113.領主
改めて巡るドレイク村は、前回より少しだけ賑わっていた。
橋の工事に携わっているのだろう、たくさんの職人らしき人たちとすれ違う。
そして一番私の目を引くのは…
「ウィル、ウィル!あの子魔女だよ!あ、あっちに魔法使い!」
信じられないことに、ドレイク村でたくさんの魔法使いや魔女とすれ違う。
感じる魔力は弱いから、きっとポポロの村の人たちなんだと思う。
「あぁ本当だね。…ローブって何色でもいいの?」
「ん〜…黒が一番格式が高い以外、特に決まりは無いと思う。私はクレインにいた頃はほとんど灰色のローブだったよ。師匠に弟子入りする時にもらうんだ」
「ああ、弟子入りの証ね」
「そう。師匠と大喧嘩して、ピンクのローブ着たこともあったなぁ……」
くだらない思い出話とともにドレイク村の中心まで歩く。
前回は気が付かなかったが、村の中心の外れには、鐘と石碑がひっそりと立っていた。
「…これ、クレインの古代文字!」
「やっぱりそうなんだね。村の人たちにお願いして、石碑やそれに似たものを探してもらおうとしたんだけどね、みんな口を揃えてこれしか無いって言うから……」
間違いない。
これはギルバート・ウォーブルの墓碑……。
『約束を果たせぬまま旅立つことを許して欲しい。在りし日の思い出とともに。 ギルバート・ウォーブル』
「…………ヒクッ」
「……シャロン」
「…ウッ…ヒクッ」
今だからわかってしまう。
好きな人と一緒にいられる幸せを知ってしまった今だから、強く強くわかってしまう。
もう一度会えるかどうかもわからない相手を、ずっと想い続ける痛みと苦しみが……。
「…ギルバートさん、……お父さん、遅くなってごめんなさい。…お母さんを連れて来れなくて…ごめんなさい……」
あなたのことを…何も知らなくてごめんなさい。
私はあなたに似ていますか?
ウィルと王様と王妃様みたいに。バートさんとディノみたいに。
…お母さんに、似ていますか?
私が小さく嗚咽を漏らす横で、ウィルが静かに目を閉じていた。
何かを祈るように、何かを誓うように……。
気がつけば、広場では大勢の人たちが私たちを待っていた。
「シャロンに王子、久しぶりだね!見ておくれよ、ショーンの怪我!あんたらのおかげでこの通り!」
声の方を見れば、前よりも少しだけ袖と裾の長い服を着たライ師匠と、すっかり元気に見えるショーンくん。
「ほら、ショーンもお礼いいな!」
おずおずと、ショーン君が私の元へ寄って来る。
「その節は本当にお世話になりました。…お姉さん、お妃様になるって本当?」
「え?あ、う、うん」
子どもらしからぬ挨拶に一瞬面食らう。
「ちぇー。僕がもう10歳大人だったらプロポーズするのに」
「えっっ!!?」
今度は心の底から驚いていると、どこからともなく冷たい雨が吹いてくる。
「ふーん…へぇ、ショーン君?それは命の恩人に対する挑戦状ってこと…?」
「ちょ、ちょっとウィル!子ども相手に…!」
「…子どもはすぐ大人になるからね。芽は摘んでおかないと」
もう!ライ師匠とショーン君が震えてるじゃない!
「あっはっは!隊長…あ、殿下、相変わらずですね」
「…お前たちか」
ウィルがヤレヤレと言った顔で見やるのは…。
「憲兵隊…?え、今までどこに…」
「あ、本物のシャロンちゃんだ〜!お久しぶり!僕のこと覚えてる?」
「あ、抜けがけズルい!僕のことは覚えてるよね!?」
「えっ、えっ!?」
…同じ顔がたくさんあるようにしか見えない!!
「…シャロンの半径2m以内に近づくな!」
「えー!ブーブー!隊長…あ、殿下のケチー!」
「そうだ!そうだ!一緒に黒の家で戦った仲じゃないですか!!」
黒の家……
「あ、あの時の憲兵の人たち!?てっきり記憶を……」
ウィルをチラッと見る。
「…グレゴリー殿が消すのをよしとしなくてね。消さなくて済むならその方がいいって。彼らの中から新しく出来るドレイク支部への異動の希望を募ったんだけど……」
「みんな行きたがって抽選になりました!僕たちも可愛い魔女っ子のお嫁さんを見つけます!」
「…まぁ、そんなとこ」
ウィルが肩をすくめる。
私が知らない間に、すれ違うだけだと思っていた人たちがどんどんと繋がって行く。
「…小島じゃないんだけど、ここ、このドレイクの領主は…シャロンだから」
「え…?」
突然のウィルの言葉に頭が固まる。
「フェザントとクレイン、両方をルーツに持つ君が治めるに相応しい土地だ。…そもそも君のお父上の土地だからね」
領主…?
「わ、わたし、あんまり頭良くないし、難しい話苦手だし…!!」
「馬鹿シャロン。だーから僕がいるんでしょ。何一人でやろうとしてんのさ。僕はここを足掛かりにクレインに切り込むつもりだからね」
「テリー!!あなたどこから…!?」
「ん?お師匠に連れてきてもらったんだよ」
「おししょう……」
ギギギギギと首を回すと、そこには相変わらず年齢不詳な灰色の髪と金色の目の…
「げっ、師匠……」




