第674話 攻略報告
タウロ達一行は、翌日、朝一番でラグーネの『次元回廊』、タウロの『空間転移』を使って、竜人族の村→『始まりのダンジョン』→『バビロン』→狼型人形ガロに乗って王都まで短時間で移動した。
王都に入るとそのまま、王城へと向かう。
フルーエ王子にダンジョン攻略の報告をする為だ。
タウロは貴族と言っても下級貴族なので、人脈を駆使してもすぐに会えるのは友人であるフルーエ王子までが精いっぱいである。
もちろん、王城の城門では王家の紋章入りの小剣を示す事で王城の城門は潜れるが、陛下への目通りを求めるほど無謀ではないのだ。
タウロはいつも通り、門番に王家の紋章入り小剣を示した。
「あ、ジーロシュガー子爵、お待ちしておりました! 誰かジーロシュガー子爵を案内してくれ!」
タウロの顔を知っている門番が、そう反応を示して先導役を他の兵士に指示する。
すぐに若い騎士が駆けつけると、「ご案内します!」と敬礼して先導した。
「? 今日はやけに恭しい気が……」
タウロはエアリスと視線を交わしそうつぶやく。
「あら? いつもの場所に向かっていないわ。──フルーエ王子殿下、自室にはいないのかしら?」
エアリスも先導役の兵士の対応や向かっている先が違う事から首を傾げる。
「なんだ、いつもと違うのか?」
アンクはタウロに同行して王宮に来る事はほぼないので、歩きながら疑問を口にする。
「絨毯がフカフカです!」
シオンは歩いている廊下に敷かれている絨毯に感動している。
「本当だ。いつもの廊下の絨毯より上等な気がする……」
タウロもシオンの指摘で気づいて軽く驚く。
「……もしかして……」
エアリスが軽く息を吞む。
「「「?」」」
エアリスの反応に、一同は疑問符を頭に浮かべ、聞き返そうとした時であった。
「こちらの部屋でお待ちください」
と先導役の騎士はそう告げて扉を開けるとタウロ達一行を案内する。
タウロ達は頭を下げると、とても豪華な待合室に通された。
「ひゃー、すげぇなこの部屋!」
アンクが入るなり、驚きの声を上げた。
以前、タウロが子爵位を国王に授与された時は、簡易的な形式だったので、小さな部屋で行われた。
その時に通された待合室も十分立派だったが、この部屋はさらに立派だったのだ。
「アンクさん、下手に室内のもの触っちゃ駄目ですよ? 壊したら弁償で高額請求されると思います」
シオンはアンクのはしゃぎようを止める。
「確かに立派だな。無骨な私でも高価な品々が並んでいる事はよくわかるぞ」
ラグーネもシオン同様、室内の品々に触れないように遠巻きに眺めた。
「……」
エアリスは完全に閉口している。
「どうしたの、エアリス? さっき何か言おうとしたように聞こえたけど?」
「タウロ、落ち着いて聞いて頂戴。……ここはもしかしたら──」
エアリスはタウロに説明をしようとした。
すると、扉が開き、
「お待たせしました。私の後についてきてください」
と、先ほどとは違う騎士がタウロ達を再びどこかに案内するべく、一行に告げる。
「は、はい」
タウロは物々しい雰囲気に少し驚くと、ここでようやく、
あれ? もしかしてフルーエ王子殿下が誰か他のお偉いさんと会っているところに、僕達は連れてこられている?
と憶測を立てた。
エアリスに視線を送ると、緊張でしゃべる事も控えたように、タウロに対して上を指差し、首を振るゼスチャーを行う。
「「「?」」」
これにはタウロだけでなく、ラグーネ、アンク、シオンも首を傾げる。
厳かな雰囲気に誰もがその場で話すのを迷っていたところで、
「ここにお並びください」
と大きく豪華で物々しい扉の前にタウロ達は立たされる。
これ、リバーシの時に経験があるんだけど……。
タウロは昔を思い出した。
そう、宰相閣下とリバーシ対決をした時に、扉の前で待たされ、案内の声が響いてくるやつである。
「タウロ・ジーロシュガー子爵、エアリス・ヴァンダイン侯爵令嬢とその一行が到着しました!」
という大きな声が響く。
そして、それと同時に目の前の大きな扉が開くのであった。
そこは、文字通り、玉座があった。
簡易的なものではなく、公式行事で使われる広く大きな室内だ。
これをみて、誰もがすぐに玉座の間であると理解する。
そこには、玉座に当然ながら国王が座り、その隣に宰相。そこに続く赤い絨毯の両側に列席しているのは上級官吏や上級貴族達。
そこにタウロ達一行は、通された。
なぜタウロ達の面会に合わせて、国王以下貴族達がその場に居合わせたかというと、前日に冒険者ギルドからの報告を受け、ダンジョン『バビロン』が攻略されたという事を知り、この日、王都にいた関係者が緊急招集されていたのである。
そこに、タウロがフルーエ王子に面会を求めに来たので、そのまま、玉座の間に通される事になったという次第であった。
だが、もちろん、タウロ達はその事を知らなかったから、ドッキリのようなもので、どうしていいのかわからない状態であった。
いや、かろうじてエアリスが作法を知っているから、タウロ達はそれをマネして、フカフカの絨毯に片膝をつく。
それを宰相が確認すると、国王に代わり、発言する。
「よくぞ参った、『黒金の翼』一同よ。そして、そのリーダーであるタウロ・ジーロシュガー子爵」
「……」
タウロは、返答に困って沈黙する。
エアリスは恭しく頭を下げたままなので、自分もマネしたままだ。
「面を上げよ」
宰相が、そう告げる。
だが、エアリスは頭を上げない。
どうやら、一度で頭を挙げてはいけないらしい。
「国王陛下が許可されている。面を上げよ」
再度宰相が告げる。
そこで初めてエアリスが面を上げたので、タウロ達も続く。
「……子爵位を授けてから二年も経たないはずだが、ダンジョン完全攻略は真か?」
国王が、タウロ達の顔を確認して、問いただす。
「……」
エアリスは答えないから、答えない方がいいのだろう、タウロも答えない。
「よい、陛下直々の問いだ。お答えせよ」
「……それでは、失礼します。──今回、確かにダンジョン『バビロン』最深部において攻略したというのは事実でございます」
タウロは澄んだ声で、この玉座の間全体に響く声で応じた。
すると、その場に居合わせた者達は一気にざわつく。
「では、本当に!?」
「いや、まだ、確認しない事には……」
「だが、あの『黒金の翼』のリーダーであるジーロシュガー子爵本人が
証言しているのならこれ以上の証明はあるまい」
ダンジョンに詳しい関係者達が意見を交わす。
「静まれ! ジーロシュガー子爵の『黒金の翼』は今では、この王都で知らない者はいないほどの冒険者チームだ。ランクにおいてもそのメンバーがAランク帯で占め、その強さも証明している。ジーロシュガー子爵には詳しい話を求めたい。──よろしいですか、陛下?」
宰相が国王に確認を取る。
「うむ」
国王は一言頷く。
こうして、タウロは宰相に促され、ダンジョン攻略の報告をするのであった。




