112.おかえり
フェザント城の東西南北にある4つの尖塔。あるのは知っていたが、登るのは初めてだ。
「シャロン、ここからドレイクに行くよ」
「ここからって…飛んで行くの?」
どうしよう、飛行魔法はそんなに練習して来なかった…。
「それもいいね。でも違うな。もちろん、転移魔法で」
「え…!?」
今日は最後のご先祖巡りへの出発日。
馬車で1か月かかるドレイクにどうやって行くのだろうと疑問に思ってたけど、まさか転移魔法だなんて……。
ウィルが北塔の最上階の扉を開く。
その瞬間、信じられないものが目に飛び込んできた。
「…魔法陣!?いったい誰が!?」
「んー……僕」
「ええっ!?」
「…正確に言えば、テリーにビシバシしごかれながら僕が書きました。クレインの外務大臣が合格のお墨付きをくれたんだよ」
「外務大臣…?」
そう言えばテリーと忙しそうにしてたことがあったような…。
「気のいい御仁でね。僕がシャロンを驚かせたいって言ったら、『お任せくだされ』とか言って、大量のペンと魔法陣の書き方の本をくれて…。書くだけなら誰がやってもいいなんて思いもしなかったよ。…楽しかった」
ウィルが手を差し出す。
「さあ、最後のご先祖巡りだ。行こう、ギルバート王の所へ」
魔法陣を一生懸命書いてくれたウィルの気持ちが嬉しくて、まだ旅の始まりだというのにすでに涙が溢れる目をそっと隠しながら、私は魔法陣に魔力を流した。
次に目を開けた時、飛び込んで来たものにまたもや驚かされる。
「ウィル…?湖に…橋がかかってる…!」
転移した先は前回と同じフィシャール湖のそば。
だけど景色は全然違っていて…。
「歩きながら話そうか。目的地まで少し距離があるから」
そう言って歩き出す彼に手を引かれ、湖の外周を歩き出す。
「正確にはまだ完成してないんだ。クレイン側からもこちらに向けて橋をかけている。…向こうの進みの方がかなり早いんだよね。さすがは魔法使いの国だよ」
「ど、どういうこと!?クレインとフェザントを…くっつけるの!?」
「…半分正解。国同士くっつけばどんなに楽しいかとは思うけど、さすがにそれは難しくてね。ドレイク村と…クレインのホトリ村を繋ぐんだ。…特区という形で」
「特区…?」
「そう。君も知っての通り、二つの村は長い間共生してるんだ。ただ…時代が進んで、今はそれが違法状態になってる」
「…ポポロの件……」
「そう。でもね、一緒に生きて行くのが間違った姿だとは思えなくて。だから…君が繋いでくれたゴールド大臣とグリモンド大臣に頑張ってもらったんだよ」
ウィルがこちらを振り向く。
「…300年前に君のお父上が望んで、そして彼の娘である君が繋ぐ橋だ」
「……!!」
「ここから見えるこのドレイク村…。ここが君のお父上、ギルバート王の陵墓だ」
湖から眺めれば、緩やかな丘に作られたドレイク村。
「この村自体が…?」
ウィルがこくりと頷く。
「…僕も陛下に聞くまでは知らなかったんだ。まさかこの村自体が彼の陵墓だなんて」
にわかには信じられなかった。
まだウィルの公爵邸にいた時に、何も考えず家出した先がまさかギルバート・ウォーブルが眠る地だったなんて。
「私…全然そんなこと思いもしなかった。この村を知ったのは本当に偶然で…!」
ウィルが頷く。
「…君が前に言ってた、〝女王が作った未来〟って言葉覚えてる?」
未来視の時の……。
「僕も誰かが都合よく作り上げた未来なんて有り得ないと思ってる。そうじゃなければ、人生を一生懸命に生きる意味なんて無いでしょう?」
「…うん」
私もそう思う。ウィルを好きになってからの私は、今までの150年よりも絶対に一生懸命生きている。
だからこそ、これが他人が作った道だなんて思えない。
「…でもね、強い想いで託されたものは、誰かが引き継いでいくのかな…なんて思うんだ」
強い想いで託す……。
「ギルバート王は、その生涯をかけてリーシャ女王だけを愛した。歴史書の中では婚姻して、子どもをもうけたことになってるんだけど…。彼の子どもはね、君だけなんだ。死ぬ間際まで、女王とまだ見ぬ我が子を想ってた」
「…!!」
「だから、ギルバート王の代わりに僕が言うね。一応…現ウォーブルだし」
そう言って、私を抱きしめながら彼が囁いた。
「…おかえり、シャロン」




