【(仮)最終話】 冒険は終わらない
「初代様、お待ちください! 夫人がお呼びになられております!」
場所はジーロシュガー領城館の玄関ホール。
以前とは違い、度重なる改装が行われ、正面階段の先にはタウロとエアリスの肖像画が飾られており、その両端には家族での肖像画なども飾られている。
その肖像画の一つの人物にそっくりな少年が、初代様と呼ぶ青年を呼び止めた。
「? さっき話したばっかりなのに、どうしたのかな?」
その青年はよく見ると肖像画の人物、タウロ本人であった。
以前とは違い青年になったその姿は精悍で、くすんだ金髪に青い瞳以外は、大人になっている事がよくわかる容姿だ。
そのタウロが若者を二人連れている。
「タウロ、その子をもう連れて行くなんて聞いていないわよ?」
玄関ホールの階段を上がった先の手すりのところに金色の長い髪に燃えるような赤瞳のとても美しい年齢不詳の女性が立っており、タウロを咎めるように聞く。
「あ、エアリス。──前回が三代目だったからね。今回はこの子を連れていくと約束していたんだよ」
タウロは妻のエアリスが怒っている事に正当と思われる言い分を告げた。
そう、タウロとエアリスは結婚して、数十年にわたる統治、そしてその間に子供ももうけ、その後、爵位を子供に譲って貴族を引退し、隠居生活を送っている。
当然タウロは能力である『長命』を持っていたから、未だ若い姿を保っており、子孫からは初代様と呼ばれ敬われていた。
そして、妻のエアリスはタウロとの冒険生活の間に真聖女にスキルアップした事で、タウロ同様に長生きできる能力を得て、その美貌はいまだ健在である。
「もう、今回はその子以外に誰を連れていく気なの? 三代目夫婦にもしっかり許可を取っているんでしょうね?」
エアリスの言う三代目とは二人の孫にあたる人物だ。
「エアリス様、タウロ様はちゃんと現侯爵様にも許可を取っておられます」
どこからともなく若く見えるエルフが出てくるとタウロに代わって代弁した。
領主代行から、現在ジーロシュガー侯爵家の筆頭執事に落ち着いているグラスローである。
「グラスロー、タウロの言う事に三代目が『否』と答えるわけがないでしょう。あの子は昔からおじいちゃん子だったんだから。冒険に連れて行ってもらった数年で、タウロ贔屓が激しくなっているのよ。それよりもその夫人の心労を考えなさいな」
エアリスはグラスローも孫達もタウロ信者だから注意した。
「人聞き悪いよ、エアリス! 今回、連れていく子達は、この子をはじめ、アンクとラグーネの孫娘、シャルの子孫の次男、シオンのところの子孫の長女だけど、みんな両親の許可はとっているよ。──だよね、グラスロー?」
タウロは妻に抗議をすると、頼もしい腹心に確認する。
「はい、ラグーネ様、アンク様のところは確認しておりませんが、それ以外は確認済みです。みなさん、『うちの子を鍛え直してください』との事です」
グラスローは未確認のところがある事をあっさり認めつつ、他は大丈夫である事を述べた。
そこに、玄関の扉が開いて、腰に剣を佩いた赤髪に白髪混じりの老戦士が入ってくる。
そして、
「リーダー、うちの孫娘を連れて行くって?」
と第一声が放たれた。
そう、その人物は老いているが背筋がピンと伸びて凛々しいアンクであった。
その後ろには以前と変わらない姿で竜人族のラグーネが立っている。
「タウロ、私を同行させずに孫娘だけ連れていくのか?」
ラグーネは不満そうな顔でタウロを非難する。
「えー? ラグーネは前回の冒険の時の帰りに、今後はアンクとの二人の時間を大切にしたいって言ってたじゃん!」
タウロはこの古い仲間相手だとどうしても子供の頃に戻ってしまう。
「ちょ、ちょっとタウロ! それは言わない約束だったじゃないか!?」
ラグーネは慌ててタウロの口を塞ぐ素振りをみせて答える。
「ごめん、ごめん。でも、今回は僕も覚えた『次元回廊』があるからね。ラグーネは留守番をお願い。孫娘の方はしっかり僕が鍛えるから安心して。それに時折こっちには様子を見に来るからさ」
タウロはちょっと意地悪をしてそう応じると、ジーロシュガー侯爵家の未来の四代目の頭を撫でた。
「はぁ……。わかったよ。アンク、今回はタウロに任せよう……」
ラグーネはため息を吐くとタウロに一任する事にした。
「初代様、僕達は今回どこへ冒険に行くのですか!」
未来の四代目嫡男の子はタウロの血が濃いのかくすんだ金髪に左目が青、右目が赤色のオッドアイの瞳を輝かせて聞く。
まだ、十二歳で全てに対して好奇心旺盛とばかりに積極的に質問する。
「今回は、北の連邦国家の様子を見にいって、その後は前回発見して手つかずのダンジョンの浅い階層を探索かな」
タウロはこの未来の四代目侯爵になるであろう子孫の頭をまた、撫でて今回の旅の予定を話した。
「北の連邦の様子見……か。帝国滅亡後は少しは落ち着いているんだろう?」
アンクが数十年前に自分達で滅ぼすきっかけになった帝国の後に出来た国家の事を思い出し、その後の様子をタウロに聞いた。
「最近、ちょっときな臭い動きをしている組織があるみたいだからね。その確認も含めて様子を見てくるよ。──そう言えば、シオンは?」
「シオンは今日も教会で説教じゃないか? 黒金教も大きくなったとはいえ、信者達が道を外れないように指導に余念がないようだからな」
アンクは宗教に興味がないようなのでざっくりと答える。
「シャルは相変わらずアンクとドワーフのボーゼ達と一緒に領兵隊幹部の指導かい?」
「もちろんさ」
アンクはそう言って、にやりと笑みを浮かべる姿は昔と変わらない。
「王家から剣聖の称号を授かった二人に教えてもらえる領兵達は幸せだね」
タウロは笑ってアンクとシャルの剣聖二人の事を茶化した。
「さすがに歳で引退した身だから昔のようにはいかないがな。──まあ、うちの孫娘をよろしく頼むよ、リーダー。あいつは俺の大魔剣を継いで攻撃に自信があるみたいだが、まだ、無鉄砲なところがあるんだ。その辺りはリーダーが注意してくれると助かる」
アンクは自分の大魔剣を譲るほど孫娘が余程かわいいらしく、心配していた。
「冒険だから何が起きるかわからないけど、注意はしておくよ。もし、それでも死ぬような事があれば、その程度だったと思って」
タウロは長い冒険生活から、生死の境については達観しているところがあったから、そこは念を押した。
「そうだった……。死ぬ時は誰でもあっさり逝くもの、……だったな。──余計な事を言った、忘れてくれ」
アンクは苦笑すると、全てはリーダーに任せるのであった。
「あ、噂をすれば、アンク達の孫娘達がやってきたよ」
タウロは開かれた玄関の扉に向かって歩いてくる自分達の子孫達に気づく。
「……よし。みんな集まったね。それじゃあ、早速、冒険に向かうよ。数年はみんなを鍛えるつもりだから、覚悟してね?」
「「「はい、初代様!」」」
子孫達は、その場で姿勢正しく直立すると、返事をする。
「──エアリス、じゃあ、行ってくるね?」
タウロはちょっと買い物に出かけるかのように気軽さで、妻であるエアリスに手を振った。
「ええ、気を付けてね。──みんなも初代の言う事をしっかり聞いて、成長しなさい」
エアリスはずっと変わらない夫の子供っぽい言い方に笑顔を見せて応じると、次の瞬間にはジーロシュガー侯爵家の初代夫婦としての威厳を見せた。
「「「はい! 初代夫人様! 行って参ります!」」」
子孫達はその言葉により一層気を引き締める。
「はははっ! これから数年は冒険生活だから、その調子だと身が持たないよ。肩の力を抜きな。それじゃあ、改めて行ってくる」
タウロはそう言うと『次元回廊』を開き、子孫達の手を取って新たな冒険へと向かうのであった。
「ふふふっ。タウロの冒険はいつまで続くのかしら」
エアリスが少し苦笑を浮かべて、仲間達に漏らす。
「リーダーはいつまで経ってもリーダーだからなぁ。寿命の限り冒険者であり続けるんじゃないか?」
アンクは老いた自分とは違って、歳をほとんど取らないタウロについて呆れ気味に応じる。
「違いないな。私も次回また、同行できるように腕を磨いておくが、孫娘の成長次第では、様子を見ようか」
同じくほとんど歳を取らないラグーネも元気だが、少しは落ち着いた様子である。
「みんな、シオンやシャル達も呼んで、フルーエ公爵のところで今日は久しぶりに飲みましょうか。そろそろ昔話をしても許される歳だと思うの」
エアリスが十分若い見た目でみんなに提案する。
「そういや、初期メンバーで昔話なんてする事なかったな。それはいいかもしれない」
アンクが、エアリスの提案に乗り気になった。
「そうだな。ずっとタウロと冒険していてそんな暇もなかったし、今日はみんなで語り明かそうか!」
ラグーネも笑顔で応じる。
この日、タウロを除いた初期の『黒金の翼』のメンバーでフルーエ公爵の屋敷に赴き、夜通し過去の冒険について語って飲み明かすのであった。
「初代様、ここが北の国境線の街ですか?」
未来の四代目侯爵予定である子孫がタウロに初めての領地の外の世界に目を輝かせる。
「ああ。ここから僕と君達の冒険の始まりだ。──行こうか!」
タウロは子孫達の嬉しそうな顔に、昔の自分を見ている気分になって心が躍る。
冒険者としては超ベテランだが、やはり、冒険が楽しいのは変わらないし、何が起こるかわからない旅に踏み出すのは、この子達同様、新鮮な気持ちでいっぱいになるのだ。
こうして、タウロはサイーシの街から始まった冒険の続きを、今度は子孫達を引き連れて、また、新たに踏み出すのであった。
──完──
ここまで読んで頂きありがとうございます!
この「仮」の最終話を持ちまして、タウロの物語を一旦休載しようと思います。
この「仮」の最終話では、タウロは仲間の子孫や家族達と冒険をすることで、その子達を鍛えています。
”もしも”的な「仮」の最終話ですが、自分が頭の中で描いていた内容的にはあまり差異はないかなと思います。
「エタるくらいなら、最終話書いてよ!」
という方、これでご納得頂けたら幸いです。
休載理由は色々ありますが、作家として他の作品の書籍化を目指して注力したいという思いが一つありまして、その辺りをご理解頂けるとありがたいです。
いつの日か、物語の続きやSSを描くことがあるかと思いますので、その時はよろしくお願い致します。
改めましてここまで読んで頂きありがとうございました!
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あ、良かったら書籍の方もよろしくお願いします!d(´▽`*)
それでは、他の作品でまた、お会いしましょう!(。・ω・)ノ゛♪
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