107.売れっ子
ゴールド夫人の妊娠が判明したビックリお茶会からしばらく、ウィルはますます多忙を極めていた。
それに加えて今回は……。
「テリー、クレインの外務大臣とは明日の10時会談で間違いない?」
「お師匠が今朝もう一度知らせてきたから間違いないよ」
「わかった。こちらも関係閣僚と最後に素案をもう一度見直そう」
「オッケー!」
…テリーも一緒になって忙しそうだ。
「なんなのよー…二人して」
「まぁまぁ、姫様。姫様には別のお仕事が任されているではありませんか」
「むー……」
私に任された仕事…それは、お茶会である。
王妃様と毎回綿密に作戦を練っては、次に落とすべき四強を定めて、かいじゅう…とか言うものをしていく。
『姫、あなたは素晴らしき妃になります!ウィルフレッドは誠に良き女性を選びました!』
と王妃様は言ってくれるが、正直私がしているのは……
「シャロン様!次は私を占ってくださいませ。義母への贈り物で悩んでおりますの」
「姫様、息子が全く口をきいてくれなくなりましたの。あの子が何をしたいのかサッパリ……」
「夫が新しい事業を立ち上げようとしておりますの。いい日和を占ってくださいまし」
……占いだ。
どうも私はここに来て、売れっ子占い師になったらしい。
廃墟の時と違うのは、お金を取らないことと、王妃様が毎回選んでくれるドレスを着ていること、そして…運命の相手探しはやらないこと。
まぁ、王妃様主催のお茶会は、参加者はご夫人方ばかりだから、必要ないと言えば必要ないのだが。
「シャロン姫、先日は夫ともども宮へお招き頂きありがとうございました。見せて頂いたローブ…本当に素晴らしい作りでしたわ。それに頂いたハンカチ…。姫は本当に刺繍が得意でいらっしゃるのね」
「ジャクリーン夫人!」
そう、ウィルがどうしても話をしたい相手が、ジャクリーン夫人の旦那さんのブラッドフォード・グリモンド外務大臣だと言っていたのを聞いた私は、王妃様に相談したのだ。
どうしたらグリモンド夫人と仲良くなれるのか、と。
王妃様は少し悩んだあと、こう言った。
『あのご夫人は、フェザントでは珍しく高等学院まで卒業された才媛。何か興味を引くような話題が出せれば……』
そこで練った作戦が【クレイン摩訶不思議大作戦】である。
話は単純だ。ゴールド夫人のお腹に〝占いで〟赤ちゃんを見つけたことになっている事を逆手に取ったのだ。
3回目のお茶会の時に、それとなく占いに使っているかのように見せかけて、古代魔法陣の本をテーブルに置いておく。
するとグリモンド夫人は明らかに興味深々な顔を隠せずに、私にあれやこれやと質問を始めたのだ。
私は王妃様と目くばせをして、こっそり夫人に話しかけた。
『グリモンド夫人、実は私が入城の際に着てきたクレインの正装には、この本の中の紋章が刺繍してありますの。一つ一つ意味も解説いたしますわ。良かったら見にいらっしゃいませんか?』と。
一人での訪問は難しいと応える夫人に、ご主人も一緒にどうぞ、と勧めたら、本当に二人で王太子宮にやって来たのが2週間前のことだ。
ウィルはそれはもう喜んで、私に温室で着るための服をプレゼントしてくれた。
乗馬服にも、軍服にも見える黒いズボンと、茶色い皮のロングブーツ。
すぐにお気に入りになったそれらは、私が毎日魔法で洗濯をして、温室でこっそり着ている。ウィル以外には見せない約束だから。
「ジャクリーン夫人、明日クレインから来る外務大臣の歓迎会には、夫人も出席されるのでしょう?」
「ええ。外務大臣夫人として出席いたしますわ。…コソ…今までで一番楽しみな外交活動ですわ」
「…みんなはっきり言って変人なので、飲み物飲む時は吹き出さないように気をつけてくださいね」
「まあ!フフ。それでは明日は濃い色のドレスにしなければ」
「シミができたら私が何か刺繍します……」
「まあ!フフフ。楽しみですわ」
まだまだ戸惑うことの多いお茶会。
でも私はもう怖くはなかった。
厳しい人たちはいるけれど、ジャクリーン夫人のように、友だちのように話せる相手ができたから。
結婚式まで残り4か月と少し。
フェザントは、また冬を迎えようとしている。




