第675話 偉業の評価
タウロは玉座の間において、国王をはじめ、サート王国の中枢の貴族や官吏が集まる中でダンジョン『バビロン』の攻略を果たした事を説明した。
メンバーが最深部まで到達した事、そこに自分が呼ばれ、最深部に鎮座する『迷宮核』を破壊した事、この事により今後、魔物大氾濫の恐れがなくなった事、また、ダンジョン自体は以前と変わらず維持されており、資源の確保は今後も可能である事などをである。
「魔物大氾濫の恐れがなくなった事は、実に素晴らしい事だ。それに、これまでダンジョン攻略の為に多大な予算が割かれてきた。それが必要なくなる事を考えると大臣や官吏達も喜んでいるのではないか?」
国王はタウロ達の働きを評価すると、国としても非常に喜ばしい事を冗談で言う。
これには、大臣や官吏達から安堵の笑いが起きる。
それくらい経費が多額であったという事だろう。
「陛下、しかし、証言だけで確認はとれていません。後日、検証が必要かと」
上級貴族の一人が、そう指摘する。
「その検証は簡単にできる事なのか?」
国王は最深部に容易に到達できるとは考えていないから聞き返す。
この目の前の少年冒険者以外では不可能だろうと予測してである。
「それは、このジーロシュガー子爵殿に案内してもらえれば、大丈夫ではないですか?」
そう申し出たのは、この国におけるダンジョン研究の第一人者で、リバーシのファンでもあるシャーガという学者であった。
以前、ダンサスの村のダンジョン跡の調査ではタウロに道案内をしてもらってからは知らない仲ではない。
「……シャーザさんを案内して、最深部を確認できれば、納得するのですか? しかし、こう言っては何ですが、最深部はそれこそ三百三十三階層となっています。そこに出没する魔物は想像を超える強さであり、僕でも自分の命を守る事が限界です。万が一遭遇したら、命の保証はしかねますので、自己責任でお願いしたいのですが……」
タウロは今後も案内を命令される可能性を考えて危険性について念を押しておく事にした。
特に上級貴族は観光名所に行く気軽さでタウロに案内を指図してくる可能性は高いから、これは大事だろう。
「騎士達を動員すれば、身の安全くらいは守れるのではないか?」
案の定貴族の一人が、想像力に欠ける提案をした。
「……あえて、申し上げますが、これまで国家を挙げてでも百階層までの攻略が限界であったダンジョンです。その三倍の階層の魔物相手に騎士の皆さんを動員したとして、生き残れると本当に思いますか? 全滅してからやはり危険でしたでは済まないのでお気を付け頂きたいのですが……」
タウロは今後、ダンジョンの利権に群がる貴族達は絶対いると思っていたから、ここで釘を刺すしかない。
何しろ自分は子爵、上級貴族に懇願されたら断るのは難しい。
それが王家であったらなおの事である。
ここで、安易に承諾すると、今後が大変である事も容易に想像できるのであった。
「……むぅ。だが、子爵は最深部まで行けたのだろう? それなら子爵の冒険者チーム『黒金の翼』に案内させればよいのではないかね?」
「それは、仲間一人一人が最深部まで到達できる実力を兼ね備えていたからです。そうでない者を一緒に連れていけば、その命の保証はできません。みんな自分の命を守るのだけで必死ですから」
これは多少大袈裟な言い分であったが、今後、無茶なお願いをされる事は避けたいからタウロもそう答えるほかない。
「ジーロシュガー子爵の申す通り、ダンジョンがいかに困難な場所であるかは、これまでの攻略の歴史を考えれば容易に想像がつくところだ。攻略した事で脅威が消えた事をよしとするべきだろう。なあ、バリエーラ宰相」
国王は貴族達が、ダンジョンが攻略された事で権益が生まれ、そこに群がろうとしている事は想像できたから、ここは自分と宰相の二人で抑制させるしかないと判断したようだ。
「陛下が仰せの通りかと。魔物大氾濫が起きないという事だけでも、国家の安全管理に多大な貢献をしたのは事実であります。その大きな功を立てたジーロシュガー子爵に最深部までの道案内を再度させるのは忍びない事です」
バリエーラ宰相閣下は国王に賛同してタウロを庇った。
これには少し、ある事も関係している。
それはジーロシュガー領で密かに採掘したオリハルコンだ。
タウロは現在市場で高騰しているオリハルコンをバリエーラ公爵経由で王家に市場より安い価格で譲る約束をしている。
まあ、単純に言うと賄賂みたいなものであるが、これにより王家はオリハルコン市場を左右できる状態であり、それによって王家の力がいまだ健在である事を国内外に示す事にもなったから、ジーロシュガー領と王家の結びつきはかなり強くなっていた。
「──そうだな。それにそんな多大な貢献をしたジーロシュガーが子爵のままというのも不憫である。現在の領地も元々は伯爵領であった。ジーロシュガーを伯爵に昇爵させ、その働きに報いよう。皆の者もそれでよいな?」
国王は宰相の言葉に勢いを増し、タウロの昇爵に言及した。
これには居合わせた者達もざわついた。
なにしろタウロはまだ、成人前である。
それがトントン拍子で伯爵への昇爵となると異例の事だ。
「陛下。さすがにそれは、前例がない事ですぞ!」
上級貴族の一人が、驚いて口を挟む。
「その前例のない偉業を成したのが、このジーロシュガー子爵だ。その偉業に報いずしてどうする? もし、ジーロシュガーの昇爵を見送ってみよ? 今後、同じような偉業を成そうとする者はいなくなるであろう。それでは民心は離れ、この国は破滅の道を歩む事になる。そんな前例を我が代で作る気はないぞ?」
国王は嘆息交じりに、反論しようとしている貴族に告げる。
ここまで国王に言われると、反論する者はいなくなった。
反論すれば国家が傾く事を願っているという事になるからだ。
「……もう異論はないようだな? ──タウロ・ジーロシュガー。今回の偉業を評価して伯爵への昇爵を認めるものである」
国王は笑みを浮かべると、タウロにそう告げる。
「ははっ。謹んでお受け致します」
タウロは断る立場にないから、一言そう述べると、頭を恭しく下げ、昇爵を受けるのであった。
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