1.占い屋のおばあさん
これはよくある物語。
たまたま生まれついた魔法使いの国。
古くさい決め事に従って、
修行に追い出されたのが一年前。
どうにかこうにか生き延びて来た。
そう、人間の国で…。
「あ、ここだ〜!このお店の占いすっごく当たるんだってー!ねぇねぇ、私たちも占ってもらおうよ〜」
はい明日の夕食分一名様入りま〜す。
「ここが占い屋…。僕はそういうのあまり信じてないんだけど」
はい、余計なこと言う男一名…入ってくるのね!
カランカラーン…
ドアベルの音とともに、古めかしい樫の木の扉が開く。
「うわぁ!雰囲気ある〜!!絶対当たるよ!ここ!」
そりゃお嬢さん、あなた達人間を研究しまくった成果ってもんですよ。弱いんでしょ?雰囲気に。
「…この仮面、いつの時代のものだろう。流通してるのか…?」
はい、そこの男、やっぱり余計なこと言うタイプ!
「すみませ〜ん!占って欲しいんですけど〜」
さてさて出番ですね。さりげなく、さりげなく…。
「…ん゛ん゛、おや、いらっしゃい…かわいいお嬢さん…。うちは特別な占いの館だよ…。お前さんの望みはなんだい…?」
真っ黒なカーテンをパッと開き、水晶玉を持って登場する。
「きゃー!こわ〜い!!おばあさん本物の魔女??ウィルさま〜!私を守って〜!」
「ははは」
ったく、エンターテイナーは大変だよ。
「…んん゛…あ゛あ゛…お嬢さん、何を占ってしんぜようか…?」
「あ、じゃあ恋占いで!」
でしょうね。
「…銅貨一枚だ。そこにお座り…」
黒い布で覆った机の上、雰囲気を盛り上げつつ水晶玉を台座に置く。
「…名前を」
「リーナです!」
「…歳は…?」
別にこんな事聞かなくてもいいんだけど、やっぱり研究の結果、雰囲気を高めるのに一役買うらしい。名前とか、年齢が。
「え〜っと…ハタチ…かな?」
知らんがな。
「…リーナ…では…目を閉じて…思い浮かべるのじゃ…そなたの…思い人を…んんん!!」
ピカッ!!
なーんてね。とりあえず水晶玉を光らせてー、思念読み取りーっと。
んー…うわ、この人…既婚者…?いや、たくさんの…男たち。交代で暮らしてる?え?どういうこと?入れ替わり立ち替わり?
ガタンッ!!
「え、おばあさん、どうしたの?」
「…!!…!?あああ…あ゛あ゛あ゛あ゛ーこほっ」
これは無理だ!これは無理!!
ふーふー落ち着け落ち着け、ふーーーー…。
「…リーナよ…そなた…体を労るがよい。…さすれば…いずれ…」
「いずれ?」
「いずれ…」
うわーん、なんて言えばいいの!?このパターンは…初めてだよー!!
「いずれ…は…いずれ…だ。そなたが一番わかっておろう…?」
「おばあさんスゴイッ!!そうなんだー。リーナもわかってるんだけどぉ、なかなか難しくて〜……コソコソ…ちなみにあそこの彼との相性どう?」
「…ヒソ…銅貨一枚じゃ。……見込み無し」
「チッやっぱりか」
「…悩める時はまた来るがよい」
何とか…うまく誤魔化せた…かな?
ここで水晶玉を消して…と。
「クスッ」
「!?」
「また寄らせてもらうよ。お ば あ さ ん!」
カランカラーン………
扉が…閉まる。
ギシッギシッと余韻を残して…。
「あーあ、シャロン。今の絶対バレたと思うよ。何なのさ、途中のあ゛あ゛あ゛あ゛ー!は。今までで一番下手だったんだけど」
客が帰ったと見るや、トコトコトコと使い魔の黒猫…じゃなくて、つぶらな瞳のブッシュベイビーが毒舌を振りまきながら肩の上に乗ってくる。
「テリー…やっぱり今のまずかった!?最後のあれ、あの男…なんか笑ってたよね!?」
「まぁ、おばあさんじゃないのはバレたかもしれないけど、流石に魔女って事はバレてないでしょ」
「バレてたら…バレてたら!?」
「…修行やり直し」
「ノーーッッッ!!ようやく一年経ったのに!!」
「ま、様子見だね。それよりご飯」
「…もう…やだ……!!」
私は魔女だ。
誰が何と言おうと、正真正銘の正統派魔女。
古の理に従い、人の世で修行すること約一年。
私は早く帰りたいのだ。
この不便で、不自由な、人間の国から…。