第672話 英雄達を招待
タウロ達一行は、冒険者ギルドへのダンジョン攻略報告は残りの英雄達に任せると、竜人族の英雄達も連れて『バビロン』から、『始まりのダンジョン』、そこから竜人族の村のラグーネの自宅まで、移動する。
そこに丁度ラグーネの兄ドラゴが、家から出てきた。
「お! タウロ殿こちらに来ていたのですか! ……それにしても竜人族の英雄達まで連れてどこに行くのですか?」
兄ドラゴはそうそうたる面々が自宅の前に集結していたので素直に驚きの表情で聞く。
「あ、ドラゴさん、こんにちは。ダンジョン『バビロン』攻略を完了したので、みなさんを労うべく、今から僕の領地に案内するところでして……。そうだ、ドラゴさんも研究の息抜きついでにうちに来ませんか?」
タウロはそう言うと、ドラゴも誘う。
「そういう事ですか! 私は領主就任式の時に行かせてもらいますよ。タウロ殿の協力のお陰で魔法研究の方もいい感じで捗っているところですし」
ドラゴはそう言うと誘いを断る。
ドラゴは古代魔法の研究を行っており、タウロには古代魔法陣について教えてもらった事もあるのだ。
それに、タウロは特殊な魔法をいくつか使えるから、ドラゴにも見せた事がある。
「そうですか? あまり無理はしないでくださいね」
タウロは少し残念そうにする。
「いいのだ、タウロ。兄はずっとこんな感じで研究ばかりだからな」
妹のラグーネは兄に素っ気ない。
「妹の素っ気なさにも慣れてきました。これがきっと遅れてきた反抗期なんですね……」
ドラゴはちょっと落ち込んだ様子でタウロに答える。
「兄上! そんな事はないから変な事をみんなの前で言わないで!」
いつも、我が道を行く感じのラグーネが顔を赤らめて兄に抗議する。
「はははっ! 冗談だ!」
ドラゴは笑って妹にやり返したとばかりに笑う。
そんな和やかな雰囲気の下、タウロは自領に行きたい英雄一行をラグーネ『次元回廊』とタウロの『空間転移』を使って、ドラゴに見送られながらジーロシュガー領に移動するのであった。
タウロのジーロシュガー領は、続々と他領の者達が流入し始めていた。
異種族の自治区、それこそ、交流と交易を再開したドワーフ族、エルフ族、小人族、蜥蜴人族以外の種族の者達もジーロシュガー領が開かれた土地として、商人を中心に交易所にやって来つつある。
そして、近隣の貴族領からもこの動きを察知して、鼻のきく商人達が足を運ぶようになってきた。
「おお! 王都も人種のるつぼとして色々な種族の者がいましたが、そこはやはり、人族の王都。やはり人が中心の街でしたが、ここは本当に色々な種族でごった返していますね」
竜人族の英雄達は、ジーロシュガー領に訪れると、まずは異種族の割合について指摘した。
「それも、ここ最近の事なんですけどね。ドワーフ族やエルフ族、小人族を中心に積極的にうちの宣伝を、周囲のまだうちが未交流の自治区などにしてくれていて、それらの商人を中心に沢山流れ込んできています」
タウロも領都シュガーの混雑ぶりにまだ、慣れていない。
本当につい最近の事だからだ。
交易所はそれを見越してかなり大きく作っており、所長を任せているソウキュウも生き生きとしてその混雑ぶりを捌いていた。
「我々は国内を旅して巡る者もいるのですが、その者達の報告でもこんな雰囲気の場所を聞いたことがありませんね」
竜人族の英雄、大勇者は感心してそう答える。
「確かに。これもタウロ殿の人徳がなせる業ですね」
竜人族の英雄の一人である大賢者が納得して頷く。
「いえ、これはきっと前領主の愚かな行いの反動なんだと思います。みんな、この地の交易所を失って数年間。独自に商売の為のルート作りをゼロから作る事になって苦労していたんだと思います。人族との玄関口的な役割をしていたのがここだったわけですから。そこが復活した事で、苦労していたみんなが一気に集まってきたのかなと」
タウロは謙遜しつつ、冷静な分析を行った。
「それも、受け皿がなくてはできない事です。それをタウロ殿はやられた。立派ですよ」
大勇者の言葉に竜人族の英雄達も頷く。
「ありがとうございます。そう言って頂けると励みになります。──それではみなさん、宿泊先は城館でも街の宿屋でもいいですし、どこか適当な土地に住みたい時は言ってください。すぐに用意しますので」
タウロはそう言うと、破格の待遇でみんなを歓迎する。
「それでは、みんな。タウロ殿のお言葉に甘えて、この地でゆっくり休ませてもらおうか」
大勇者がそう言うと、全員が、
「「「おう!」」」
と笑顔で応じるのであった。
こうして、竜人族の英雄達がジーロシュガー領に滞在する事になった。
その数、五十人ほど。
その存在一人だけでも、小国を滅ぼせそうなくらいの強さを持っている英雄達がジーロシュガー子爵領一つに五十人もいるのは頼もしい。
実際、その中の者達は、
「この城館の結界は古くてあまり効果が出ていないので、この機会に張り直しておきましょうか?」
と提案してくれたので、快諾すると、王都の王城以上であろう強力な結界を二重三重にいろんな効果なものを張ってくれた。
他にも魔物除けの魔法を「一時的ですが」と言って主要な街道に次々に使用してくれた。
どのくらいの効果があるのかと聞くと、
「そうですね……。効果は百年くらいと短いですが、たいていの魔物は近づけなくなるので安全は確保できるかと思います」
という、とんでもない答えが返ってきた。
中にはヴァンダイン侯爵領にいる真聖女マリアクラスの祝福魔法を協力魔法で使える者達がいて、
「この地の豊穣の為に、使用しておいていいですか? 多分、二百年くらいは持つと思います」
と言うので、タウロも快く承諾した。
こんな感じで竜人族の英雄達が、『竜の穴』で修業したタウロ達一行がまだ、門前の小僧に思えるような力を、領地の為に発揮してくれたのである。
「……これは棚ぼたみたいな感じになったね」
タウロもまさかこんなにありがたい事になると思って招待していなかったので、竜人族の英雄達の桁外れな力を改めて確認する事になったのであった。




