10.大きな家
「……何ということでしょう。この国に、このように大きな……」
「…チュ(何ここ同じ都市?別空間に来たんじゃないの?)」
あのあとウィルは、店内でオーナーに何事かを耳打ちしたあと、部屋にテリーを呼びに行くように言ってきた。
家財道具は後から運ばせるからそのままでいいと、半ば無理矢理連れて来られたのは……。
「…城?」
「……僕の家」
「個人宅?家族50人ぐらいいる?」
「…ひとり」
だだっ広い応接間をぐるりと回転しながら眺める。
「………。(テリー、私、この国がわからない。ここ、師匠の実家ぐらいあるよね?)」
「チュチュ〜…(いや、師匠のとこがギリ広いかな。でもあそこは…いや、それよりコイツ…)」
テリーの視線の先には、ブスッとした表情のウィル。
「働く場所が欲しいならうちで雇うから、あの店はすぐに辞めて」
「えっ?いや、でも……」
「どちらにしろ、あの店は潰れるから」
「はいっ!?」
えー…羽振り良さそうだったのに。赤字経営ってヤツだったとは…。
「とりあえず座って」
「はい……」
なんだろう、この有無を言わさない感じ…。誰かに似ている…。誰かに…。
目の前のウィルは、ググっと飲み物で喉を潤すと、一気に…それはもう一気に話し出した。
「僕があの後どれだけ君を探したかわかる?目の前から忽然といなくなって家の中も空っぽ。だいたい女の子一人とペットの猿だけでどうやって部屋を探すつもりだったわけ?あの占い屋もそうだけど、法律では保証人がいないと家は借りられないんだよ。だからあんな変なのに引っかかるんじゃないか。少し考えればわかるだろ?」
「法律……」
「そうだよ、法律。他にも言いたいことは色々あるけどね、君…そもそも、まだ自分が容疑者だって理解してる?」
「ええっ!!」
そんなはずは…!リーナを殴った男は捕まったし、私は詐欺はしていないはずだし、詐欺…。
「ああっ!!思い出した!!」
そっかそっか、アレだアレ!
「な、なに?その突然大きな声で叫ぶのやめてもらえる…って何してるの!?」
私は胸の間からゴソゴソとチェーンで繋いだ小さな袋を取り出す。
「この変な服、ポケットがないから苦肉の策なんですよ。私昔から手芸は得意なんで、作ったんです!」
ババーンと手作りの袋を見せつけて、そこからチャリチャリチャリーンと銀貨を3枚取り出した。
「はい、お返しします。結局尋ね人の占いやらなかったし。これで…詐欺容疑は晴れましたよね!?」
そう言いながら、ウィルの手の平を無理矢理広げて銀貨を乗せた。
「……………。」
「あれ?(テリー、この人固まっちゃったんだけど何で?)」
「チュ?(さあ?また君が変なことでもしたんじゃない?麻痺解除でもかけてみれば?)」
なるほど、麻痺解除…。
指を鳴らそうと親指と中指をくっつけた瞬間…
「はっ!」
あ、ウィルが戻ってきた。あれ?魔法まだ使って無いよね?
「そう、それだよそれ!色々ある言いたいことのうち、一番言いたいのはそれ!その格好!その…服着せられた時におかしいって思わなかった!?だいたい君いくつなわけ?ああいう店で働ける年齢?」
え、なんか怒ってる?
詐欺より酷いことした?
「ええと…よくわからないんですけど、この服は変な服なんですか?私もやっぱり耳には意味が無いと思うんですけど…。あとこの防寒にならない網タイツ?とかいうものも」
「……………変な服だよ」
「!!(やっぱり!テリーに相談したのが間違いだった!)」
「…チュー…(君の国にはもっと変な服着たのがいっぱいいるじゃ無いか)」
「あ、あとこの国では、年齢によって出来ない仕事があるんですか?」
「……君、外国の人?なるほどね……」
「(シャロンってさー、迂闊だよね)」
「(え、何が!?なんかまずい事言った!?)」
あわわ、どこがマズかったのかさえもわからない。
「ちなみにさっきも聞いたけど、君はいくつなの?」
いくつ?えーと、私…いくつだっけ?
「…えーと、他の人から、私何歳に見えてます?」
ウィルが少し驚いた顔をする。そしてブツブツ呟き出す。
「…女性に年齢を聞かれた時は4、5歳若く言えって教わったけど…君の場合そうすると…うーむ…」
なんか悩んでるなー。
「…17歳ぐらい」
「ええ゛っっ!?それはないでしょう!?」
「えっ?…まさか…もっと若い…とか…」
「ちなみにウィルは?ウィルの見た目は何歳ぐらい?」
「は…?僕の見た目?年齢は24だけど、見た目は…不本意だけど28ぐらいって言われる…かな」
「なるほどなるほど。なーんだどっちにしろやっぱり全然年下じゃん!あ、私自分の年齢覚えてないから、ウィルがそれっぽく決めて下さい!」
そのあとウィルは、全然動かなくなった。




