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11.ウィル邸

「ええと…ここはフェザント王国中央区で、その外側に東西南北の街があって…その中に一から七までの区がある。ええとこの国の成人年齢は18歳で、お酒が飲めるようになる。お酒を出す店では18歳からしか働けない。私は18歳は過ぎてるけど、見た目が17歳だから働けない…これで合ってる?」

「んー多分。それにしても細かな決まりが多いんだね。トシなんて気にしてたらクレインじゃ何もできないじゃないか」

「まぁね。あっちじゃ年齢は何の役にも立たないし」

 

 心優しいウィルの申し出で、破綻寸前のうさぎの店から引越した私とテリー。

 彼との会話から、どうやら私はちゃんと成人していることが判明したのだが、なぜか〝危険だから〟という理由で彼の邸で働かせてもらえることになった。

 『何ができるの?』という彼の質問に、馬鹿正直に『あそこに飾ってある甲冑なら指一本で壊せます』と答えたのがいけなかったのだ。

 …私は別に街を危険に陥れるつもりはないのだけど。


「テリー!とりあえず今日は庭の落ち葉を片付けるよ!そしたら本読みに行こう!」

 邸の別棟に与えられた部屋から、本宅の中庭まで走る。ここに来て一週間。慣れたものだ。

 三食賄い付きで主に掃除が仕事。それだけでもありがたいのに、一日銅貨5枚のお小遣いももらえるのだ!

 お金はいらない、外で稼ぐから、と散々主張した結果、ウィルと折り合ったのがここだった。

 テリーは『もらえるものは何でももらいなよ。余ったら師匠に送ればいいじゃん。あの人コレクターだから喜ぶよ』とか言うけど、何かそうじゃない気がする。


「これこれシャロンさん、邸内は走ってはいけませんよ」

「あ、ジェームズさん!おはようございます!」

「はい、おはようございます。今日は中庭の掃除をお願いしますね。うちは年寄りばかりだから、若い人が来てくれて助かります」

「若い…。はっ!そうですね!頑張ります!」

 ジェームズさんは執事をしているらしい。故郷にもいたからこれはわかった。逆らったらオヤツ抜きにされる人だ。

 ジェームズさんに案内され、中庭というよりは公園のような場所に到着する。

「今日は落ち葉を集めるだけでいいですよ。終わっても終わらなくても昼食は12時。食堂まで来て下さいね」

「はい!」

 よーし!やるぞー!!

 




「あるじ……庭掃除って…ああいう感じでやるものでしたっけ…?」

「…………いや」

 彼女…シャロンは変だ。明らかに。

 最初は頭の弱い…残念な少女だと思ったものだが、どうにもそうでは無い。

 言葉の端から読み取れた、この国の人間では無いという理由だけでは無い。

 はっきり言えば、足りない。常識が。人として生きる上での全ての常識が。

 その証拠に落ち葉を……雪だるまのように丸めながら中庭を走り回っている。

 確かに早い。早いのだが…できるか?そんな事。


「それにしてもバニー姿、超可愛かったですねー!まさか内偵先で彼女を見つけられるとは思いませんでしたけど、ラッキー…て……あれ?何か怒ってます?」

「……別に。どうすればああも危機感が無い人間が育つのか考えていただけだよ」

「確かに。…でも主もちょっとはラッキーって思ったでしょ?ポニーテールにウサミミとか萌えですよ、萌え!」

「…………さあ」

「またまた〜!あーでもメイドさんも可愛いなぁ……」

「………ディノ、お前何歳になった?」

「え?えーと、僕は21ですよ。どうしてですか?」

 彼女がもしかしたら三十路を超えているかもしれない事は伝えるべきなのだろうか。

 あの、幼げな見た目で。

「とりあえず、彼女からは調書を取らねばならない。夕方またここへ」

「はっ!」

 

 溜息を一つ落とす。

 彼女からは…はっきり言って爆弾になりそうな予感しかしない。だが、だからこそ、手元に置かねばならない。

 治安維持こそが…今僕に与えられた公務だ。

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