89話 チームの実力
コボルトと狂犬の群れは依頼主の村から近くの森に1か月前から集落を作って棲みついていた。
そこから度々村に降りてきては、村の作物を荒らしているらしい。
Eチームの『索敵』能力を持つ冒険者によると、コボルト41匹、狂犬16匹と、思ったより数が多い。
コボルトは二足歩行の犬といった感じで、大きくはなくゴブリンより頭が悪い為、比較的に退治が容易な魔物だが、こんなに多くの数で群れる事はあんまりない。
上位種はまだ誕生してないが、この群れのリーダーが進化する可能性はあるのでその前に討伐しなくてはいけない。
幸いみんなに嫌がられていた狂犬は集落の北側に一か所に固まっていたので、タウロ達はその北から攻め、各Eチームはそれぞれ南と東から囲むように攻める事になった。
風上である西側は空ける事になった。
コボルトと狂犬の嗅覚は鋭く、気づかれる可能性が高いからだ。
そして、コボルト討伐クエストは開始された。
「それじゃ行こう!ルメヤ!」
タウロがルメヤに合図を送る。
「わかった!『駄犬共、かかって来い!』」
ルメヤが能力『挑発』を発揮した。
狂犬達はその挑発にのって吠え始め、ルメヤに一斉に襲い掛かる!
この狂犬の鳴き声に他のチームも奇襲を開始した。
「『盾攻撃』!」
ルメヤは『盾』のスキルの技にスキル『剛力』のパワーを乗せて飛びかかる狂犬達を大盾で殴り飛ばす。
狂犬達は短い鳴き声と鈍い音と共に吹き飛ばされ即死していく。
シンとタウロもルメヤの両脇から狂犬達を仕留めていくがルメヤの独壇場だった。
ルメヤに向かっていった狂犬はあっという間に返り討ちに遭い全滅した。
タウロのチームは、すぐに各Eチームが相手しているコボルトを背後からエアリスの攻撃魔法とルメヤの『盾』の技『突撃』で蹴散らし、シンやタウロが止めを刺していった。
1時間に及ぶ戦いは、冒険者側の圧倒的勝利で終った。
戦意を喪失して逃げようとしたコボルトもルメヤの『挑発』で戦線に戻し、全滅させた。
負傷者は出たが、ポーションと治癒魔法で治療した。
その中タウロ達のFランクチームの評価はうなぎ登りだった。
というかルメヤとエアリスの二人が、同行した各Eランクチームから自分達のチームに来るよう誘いがあった。
シンに誘いが無かったのは、どのチームもアタッカーの前衛は多いからだ。
ルメヤの事もアタッカーとしての誘いではあったが、異色で大活躍だった事が理由だろう。
ともかく二人は熱烈な誘いを受けだした。
「エアリス、うちに来てくれ。俺達の火力と君の後衛からの魔法が合わされば、チームは一気に上に行けるんだ!」
「ルメヤ、あの破壊的な爆発力で、うちの攻撃の要になってくれないか!あのパワーがあれば、俺達チームのDランク入りもすぐだ!」
だが、二人は断った。
今のチームを抜けるメリットが無いし、何より自分達のチームが上に行く事ばかりでこちらの事を何も考えてない。
そして、一番の理由は、このチームが好きだからだ。
ルメヤは、『盾』に活路を見出したのはタウロのおかげだし、シンとのコンビもしっくり来ている。エアリスを含めて4人の連携は楽しかった、そんなチームを抜ける理由がない。
エアリスも同じような理由だった。
それに、以前いたチームを抜けたのはこのチームに将来性を強く感じたからだ。
自分がここに入るとどうなるだろうかとワクワク感が強かった。
それにタウロの未知の才能にも興味があった。
それを見届けずにチームを抜けられるわけがない。
二人の活躍はギルドに戻ったクエスト完了の報告とEチームの熱烈な勧誘で冒険者ギルドダンサス支部では注目されることになった。
討伐数ではシンも実はかなり頑張った方なのだが、派手だった二人の活躍の影に隠れた格好だった。
そして、タウロは数字的にも地味だった。
支援的な立ち回りで3人の火力を引き出す動きをしていたからだが、それがちゃんと結果に出ていたので、タウロは確かな手応えを感じて個人的には満足だった。




