109.ご先祖巡り
「シャロン、疲れた?」
「んーん、そんなことないよ。ウィルのおじいちゃん面白かった!」
「…は?」
私とウィルは、ゾロゾロとたくさんの近衛を引き連れて、旧王都を訪れている。
ここにはウィルのおじいちゃんと、おじいちゃんのお父さんと、そのお父さんがいるのだ。
「…シャロン、もしかして……何か見えた?」
「おじいちゃんだけね。何か王様のことが心配で、なかなか眠れないって言ってた。おじいちゃんたら王様そっくりで…!」
「ああ…そう。確かに陛下を息子に持つと、おちおち眠っていられないかも…ってそうじゃなくて!」
「大丈夫だよ。お孫さんはしっかり者ですって伝えたら、『そうかそうか、ならばそろそろ時間かの』って言ってたし。あ、最後にメロン食べたいって」
「…国中のメロンを供えるように命令を出そう」
ご先祖巡りは順調そのものだった。
みんな黒い服を着るっていうから、私も久しぶりにローブに袖を通せたし、黒い服のウィルはカッコいい。
「今日は一旦これで終了で、次は陛下が選定した陵墓だ。あの人…何でここを選んだのか……」
「変なところなの?」
「変って言うか…何も無いところだよ。ただの荒野」
あ、なるほど。
「ふふーん、私は何でか知ってるよ。でも秘密!」
「は?息子の僕が知らなくて、何でシャロンが知ってるの?」
「女同士の秘密!」
「…なるほど、母上がらみか……」
旧王都というぐらいだから遺跡みたいなものを想像していたが、何のその、ここには普通に賑やかな街がある。
「ウィル、このあたりは昔は王様がいる所だったんでしょう?今はどんな街なの?」
ウィルは私の質問が嬉しいみたいだ。目を細めて答えてくれる。
「今は一大観光地だよ。古都の趣を楽しみたい人々に人気がある。…君の得意なミステリーツアーもあるかもね」
「あー…私が得意な、ね」
「ははは!」
早く忘れてくれ!
移動はもっぱら馬車を使う。
行く先々でたくさんの人が手を振ってくれる。
「みんなシャロンを見たいんだよ。窓から手を振ってあげて」
私なんか見て面白いのかどうかはわからなかったけど、とりあえず手を振り振り、短い旧王都を楽しんだ。
次の陵墓へ向かう道中、ウィルに一つ聞いてみた。
「そう言えば、ウィルが選んだご先祖様って誰なの?」
「フフ、それは秘密」
「えー?それってお返し?」
「ははは!シャロンもすぐにわかる人だよ」
「えー……?私フェザントの歴代の王様の姿絵…ちょっと苦手。みんな変なカツラだし」
「ははは!」
ウィルは最近すごく機嫌がいい。
仕事は目が回るくらい忙しいみたいだけど、充実してるって言ってる。
王妃様によれば、結婚式が終わったら私も目が回るくらい忙しくなるんだって。だから今は羽を伸ばす最後の機会らしい。
羽か…。似合うかな。出してみようかな……。
「シャロン、今日の宿が見えて来たよ」
ウィルの声で馬車の窓から顔を出す。
「わー!お城みたい!」
「みたい、じゃなくて本物の城だよ。色々な歴史を持つ、フェザントのかつての王城だ」
ウィルの言う通り、目に映るのは古びてはいるが立派な構えの荘厳なお城。
「今は観光客向けに一般開放されてるんだけど、一応陛下の持ち物だからここに泊まらせてもらう」
へー!やっぱり王様はいっぱいお城持ってるんだ。ウィルも何だかたくさん家とか持ってるし、王族ってすごい!
なんて浮かれてたのはさっきまで。
「…何でダメなの」
「シャロン、あのね、今日は王太子宮とは勝手が違ってね、警備の人間もたくさんいるでしょう?」
「…やだ。一緒に寝る」
「……!!」
「王様もしっかり体を休めなさいって言ってたもん。…ウィルがいないと眠れない」
嘘ではない。
ウィルにしがみついて眠るのが日課になってしまった最近は、彼が夜遅くまで仕事の時はほとんど寝れずに朝が来る。
…治さなきゃとは思ってる。
「……はぁ。そうだね、今さら取り繕ったところで筒抜けだしね。…もういいか」
「…わがまま言ってごめんなさい」
「わがままじゃないよ。本当は僕だって君がいないとよく眠れないから」
ウィルは優しい。…でも嘘つきだ。
私は知っている。ウィルがなかなか寝付けずにいることを。
でもこの腕の温もりだけが、私がここにいる理由なの。
わがまま言ってごめんなさい。…どうか嫌いにならないで。
私が夢の中に旅立つ頃、ウィルがブツブツと呟いていたことなんて私は全く知らなかった。
「あと3か月…3か月…忍耐だ、忍耐……」




