93話 チーム名と贈り物
『憩い亭』の食堂エリアで4人は真剣な顔で悩んでいた。
と言っても、話してる内容は、とてもレベルが低いものだったが…。
「じゃあ、タウロも言えよ。俺達ばかり言ってるじゃないか。」
矛先が自分にも向いた。
正直、こういうネーミングセンスは自分も「0」だった。
とてもじゃないがひねり出しても思いつかなかった。
「…じゃあ、ダンサス村で結成したから『ダンサスの癒し手』?」
「それ、薬草採取とかけてるでしょ?ルメヤの『薬草採取のプロ集団』と替わらないわよ!」
今度はエアリスがツッコミを入れた。
「じゃあ、エアリスは何かあるの?」
ルメヤと一緒にされたタウロが珍しく怒って聞き返した。
「…そうね。やっぱりここは『金翼の団』でしょ!」
エアリスは自分の金色の長髪をかき上げて言った。
「自分アピールが酷いよ。」
今度はシンがツッコミを入れた。
「じゃあ、『黒金の翼』なら、シンとルメヤは黒髪だし、エアリスと僕は金髪だから丁度いいんじゃないかな。」
タウロが落とし所だと言うように提案した。
「『黒金の翼』?うーん…。まぁ、タウロが絞り出した名前だからいいわよ。それに『ダンサスの癒し手』よりは断然いいもの。」
エアリスは自分の提案した名前に歩み寄ってくれたチーム名に納得した。
二人も、
「黒金かー、それでいいじゃん!」
「それなら、自分もいいよ。」
と、自分達の髪色が入ってる事に納得した。
こうして、センスは無いが、4人が納得するチーム名になったのだった。
早速、タウロは自分の革鎧の背中に金の縁取りをした黒い翼の刺繍を、自分で入れた。
それに気づいたエアリスも羨ましがるのでエアリスの神官風の服にも刺繍を入れる事にした。
そうなると、シンとルメヤももちろん羨ましがった。
なので、タウロは二人が購入しようとしていた革鎧を、シンとルメヤに昇格のお祝いと称して、半分ずつ費用を出してやって、その背中に刺繍を入れる事にした。
「ちょっと、シンとルメヤだけ、ズルいじゃない!」
今度はエアリスが文句を言う。
「エアリスは二人みたいに革鎧いらないだろ?」
タウロが正論を言う。
「私、新しい杖が欲しい!」
エアリスが目を輝かして言う。
エアリスの今の杖は初級者が持つ、小さい魔石が先に付いた、魔法にあまり影響がないものだった。
だが杖はピンキリの世界で、良い魔石が付いてる物ほど価値が高く、値段も跳ね上がる。
そして、特殊なので武器屋でも扱えず、杖専門店があるほどだ。
「うーん…、じゃあ、数日待って。僕が作るから。」
「え?タウロ、杖も作れるの!?」
エアリスは素直に驚いた。
「仕組みはわかってるから、大丈夫だと思う。」
そういうと、木工屋に早速出かけた。
質の良い材木はこのダンサスの村では安く手に入る。
それに試したい事もあった。
一本の黒檀を選んで切り出して貰った。
理想は殴り杖。
なので、先は重みをつける為に太めにする。
杖の先端にはタウロが入手して売らずにいたゴブリンナイト(ゴブリンライダーになりかけ)の魔石があるのでそれを付けるが今後、良い魔石が入手できた時、取り換えられる様にする。
魔石部分に伸びる様に模様を彫るが、これはデザインにみせたタウロ特製の魔法陣を変形させたものだ。
デザインで彫ったものも一緒にしてるので、読み解くのは不可能なはずだ。
魔石の潜在能力を最大限に発揮できる魔法陣にしている。
なので、魔石次第では、良い杖になるはずだ。
丸一日かけて、エアリス用の杖は完成した。
翌日エアリスに渡すと、思いのほか、気に入ってくれた。
彫りも気に入ったようで、まじまじと見ていたが、うんうんと何度も頷くと
「ありがとう、タウロ。大事に使うわね!」
と、満足してくれた。
「それは良かった。あ、魔力を込めるとその魔石の特性が出るよ。」
タウロの説明にエアリスは早速魔力を込めてみる。
杖の魔石が付いた先端部分に刃先の様な光が宿る。
「その魔石は元がゴブリンナイトの魔石だからか、刃先の様に切れ味が宿るから接近戦では役に立つよ。他にも魔力強化と防御魔法を強化する特徴があるみたい。」
「後衛の私が接近戦してどうするのよ。」
エアリスは呆れたが、後衛でも接近戦がないわけではない、自衛して負担をかけないのも後衛の役割だ。
タウロからの最高の贈り物にエアリスは改めて満足するのであった。




