第687話 続・久しぶりの恩人達
タウロ主催のパーティーまでの数日間、いろんな人物と面会を続ける事になった。
パーティー当日は、深い話がなかなかできないだろうからだ。
サイーシの街の支部長レオ、ネイ、モーブの他にも、王都の関係者であるガーフィッシュ商会会長とそのサイーシ支部長のパウロなどとも面会をする。
ガーフィッシュ会長は王都に行く度に顔を合わせているので、タウロとの仕事の話やこのジーロシュガー領の支部を任せている若手のエース犬人族であるロビンの様子はどうかなどが会話の中心になった。
そんな中、タウロの才を見出したのがサイーシ支部長であるパウロだ。
パウロはリバーシの面白さにいち早く気づき、会長のガーフィッシュにそれを知らせた人物で、小さい頃のタウロをガーフィッシュ商会に誘った事もあった。
そのパウロは風の便りでタウロの活躍は聞いていたが、久しぶりにあったタウロが立派になっているのでより感慨深いものがあったようだ。
「タウロ殿と私が初めて会った時は本当に小さく、リバーシを思いつく頭と職人顔負けの技術を併せ持つ天才的な子供でしたが、今やガーフィッシュ商会御用達の発明家にして一流冒険者。そして貴重なダンジョンアイテムの提供元。……立派になられましたね」
パウロは感極まって嬉し涙を目に浮かべる。
「パウロさんにはサイーシの街では大変お世話になりました。そう言えば今はどうされているんですか?」
「私は今もサイーシ支部の店長ですよ。お店はかなり大きくなりましたけどね。これもタウロ殿のお陰です」
パウロは話したい事もいっぱいあっただろうが、上司であるガーフィッシュ会長の手前控えめにそう答えるのであった。
次に面会したのは、ダンサスの村の人々である。
一人はダンサスの村に本店をおくマーチェス商会の会長だ。
彼はタウロのお陰で行商からお店を持つまで出世し、さらにはタウロの発明である冷蔵庫やクーラー、他にもダンサスの村で生まれる商品を扱い、今やサート王国最大の港街、オサーカスの街にも大きな支店を持つまでになっている。
「タウロ君、手紙はくれるけど、ずっと村には来てくれないから心配してたんだよ?それにしてもこんなに大出世していたとはなぁ……」
マーチェスは通された応接室を田舎の商人といった感じで見渡しながら、感想を漏らす。
「はははっ。マーチェスさん、元気そうで何よりです。そう言えば、山村のみんなや部下のリーダさんは元気ですか?」
タウロは山賊もどきの事をしていたバンディという山村の若者達やオサーカスの港街支店の責任者になっているリーダを気にかけた。
いずれもタウロが関わった人々だ。
「山村はタウロ君が考えてくれたジャガモーのフライドポテトにマヨネーズ、さらにはポップコーンが名物になっているから、とても豊かになっているよ。リーダもその商いでオサーカスの港街でかなり稼いでくれているから、マーチェス商会もかなり名が売れてきている感じだね。それにガーフィッシュ商会さんにもよくしてもらっているから、これもタウロ君のお陰だよ」
マーチェスはそう言うと深々と頭を下げる。
「それなら良かったです。ダンサスの村にも貢献できたし、みんな幸せそうで良かったですよ」
タウロも久しぶりに聞く思い出の人々の事が聞けて嬉しかった。
「あ、そうだ。オサーカスの港街で冒険者をしているシンとルメヤを覚えているかい?」
「もちろんです。ダンサスの村ではエアリスと共に冒険者チーム『黒金の翼』創設メンバーですから」
タウロは懐かしい名前にふと視線が遠くなる。
「その彼らなんだが、冒険者ギルド・オサーカス支部の冒険者として頑張っていたんだよ。だが、最近、タウロ君の活躍を風の噂に聞いて刺激されたのか、無茶をしてな……」
マーチェスが言葉を詰まらせた。
二人に何か起きたのだろうか?
タウロはその言葉にまじめな表情になる。
マーチェスはそして、続けた。
「──二人はクエスト中に大怪我を負ってな……。残念ながら冒険者を引退したよ。その時に彼女達も失ってな。立ち直るまではうちで下働きとして働いてもらう予定さ」
マーチェスはタウロに恩があるから、その仲間だったシンとルメヤの事も面倒見るつもりのようだ。
「……そうですか……。二人の事、よろしくお願いします」
タウロは悲しい別れ方をした二人の事を、マーチェスに任せるのであった。
そして、次に会ったのが、同じダンサスの村で冒険者としてお世話になった犬人族のボブとその妻猫人族のモモ、そして、その赤ちゃんだ。
「元気にしていたみたいだな、タウロ。いや、ジーロシュガー伯爵か」
ボブは立派になったタウロを一目見て、挨拶するなり、そう言うと頭を下げた。
モモも赤子を抱いたまま頭を下げる。
「はははっ。お二人とも、そんなに畏まらないでくださいよ。今日はあの時のタウロとして話してください」
タウロはダンサスの村を一緒に救う事になったボブとの思い出が脳裏をよぎって笑顔で応じた。
「そうか? 成長したが、良い意味で変わっていなくてよかったよ。──招待状が来た時は驚いたが、立派になったよな。──なぁ、モモ」
「ええ、あなた。タウロ君には私達の結婚式に参加してほしかったのだけど、タイミングが悪くてそれが叶わなくて残念だったのよ。でも、こうしてまた、会えて良かったわ」
妻のモモは赤子をあやしながら、同意する。
「僕が去った直後に結婚したんですか?」
タウロはタイミング悪く村をあとにしたらしい事は商人のマーチェスから話で聞いていた。
「ああ、そして、この子が一年前に生まれてな。落ち着いてきたところで、招待状が来たから家族で会いに行こうって事になって、マーチェス商会の馬車に同乗させてもらったよ」
ボブはモモの手から赤子を抱き取ると、あやしながら答えた。
「お子さんの名前は何というんですか?」
タウロはボブの毛並みにそっくりな犬人族のかわいい男の子の顔を覗き込んで、聞く。
「それはもちろん、タウロに決まっているだろう」
ボブは当然とばかりに、モモと視線を交わして笑うとそう答える。
「ええ? 僕の名前を付けたんですか!?」
タウロもこれには意表突かれて聞き返す。
「俺が今冒険者として成功して、モモと一緒になり、子供を授かる事が出来たのはタウロのお陰だからな。最初からそう名付けるつもりだったさ、当然だろう?」
ボブはそう言うと、タウロに以前作ってもらった魔刀を腰に佩いてそれをポンと叩いてみせた。
「それは光栄です。──でも、女の子だったら、どうするつもりだったんですか?」
タウロは笑顔で応じると、疑問を口にした。
「その時は、エアリスにする予定だった。さっき聞いたが、婚約したんだろ?」
ボブは笑ってそう応じた。
「え? そうだったんですか!? ちょっと待ってください。エアリスも呼びますね!」
タウロはそう言うと、脇に控える使用人にエアリスを呼んでくれるようにお願いする。
すぐにエアリスはやってきた。
そして、赤子を中心に四人はダンサスの村時代の話に花を咲かせるのであった。




