72話 秘密兵器の威力
翌日、隣村への出張クエストを控え、タウロは宿屋の裏庭で精霊召喚による風魔法でずっとみんなですり潰した草を乾燥させていた。
こういう時に、精霊魔法は役に立つ。
と言っても、タウロは生活魔法レベルしか使えないのだが…。
タウロは精霊にお願いすると、寝ながらにして乾燥させる事にした。
いつもこうやって洗濯物を乾かして貰ったり、暑い日はずっと自分に風を吹かせて貰っているのだ。
魔力さえ提供できれば、ほぼ無限である。
そう提供できれば。
気づいたら、魔力枯渇で死にかけるなんて事もありそうだが、タウロは今のところはなかった。
夜明け、タウロは早く起きるとすり潰した草が乾燥しているのを確認し、臼にかけて完全に粉にする作業を始めた。
音に気づいて起きてきたシンとルメヤもその作業に加わった。
出発まで時間がないので、タウロは朝食を二人に食べさせる為に、マジック収納に取っておいたハンバーガーを上げる事にした。
「な、なんだこれ!?」
「これって、噂に聞く白パン!?」
「これが、それなのか!?柔らかくて美味しい…。…肉も柔らかくて野菜もシャキシャキで…初めて体験する食べ物だ…。」
二人は感動し、文字通り泣きながらハンバーガーを食べていた。
喜んで貰えるとは思ってたけど、泣くほどなのね。
タウロは食べ慣れていて忘れていたが、懐かしい『安らぎ亭』で初めて出した時の冒険者達の反応を思い出して嬉しくなるのだった。
シンとルメヤの二人は食べ終えると、元気が出たのか全力で臼を回し始め、あっという間に大量の粉末が出来た。
タウロは二人を労って、今度はあんこの饅頭をマジック収納から取りだすと食べさせた。
二人はまたこの甘くて美味しいあんこに感動して
「タウロ君に一生ついて行くよ!」
と言われる暑苦しい展開が待っていた。
タウロはそれを丁重にお断りすると、粉末をマジック収納で全て回収してギルドに向かい、ボブと合流した。
そのギルドの前には、馬車が用意されていた。
今回の依頼主が準備したらしい。
1つのクエストにこの扱いは中々ないので、奮発したと言っていいだろう、それだけ緊急なのかもしれない。
4人は急いで馬車に乗り込んだ。
モモが見送りに来ていた。
「タウロ君、ボブをよろしくね。」
モモがそう言うと手を振った。
「モモ、それ普通逆だろ。」
ボブが笑ってモモに指摘する。
「だって、ボブは頼りないじゃない。」
「それを言ったら終わりだろ!…じゃあ、行ってくるよ。」
ボブはモモに手を振る。
タウロも「大丈夫ですよ。」と声をかけて手を振っていると馬車はすぐにスピードを出し、ダンサスの村をあっという間に後にした。
馬車の中でタウロはボブに今回の作戦を提案していた。
「この粉末がキラーアントに効くのか?」
タウロから差し出された白い粉を手にしてボブが聞いた。
「その予定です。ボブさんは風魔法が使えますよね。」
「ああ、まだ初級レベルだが使えるぞ。」
「それで結構です。僕達3人がこの粉末を撒くのでボブさんは風を操作して…」
タウロのキラーアント殲滅作戦の説明が始まった。
半日馬車に揺られていると村にかなり接近した。
田園風景が広がりそこを通り過ぎようとしていたら畑の一部に、真っ黒い塊が見えた。
目を凝らすとキラーアントの集団だった。
「まさに今、畑を荒らされてるタイミングだな!」
ボブは御者に馬車を止めさせると、4人は降り立った。
3人は秘密兵器の粉を宙に撒くとボブが風魔法で風を起こす。
タウロの言う通り、殺傷能力「0」のただの強風だ。
その風で粉末を巻き上げキラーアントの集団にぶつける様に風を送る。
すると、驚く事にキラーアントの集団はその場でジタバタし始めると、そのまま絶命した。
タウロはそれを確認すると、すぐキラーアントの死骸に駆け寄るとマジック収納で白い粉末のみを回収する。
「殺傷能力は確認できました。村に向かいましょう!」
あまりの威力に呆然としていた3人は、タウロの声に慌てて頷くと、馬車に乗り込んで御者に急ぐように促すのだった。