75話 支部長就任
受付嬢クロエの支部長就任発表には誰もが驚いた。
タウロも驚いたが、本人が一番驚いていた。
優しいが冷静沈着なので冷たく思われがちだが、感情は人並みにある。
事務処理をクロエと一緒にしていたら、
「どうしようタウロ君…。」
と、泣きそうな不安な顔をして聞いてきた。
「落ち着いて下さい。これまでやってきた仕事の延長です。逆に受付は新しく来た人に任せられるし、事務処理も副支部長のシロイさんに任せられます。クロエさんは最終調整だけすればいいので、これまでよりずっと楽になるくらいですよ?」
タウロはクロエを宥めた。
「…でも責任が…。」
クロエの不安は消えない。
「ここまで普通にやってたじゃないですか。これまで通りでいいんですよ。冒険者にお願いしてたのを、指示できるようになっただけです。」
「でも…」
「過去に冒険者してたことあるんなら大丈夫ですよ。」
「それ、わずか数か月で、Fランク止まりだから…!」
「分からない時はみんなに聞いて、相談する。そうしていれば、大概の事は何とでもなりますよ。一人で背負い込む必要はないんです。」
タウロの言葉に背中を押された気がしたクロエは頷いた。
「…わかった、やってみる。」
こうして、クロエは就任を承諾し、ダンサス村の冒険者ギルドに新たな支部長が誕生したのであった。
クロエは支部長になったとはいえ、やる事はほとんど変わらない。
時には受付もするし、事務処理もする。
街の大きなギルドに話し合いの為に出かけて行く事もあったが、ほぼいつもと変わりなかった。
強いて言うなら職員の制服からパンツルックの私服になり、支部長を示すバッジを左胸に付けている事くらいだろう。
冒険者ギルドダンサス支部は、この支部で活動する冒険者の装備にポーションを加える事を基本方針にする事にした。
と言うのも、クエスト中の致死率を下げたいからだ。
それに、このダンサスの村は薬草が豊富に取れて他所よりコストが低く抑えられる、安価に冒険者に提供し致死率を下げ、怪我の悪化も抑えて支部の戦力低下を未然に防ぐ。
その為には薬剤師によるポーションへの精製工程を効率化して数を作れるようにする事が大事だった。
そうする事でより安価に冒険者に提供できれば、支部も冒険者も喜ばしい事だ。
この支部ではポーションに助けられた冒険者も少なくない。
なので反対する者は少なかった。
反対した者はこれまで大怪我をした事が無い者だったが、この支部の有名冒険者もポーションで助かった事を知ると強くは言えなかった。
さらにクロエの支部長権限でボブはD-ランクに昇格、タウロはF+にシンとルメヤはFに昇格させた。
これはキラーアント討伐クエストでの活躍があったからだ。
まず、事前報告以上に大規模だった事、そして、クイーンがいた事、それらを速やかに倒し、被害を最小限に村を救った事を評価しての判断だった。
心情的にはこの4人は2ランクくらい上げたいが流石にそれはギルドのルール上有り得ない事なので駄目だった。
以前のゴブリンナイト、ソーサラー討伐を引き合いに出そうとしたが、それはすでに処理済み案件なので駄目だった。
だが、4人にしたらこれは棚ぼたであった。
特にボブはE+に昇格して日が浅かったし、D-へは、ただ、クエストをクリアしていれば昇格できるものでもない。
昇格に相応しいか審査があり、人格や素養、ギルドへの貢献度なども関わってくる。
ここが、Eランク帯(一般冒険者)とDランク帯(熟練冒険者)の壁だった。
引退までだらだらとEランクのままの冒険者も多いのがこのランク帯だ。
ボブはそれらの条件をクリアしていた。
特にこの村への貢献度、イメージアップに奮闘したりと活躍してくれていたので、反対する者もいなかった。
タウロとシンとルメヤの3人については、Fランク帯(駆け出し冒険者)なので、まだ条件は緩く、将来有望だから支部の期待を込めての昇格だった。
シンとルメヤはとても喜んだ。
粉末を撒いてただけでスピード昇格だ。
タウロに付いて来て良かったと、感謝するのだった。
だが、タウロは冷静だった。
二人がEランク帯に上がる前には、戦い方の形を整えたいと思うのであった。