第686話 久し振りの恩人達
領都シュガーには続々と周辺領主から自治区の代表、各地のタウロの関係者が続々と集まってきていた。
宿泊の為の施設は招待者人数からすでに事前に用意されており、城館内の施設もフル稼働で使用されている。
この時代、遠方からの招待客ともなると予定より早く着く事やその逆もざらだったから、パーティーの数日前には宿泊施設もかなり埋まっている状態であった。
それとは別にわざと前乗りしている招待客もいる。
領主であるタウロと個人的に時間を作って話そうとする者もいるのだ。
丁度今、その前乗りした招待客の一組が、応接室に通され、タウロが訪れるのを待っていた。
「お待たせしました」
タウロは応接室に入ると、丁寧に挨拶をする。
「タウロ、元気だったか」
「タウロ君、立派になって……」
「久しぶりだな、タウロ」
三者が三様の挨拶をする。
そこにいたのは、サイーシの街の冒険者ギルド支部長レオ、受付嬢のネイ、そして今やそのネイの旦那で、タウロに冒険者の道を切り開いてくれたモーブだった。
「レオさん、ネイさん、そしてモーブさんお久し振りです!」
タウロはレオとネイは以前、サイーシの街を訪れた際に会う事が出来ていたので、さほど久しぶりの感じもしなかったのだが、モーブに関しては、本当に久し振りだった。
冒険者として第一線で活躍しているというのは風の噂で聞いていたくらいで、会う事がなかっただけに、嬉しい限りである。
「俺とネイは以前に一度、会っているからな。だが、モーブは本当に久し振りだろうな」
冒険者ギルドサイーシ支部長レオが、笑って指摘する。
「ええ。俺がサイーシの街をあとにしてからは、全く会えてなかったので、小さい時のタウロが脳裏に残っているから不思議ですよ。はははっ! ──それにしても本当に立派になったな、タウロ。いや、今はお貴族様だったな。はははっ!」
久し振りのモーブはあの時と変わらない雰囲気、いや、あの時よりも精悍な顔つきになった気もするが、あまり変わらない態度であった。
「モーブさん、からかわないでくださいよ! 貴族と言ってもほとんど冒険者として行動していたので、全くそういう感じではないですから……」
タウロはモーブの以前と変わらない態度に安堵しながらも、そう謙遜した。
「そうなのか? 俺が聞いた噂ではジーロ・シュガーの名でいろんな発明をして全国各地に名を轟かせていたから、かなり裕福な生活を送っている、とあったんだがな? わははっ!」
モーブはからかうように尚且つ嬉しそうに言った。
「発明の方では確かに結構稼がせてもらっていますけど、冒険者業に力を入れてたので、贅沢は全くしてませんよ。あははっ」
タウロはモーブの好意的な冗談に笑顔で応じる。
「数年前はサイーシの街にいた二人が立派になったもんだ。モーブも今やチーム『銀剣』と共にB+冒険者として各地を巡っているからな。タウロは発明の方ばかり風の噂で聞いていたが、冒険者ランクはどのくらいだ? うちにはお前の情報は届いていないんだ」
二人の会話に入って、支部長レオがかつて世話した少年冒険者の現在を知りたがった。
「僕ですか? ああ、確かに僕の名前よりチーム名の方が独り歩きしているから、知らなくて当然ですよね……」
「チーム? もっぱらソロだったタウロもチームに入っているのか。そんなに有名なら俺も聞いた事があるかもしれない。どこのチームだ?」
モーブは昔を思い出して懐かしさに微笑むとタウロの所属するチームを聞いた。
「これで、言って知られていなかったら恥ずかしいですけど……。──『黒金の翼』って知っていますか?」
「何!? 王都で今、有名なあの『黒金の翼』か!?」
「あそこは確か彗星の如く現れたチームで、この一、二年で頭角を現してきた王都最強と言われるチームだろ? そのメンバーの多くはAランク帯ばかりの超一流って聞くぞ? そんなところによく入れたな!」
レオとモーブは目を見合わせて驚くと、タウロの出世を喜ぶ。
「いや……、入れたというか……、僕が作ったというか……」
タウロはちょっと勘違いをされている事に気づいてどう説明しようか迷った。
二人はどうやら、タウロがそのメンバーの末端に入れたくらいに思っているようだ。
「『黒金の翼』の名は、地方にいた俺でも最近、噂に聞いて知っていたよ。発明と冒険者どちらでも名を馳せたな、タウロ。──そうだ、冒険者ランクはどのくらいなんだ? あの『黒金の翼』に入れるくらいなんだ、最低でもCランク帯くらいはあるんだろう?」
モーブはタウロの出世が嬉しくて冒険者ランクを聞く。
「僕は現在、モーブさんと同じB+冒険者です。あ、でも、確か昇格が決まっているのでAランク帯になるみたいです」
タウロは自慢するでもなく笑顔でそれを告げた。
「「「え……、Aランク帯!?」」」
これにはレオとモーブだけでなく、微笑んで聞いていた受付嬢のネイも一緒に驚いて声を上げた。
「はい。そして『黒金の翼』は僕が作ったチームなので、そのリーダーも僕がやらせてもらってます」
タウロはこのとてもお世話になった恩人達に事実を伝える。
もちろん、嬉しい意味で驚かせる為に言っているのだが……。
これには支部長で元Aランク冒険者だったレオも驚かずにはいられなかったが、呆れたように笑みを浮かべると口を開いた。
「まさか、その歳で俺のいたランクに到達するとはな……。良い成長をしてくれるだろうとは思っていたが、これほどまでとは思わなかったぞ? わははっ!」
支部長レオはタウロの想像を遥かに超える成長ぶりに笑うしかなかった。
「……はぁ。先輩面していた俺がわずか数年で抜かされるとはな……。はははっ! だがそれがお前だとなぜか嫉妬も生まれないな! 立派になったなタウロ!」
モーブはサイーシの冒険者ギルドで登録料の銀貨を用意したあの時からのタウロとの関係を思い出すと、苦笑し、そして、大笑いするとタウロを祝福した。
「本当にタウロ君、立派になったわ。超一流冒険者にして、伯爵様なんでしょ? 私達が気軽に会えるのも、これが最後かもね……」
ネイはしみじみとそう告げる。
「はははっ! 僕は確かに伯爵になりましたが、冒険者が本分だと思っていますよ。実際、この領地を任せられる領主代理も見つけましたし」
タウロはそう言うと、後ろに黙って立っているエルフのグラスローに視線を送る。
グラスローは黙って軽く会釈する。
「……そうか。一番境遇が変わったのはタウロのはずなんだが、中身が一番変わっていないのもタウロかもしれないな。わははっ! それでは数日後のパーティー、楽しみにしているぞ」
支部長レオは長い事話していた事をふと思い出し、そろそろ楽しい時間も終わりとばかりに、話を仕切る。
「はい。みなさんもそれまでこの街でゆっくりしてください」
タウロは懐かしい恩人達に心からそう答えると、ネイとモーブの結婚を祝福しつつ、面会を終えるのであった。




