第680話 続・伝説の人物
「「「精霊人族?」」」
タウロ達は小人族の領兵総隊長シャルことシャルル・ペローから、伝説の魔道具士ジャン・フェローについて驚く説明を受けていた。
「そうでしゅ。ジャン・フェローはこのサート王国では絶滅が危惧されている精霊人族でしゅ」
シャルは執務室に集まっていたタウロ達に簡単にそう説明する。
「精霊人族って、精霊と他の種族の血が流れる種族の事だよね?」
タウロはあまり聞かない種族である精霊人について、自分なりの知識を縛りだした。
「お伽噺の話かと思っていたわ……」
エアリスはタウロの言葉に、そう反応する。
「私は知っているぞ。精霊人族はエルフ以上に交配率が低く、種族として存在を確認するのも難しいとな。シャル殿はそんな珍しい種族の人物とよく友人であったな」
ラグーネが竜人族としての知識を披露しつつ、シャルに感心した。
「ジャン・フェローとは遠い親戚でもあるのでしゅ。彼は光の精霊と小人族の女性との間に生まれ、その家系が自分のご先祖様に当たるのでしゅ」
シャルは自分とジャン・フェローとの関係性を説明した。
「へー! だから友人関係があるのか」
タウロは改めて感心する。
「そんな珍しい種族という事もあり、ジャン・フェローは引きこもりがちな生活を送っているでしゅ。でも、その魔道具士としての腕は確かで、ごく稀に新商品を作っては小人族の行商に販売を委託し、その売り上げで隠遁生活を続けているでしゅ」
「そんな凄い人が、シャルさんに会いにこの領都シュガーに来るというのは凄い事では!?」
猫人族の混血であるシオンがそのとても珍しい可能性を指摘した。
「そうなのでしゅ。ダメもとで手紙を出したのでしゅが、まさか、あっちから来るとは思っていなかったのでしゅ」
シャルは場合によっては自分の方から訪問する気だったようだ。
まさか、そのジャン・フェローはタウロや友人のシャルの事よりも、カレーパンを食べた事によって、この領都に興味を持ったとは思いもよらないところである。
「それで、シャルが先日言っていた魔法信号って何?」
タウロはシャルから数日前に聞いた聞きなれない単語にも興味を持っていた。
「魔法信号というのは、ジャン・フェローが考えた連絡手段でしゅ。もとは光の精霊魔法を使用する時に周囲の下位精霊が微かに反応するのを利用したもので、自分はジャン・フェローと光の精霊契約を結んでその微妙な反応に気づけるようになったのでしゅ。あっちが、こちらに送った信号は『行く』。音だとトン・ツー、トントントン・ツーでしゅ」
シャルはジャン・フェローとのやり取り詳しく説明してくれた。
「ああ! 原理はモールス信号みたいだね。なるほど、そんな使い方もあるのかぁ」
タウロは一人、前世の知識と照らし合わせてシャルの説明に一人納得する。
「タウロ一人だけ納得していないで、みんなにもわかりやすく説明してあげて」
「はははっ。つまり、決まった光の明滅でシャルに簡単な返事が送れるという事だよ。──だよね?」
タウロもわかりやすく説明すると、シャルに確認する。
「そうでしゅ! 他人に説明するのは難しいのでしゅが、その通りでしゅ。──『ツ・イ・タ』。あ! こちらに到着したみたいでしゅ」
シャルが答えると、その顔の周囲で光の精霊が微かに明滅したのが、タウロにだけはわかった。
タウロは精霊魔法が使えるので、精霊自体を肉眼でとらえる事が出来るからだ。
と言っても、見えはするが別に話したりできるわけでないから、普段は全く気にする事もない。
「到着するの早いね。何か乗り物でもあるのかな?」
シャルから聞いた話では、ジャン・フェローの棲家は小人族自治区の中でもずっと奥地で徒歩ならここまで五日はかかるという事だ。
「多分領境までは、魔法を使用したのだと思うのでしゅ。それならあとは徒歩でここまで二日かけてゆっくり来たと思われるのでしゅ」
「魔法? それも気になるけど、今は、お客様を表で出迎えないといけないね」
タウロはそう言うと、城館の門までみんなに移動を促すのであった。
「……こないね?」
出迎えの為に、城門前に立って二時間経過したが、伝説の魔道具士ジャン・フェローは現れない。
「……ちょっと、連絡してみるでしゅ」
シャルは主人であるタウロに申し訳なくなったので、光の精霊魔法の『照明』を頭上で何度も軽く明滅させる。
するとそれに反応するようにシャル頭上で光の精霊達が軽く点滅した。
タウロとシャル以外は気づけない点滅であったが、
「カ・レ・エ?」
と二人は光による点滅でそう読み解く。
「……もしかして、カレー屋さんの事言ってる?」
タウロが予想を口にする。
「……申し訳ないです、タウロ様。そうかもしれないでしゅ……」
シャルは、苦笑するとタウロの予想が当たっているかもしれない事を指摘するのであった。
タウロ達が狼型人形ガロに跨り、大通りのカレー屋に到着する。
そして、すぐ入り店内を見渡すと、相変わらず大盛況であった。
「あ、多分、あそこの人物でしゅ」
シャルが、指さす先には、四人席に小人族と二人で一緒に食事をする茶色い帽子を目深に被った子供くらいの大きさの人物が、カレーを食べていた。
テーブルの上には食べ終えた皿が何枚も重なっており、どうやら、到着してずっと食べていたようであった。
「ジャン! 城館でみんな君の事を待っていたでしゅよ。 ここで何をしているでしゅか?」
シャルは古い友人の行動に呆れ気味に聞く。
「うん? おお! シャル、久しぶりだなぁ。もちろん、カレーを食べに来たに決まっているだろう?」
ジャンはシャルに気づくと、一瞬食べるのを止めたが、言い終えると、また、スプーンを動かして食べ始める。
「手を止めるでしゅよ。タウロ様が、いるのでしゅ」
「ああ、いいよ、シャル。食べ終わるまで待っていよう。というか僕達もお腹減ったし、隣の席で食べていよう」
シャルはジャン・フェローを注意するのだったが、タウロが制止し、一同は席に着く。
そして、しばし、食事の時間になるのであった。
「──いっぱい食べたー。──あ、シャル、一緒にいる人達は誰だい?」
ジャン・フェローはカレーをお腹いっぱい堪能すると、ようやく、シャルと一緒にいるタウロ達に気づいて興味を持った。
「初めまして。カレーを気に入って頂けましたか? 僕は、そのカレーの生みの親です」
タウロは領主とは名乗らず、自己紹介をした。
「おお! この革命的な食べ物を考えた人物だったか! これは素晴らしい食べ物だよ。こんなものを儂は味わったことがなかった。先日、ここにいる行商からカレーパンをお土産に貰わなかったら、知る事すらなかったよ!」
ジャン・フェローはカレーの生みの親のタウロに感動を伝える。
「それは良かったです。──そうだ、ジャンさんとは魔導具についてお話をしたいと思っていたので場所を移動しませんか?」
タウロは笑顔で応じると、城館へと誘う。
「カレーを思いついた人物が相手なら楽しい会話が出来そうだ。いいぞ、行こうか。──あ、シャル、そっちの用事はまた、あとでな」
ジャン・フェローはタウロに警戒心を抱く事なく賛同すると、友人のシャルもいるからか、タウロに従って城館まで行く事にするのであった。
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