた輝く黒いローブ姿のクレインの王族…だからあなたたち誰…が一堂に会し、ずらりと並べられた長机で賑やかに語り合っている。
「…シャロン、眉間、眉間!……クッフフ、ちょっと笑わせないで…!」
「む〜……。納得いかない!なんで私はダメなのよ!」
ウィルの青い瞳と私の銀色の髪に合わせた、それはもう豪華なドレスに身を包み、頭に重たいティアラを乗せ、首がもげそうなほど重いネックレスで着飾った私は…とりあえずご機嫌斜めだった。
「…僕は約束を守っただけ。フフ、ちょっと本当にその顔…!!」
「ぶー!透き通る魚を目の前にして一口も食べられないなんて……!!何でこのタイミングで約束破った罰が来るの!?」
ウィルはその抜群の記憶力で、いつぞやの約束の透き通る魚を晩餐会で出してくれた。
…出してくれただけ。並べられてはいる。手を出してはいけない。
「…フフ、後で軽食が出るから、その時にね。ほら笑顔笑顔!」
うー、ウィルってばやっぱり腹黒なんじゃないの!?
全ての行程を終え私室に戻った私を待ち受けていたのは、ニコニコ顔の双子と、いつもは見ないメイドたち。
「さあ姫様、最後の仕上げですよ!磨いて磨いて磨きあげましょうね!」
「えっ!まだ何か……」
「シャロン様…?とぼけたって無駄ですよ!エマニュエル夫人からみっちり講義を受けられたのは知っておりますからね!さあさあお風呂へ行きましょうね!」
「ひ〜っっ!!」
…という訳で、今夜まで開かずの扉だった薄暗い隣室にポイっと放り込まれ、私は…ウィルを待っている。
何をするかなんてこの1週間で耳にタコができるくらい聞かされた。
最初はびっくりしたけれど、よく考えたらアレがこのことだったということが、何で150年も私の耳に入って来なかったのか、そっちの方に驚いた。
…情報操作に違いない。私が馬鹿だからでは決してない。
思えば色んなことがあったな。
ウィルと初めてちゃんと会ったのは、憲兵事務所。老婆姿で取調べ受けたんだよね。…笑われてたんだけど。
次にあの占い屋。初めて銀貨もらったんだよね。美女の事件を解決して……。
空中に魔法で記憶の欠片を取り出す。
次に会ったのはうさぎのお店。…怒られたな。それから公爵邸で暮らし始めて、テリーが猫に追いかけられて…。あ、ケーキ屋も行ったんだった。
「ああ懐かしいね。それなんて言う魔法?」
「わっ!」
突然の声に肩がビクっとなる。
声の方を振り返れば、ウィルの青い瞳が私の記憶の映像を懐かしそうに眺めている。
「ウィ…ウィル。ええとこれはね、思い出の欠片を取り出してるの。しっかり覚えてることしか取り出せないんだけど……」
「へえ…!あのペンとは違うもの?」
ウィルがベッドの隣に座る。
昼間の軍服姿もカッコよかったけど、やっぱりいつものシャツ姿が安心するな。
「ああ、この時シャロン泣いてたよね。…コイロク公園で」
「えっ…?そうだった…?」
「うん。…多分あの時君が気になり出したから、よく覚えてる」
「そうなの?…知らなかった」
「思えばあれが始まりだったな。幻のように消えてしまう君を探しては、見つけるたびに好きになって……」
「…見つかるたびに怒られてた気がするんだけど」
「ははは!まぁ…必死だったんだよ。…でもようやくここまで来た」
ウィルの青い瞳が私を映す。
「シャロン…僕の前に現れてくれてありがとう。…結婚してくれてありがとう。…ちゃんと伝えてなかったと思うんだけど、君のこと、心から愛してる。君と一緒の墓に入ったその後も、ずっと…変わらずに……」
ウィルの最後の言葉は口付けとなって、思い出の欠片とともに私の中に消えていった。
ウィル…私もだよ。
いつもあなたを想ってる。
私を包むその腕も、髪を撫でる手のひらも、今日は少しだけ意地悪なその口も、全部全部愛してる。
だから私を映していて。
その青い瞳に、いつまでも……。




