第678話 新商品の売れ行き
新商品であるカレーパンは、城館でみんなに振舞った一週間後にはタウロがオーナーであるカレー屋さんでも販売できるように店長のアイシャと話を進めていた。
すでにカレー屋は蜥蜴人自治区から仕入れた新しいお米で販売して改めて評判になって繁盛していた事もあり、さらなる新商品発売を店頭にポスターを張って宣伝すると発売当日のカレー屋の前には朝から早速、行列ができていた。
面白いのは、その行列は文字通り多民族で構成されていた事だ。
一番先頭にいたのは、小人族の商人だったし、次に蜥蜴人族、エルフにドワーフ、人族、各獣人族もいた。さらにはまだ、交流がないはずの巨人族の商人までが、きちんと列に並んでいた。
「……ここまで、異種族が並んでくれると、カレーの偉大さがわかるね」
タウロは前世の日本で国民食として広がり、世界でも評価が高かった日本式カレーは、こちらでも十分人気である事が嬉しくなる。
「タウロ様は凄いですよ。このような美味しい食べ物を作ってしまわれるのですから!」
『カレー屋』ジーロシュガー領本店の店長を任されているアイシャは、行列を店内から眺めつつ、カレー人気に誇らしげだ。
「はははっ! カレー粉作りは当初本当に大変だったからね」
タウロは冒険を始めた最初の街、サイーシの食堂で奮闘した事を思い出して振り返る。
「そうでしょう、そうでしょう! あのような複雑な配合、私では思いつかないですから」
アイシャはすでにカレー屋店長として、カレーを愛していたし、それを生み出したタウロを尊敬している。
タウロが彼女にお店を任せてから、ここまでお店は大人気を維持していたし、異種族相手にメニューを色々と考え、試してみたり、挑戦も怠らない良い店長であったから、タウロとしては任せてよかったと満足してた。
「今日は、新商品のカレーパンが売れる事を祈ろうかな」
タウロはそう告げると、お店の開店時間に合わせて従業員に扉を開けるように頷く。
「「「いらっしゃいませ、どうぞ!」」」
従業員が、先頭の小人族達に開店を知らせて店内に案内する。
「今日は新商品のカレーパンというものをお持ち帰りしたいでしゅ!」
「買ったら自治区に帰る馬車の中で食べるもん!」
「俺はそのカレーパンを五個買って帰るにょ!」
新商品購入第一号がこの可愛いお客でほっこりするタウロであったが、当人達に言うと怒るのはわかっているから、笑顔で対応する。
「新商品の『カレーパン』は、こちらで店頭販売するので、こちらにどうぞ」
とタウロが揚げたてのカレーパンが陳列されている場所に誘導する。
「「「いつ来てもいい香りでしゅ(だもん)(だにょ)!」」」
小人族はそう言うと、すぐに誘導された先の店員に購入数量を告げて、紙袋に入れてもらいそれを受け取るとお金を支払って笑顔で出ていく。
次から次に異種族のお客達はカレーパンを購入して仕事先に出かけていくのだが、数人は購入して通りに出るとその場で袋を開けて食べ始めた。
「う、うめぇー!」
「いつものカレーとは違うタイプのカレーだな!」
「パン生地がカレーと合っていやがる!」
この声は通りを朝から忙しく歩く通行人達の耳にも届いた。
「なんだ、なんだ?」
「カレーパン? 新商品か?」
「あ、今日発売だったのか、忘れてた! 仕方ない、今から並ぶか!」
通行人達もカレーのおいしさは重々承知していたから、足を止めて並び始めるのであった。
もちろん、店内で食べて帰る者もいた。
なにしろ近所には交易所もあるから、他種族の商人達が沢山出入りしており、タウロがオーナーのカレー屋と焼き肉屋はただでさえ、いい匂いをさせて連日大盛況であったので、新商品と聞くと休憩時間に食事をしようと続々と店内に入ってくる。
「お姉さん、カツカレーとカレーパンをお願い!」
「俺はハンバーグカレーとカレーパン二個な!」
「私は野菜カレーとカレーパンを!」
店内のお客は席に着くと店員をすぐさま呼んで、注文を取る。
何しろ店頭販売のカレーパンは行列の山であったから、店内で食事がてら注文する方が速く食べられそうであった。
それに気づいたのか、巨人族の商人は列から離れ、店内に入ってきた。
「いつものカツカレー特大大盛りとカレーパン五個をお願い」
巨人族の商人は広い店内が狭く感じるような大きさであったが、店内には巨人族用に広いスペースを確保しているから、そこに着席すると、大量注文する。
「おお……! 僕がふざけて作ったメニュー特大大盛りが注文で出るところを見られるとは……!」
タウロは悪ふざけで用意していたメニューが、巨人族のハートに刺さるものであった事に少し感動する。
「巨人族のみなさんには特大大盛りは凄く喜ばれていますよ。それにお米が以前よりも美味しくなったと褒めちぎっていました」
アイシャが結構注文で出る事を教えてくれた。
「そうなの? お米は蜥蜴人自治区からいいものが手に入るようになったからね。やはり、わかる人にはわかるんだなぁ……。──お? カレーパンは用意した第一陣は売り切れそうだ。次は大丈夫?」
「予想より売れるペースが速いです! ──みんな、どんどん揚げて頂戴! お昼からの分も回していいから!」
アイシャはタウロの指摘で回転率が異常なペースになっている事に気づき、慌てて現場を指揮する。
「仕方ない。僕がみんなに配るようにとっておいた分を回すよ」
タウロはそう言うと城館で大量に作っておいたカレーパンをマジック収納から出して次が揚がるまでの繋ぎとした。
「タウロ様、助かります!」
アイシャは感謝すると従業員に加わり、カレーパンの店頭販売に協力するのであった。
「幸先良いなぁ。いろんな種族にも評判みたいだしこれは大成功かな?」
タウロは売れ行き好調な事に安堵し、満足するのであった。




