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運命の相手は自分で探しましょう  作者: ぶくでん
フェザント城大忙し編
105/119

105.大臣夫妻

「姫様…まさか、まさかとは思いますが、お腹に……」

「アリー、いくら何でも昨日の今日はないでしょう?…シャロン様?何か気になることでも……」

 

 王妃様と別れて王太子宮に戻った私は、妊娠中の過ごし方の本を読んでいた。

 …本当は子どもができる方法の本を探したが、王宮書庫には無かった。

 …あったのかも知れないが、見つけられなかった。

 代わりに医術書の書架で見つけたのが『これで安心、妊婦の心得』である。


「ん〜、ちょっとね。今日のお茶会でお腹に赤ちゃんがいる人が見つかったんだけど、倒れるほど大変なのかなと思って」

 これは嘘では無い。真っ青になって倒れるほど大変なのは、ゴールド夫人だからなのか、普通のことなのか知りたかったのだ。

「あ、あぁなるほど…。私もまだ未婚ですから母や叔母の聞きかじりではございますが、人によってはそれはもう大変らしいですわ」

「そうそう、ずーっと吐き続けて、食事も取れなくなる人もいるとか。ね、マリー」

「そうね。あとは食べられるものが制限されたり、動き回れなかったり、何かと大変だとは聞きますわ」

「え…そうなの?そんなに大変なの…?」

「あ、いえいえシャロン様、あくまでも人による、という事です。だから安心して殿下と……」

 

 お腹に赤ちゃんがいるって大変なんだ……。

 じゃあ女王リーシャはどうだったんだろう。私を150年もお腹に抱えて大変じゃなかったんだろうか。

 そもそも…何で私をそのままにしたんだろう。

 さっさと産んで養子に出す事もできただろうし、クレインの魔法なら〝宿った子を天に返す〟事もできたはずだ。そう書かれた魔術書も読んだ記憶がある。

 それともう一つ、彼女についてはどうしても理解できていない事がある。

 師匠には聞きづらかったからあの場では深追いしなかったけど、どう考えても納得いかない事だ。

 彼女に直接聞いてみたかった。人間との間の子どもを産んだ、リーシャという一人の女性に。

 

 頭の中で色々な事を考えていると、ふいに声がした。

「…僕と、何かな?」

「ウィル!」

「「殿下!」」

 今日はすごく忙しいって言ってたのに。

 突然のウィルの登場に三人でビックリする。

「…シャロン、茶会で問題が起きたって聞いた。大丈夫?」

「え…?問題?」

「ああ。中央宮に王妃殿下が帰って来られたから、陛下が尋ねたんだ。早すぎるのでは、って。そしたら殿下が、少々問題が起きて茶会は散会になったって……」

 そっか、心配して来てくれたんだ。

「ありがとう、ウィル。問題が起きたのは私じゃなくて……」


 その時だった。

 私室の部屋の扉がコンコンと鳴らされる。

 例のごとく、マリーが応対する。

「シャロン姫、ゴールド大臣夫妻がお見えだそうです。応接にお通ししてよろしいでしょうか」

 その言葉に驚愕の顔をしたのはウィルだった。

「大蔵大臣夫妻?なんでまた…」

「あー…多分これかな?」

 私はウィルに読んでいた本を手渡す。

 本の題名を見て、ウィルがもう一度驚愕の顔をする。

「マリー、すぐに行きますって伝えてもらえる?ウィル…よかったら一緒に来てくれない?大臣とは、上手に喋れる気がしない」

 ウィルはまだ驚いた顔をしていたが、二度ほど頷くとキリッといつもの王子様の顔になって、私の手を引いて部屋を後にした。


 応接に入ると、ゴールド大臣夫妻が深く深く頭を下げて、私たちの入室を出迎えた。

 ウィルが声をかける。

「顔を上げて下さい。申し訳ないが私も同席することになった」

 そう言って夫妻の対面のソファに私を座らせると、ウィルも隣に座る。

「いえいえ、姫への感謝は殿下への感謝に他なりません。ぜひ殿下にも私どもの心からの気持ちをお受け取り頂きたい」

 そう言って、ウィルの目の前に大きな包みを出す。

 

 ウィルはきっと本当に頭がいいんだろう。

 事情もよくわからなかっただろうに、その場で最もいい手を選べるんだから。

 

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