104.正しきウォーブル
「儂が話したギリギリギルバートの話…あれは少しだけ嘘なのじゃ」
陛下が僕に示したのは、王の系譜図……ではなく、ロストラム家の家系図。
「…別に民を欺いているわけでは無い。間違いなく我らはロストラムの血を引いている。…だがな、儂がウォーブルの血を引いているかと言われると…微妙じゃ」
陛下の指が、300年前のギルバート王で止まる。
「陛下、これを見る限り、ギルバート先王は40歳の時に婚姻し、翌年に子ができたように見えます。……18歳の」
「正解!まさにその通り!…まあ賢いお前の事じゃ。からくりはわかるだろう?」
「…養子を取ったんですね」
「そうじゃ。ちなみに王妃として迎えたのは…当時未亡人だった女性じゃ。ギルバートより8つも歳上の…な。ホレ、これがギルバートの次に王位についたレオナルド王の手記じゃ」
『ギルバート叔父上には感謝の念しかない。日陰でしか生きられなかった我ら親子を探し出して光を当ててくださった。母との間に情を交わす事はないであろう。だがそれでいい。母は未だに父を想っているし、叔父上は、まだ見ぬ我が子をいつまでも待っている』
日陰でしか生きられなかった…親子。
つまりは……。
「…推測だがな、ギルバートの兄…まぁ本来なら300年前に王になるはずだった長男の王太子には、まぁそうだな、愛人がいた…という事だ。家系図上、正妃との間に子がおらんからの。まぁ、おったらギルバートが王になることなんかなかったから当然なんじゃが」
「…そしてギルバートにも表に出せない子どもがいた」
これは…間違いなくシャロンの事だ。
「三人の利害は一致した、という事じゃな」
彼は最後までリーシャ女王以外を愛することはなかったのか……。
なんと強く、そして悲しい愛なのか。
「レオナルドの手記にきちんと残されておる。ギルバートがレオナルドを養子に迎えるにあたって、約束した事がいくつかある、と」
陛下の言いたいことは、もう頭の中では答えが出ていた。
「一つ、ウォーブルの名を絶やさぬこと。この名を訪ねて来るものが必ずいる。二つ、クレインとの国交を結ぶために努力すること。自分の代ではなし得ないかもしれないが、後を継いで必ずやり遂げて欲しいと。三つ、自分が死んだらフィシャール湖の近くに埋葬して欲しい、だ」
「フィシャール湖……」
「そうじゃ。ドレイク…今は村、か。ドレイク村はな、それそのものがギルバート王の陵墓なのだ。だから、彼の望んだまま、誰の手を入れることなく、ありのままの姿をしておる。…人の交流も、ありのまま…」
「………!」
陛下は…やはりご存知だった。
「儂はなー、この話を知った時、やはり正しきウォーブルは儂では無いと強く思ったもんじゃ」
「は…それは、いったい……」
「儂な、王妃が…ベアトリスが初恋の相手なんじゃ」
「……………。」
「王子としてそりゃもうどこへ行ってもチヤホヤされとった儂に向かって、ベアトリスだけがいつも冷たい眼差しを向けてきおった……」
…とても、とても聞きたく無い話が始まる予感がする…!
「儂も21歳の時にな、政治的に丁度いい貴族令嬢から妃を迎えるように言われたんじゃ。でも諦めきれなくてな……。当時伯爵令嬢だったベアトリスに5回求婚して5回振られて、6回目にようやく頷いてもらえた時には女神に感謝していつもより盛大に教会に寄進したもんじゃ」
「………そうですか」
「そうじゃよ!ちょいちょい女遊びしとったお前と違って儂は一途なんじゃ!」
「……人聞きの悪いことを」
だから誰だ…!?間諜は誰なんだ…!!
「ベアトリスそっくりで誰にでも冷めた目を向けるお前が好きになったのが、よもやまさかのクレインの女性と聞いてな。お前こそが正しきウォーブルだと思い知った」
「…どういう意味ですか?」
「ギルバート・ウォーブルは側室の子じゃ。我らに連なる系譜……レオナルドの系譜には出て来ん女性から産まれておる。……ベアトリスの生家の伯爵家からな」
母上の…?
「お前はこの300年で、もっともギルバートに近しい血統をしておる。…正しきウォーブルじゃ」




