第670話 バビロンの迷宮核
執務室で犬人族のロビンとエルフのグラスローに補助をしてもらいながら、タウロはその日も事務処理を行っていた。
そこに、『次元回廊』を使用して竜人族の村に頻繁に帰っていたラグーネから、報告がくる。
「タウロ、ついにダンジョン『バビロン』の最深層に到達したらしいぞ! 攻略組の先輩達がタウロに来て欲しいとの事だ」
「本当に早かったね……。それじゃあ、ロビンさん、グラスローさん、あとをお願いします」
タウロは領主仕事を代行の二人に任せると立ち上がり、使用人に仲間への伝達をお願いする。
「久しぶりにみんなで揃ってダンジョンね!」
エアリスも嬉しそうにそう言うと、着替える為に部屋へ走っていく。
「エアリスも最近ずっと、僕の仕事に付き合ってくれてたから、ストレス溜まってたんだろうな……」
タウロはそんなエアリスの後ろ姿をみて苦笑する。
「タウロ様、たまには息抜きも兼ねてゆっくりしてきてください」
グラスローが、そう言ってタウロに準備を勧める。
「ははは、ダンジョンは息抜きで行けるところでもないんだけどね?」
タウロは笑って応じると、頼もしい領主代理達に任せて自分も準備の為、着替えに向かうのであった。
シオンとセトは街道整備の為、領都から離れたところにいたのでガロに迎えに行かせ、アンクはすぐに城館に戻ってきた。
みんなが集まると、
「久しぶりのダンジョンか……。というか、みんなとこうして出かけるのも俺は久しぶりだな」
アンクはここのところずっと領兵の育成の為に小人族のシャルと協力して指導を行っていたから『黒金の翼』としての活動は休んでいたのだ。
久しぶりに全員での冒険という事で、アンクはちょっと感慨深げであった。
「アンクには色々と頑張ってもらっているから、感謝しかないよ」
タウロはそんなアンクに笑って謝意を述べる。
そして、
「それじゃあ、行こうか!」
とタウロがラグーネに言う。
「ああ。──『次元回廊』!」
ラグーネが応じて魔法を使用して、空間を開く。
「『空間転移』!」
タウロが全員と円で繋がって開かれた空間に飛び込むのであった。
竜人族の村に到着したタウロ一行は、すぐにそこから『瞬間移動』で、村の近くにある『始まりのダンジョン』を目指して数瞬で移動して入り口に到着する。
そこから、ダンジョンに入り、一階層の『休憩室』までガロの背中に跨って一時間かけて移動し、そこから、『バビロン』へ。
これが現在のタウロ達にとっての最短移動方法であった。
『バビロン』の一階層、『休憩室』。
そこには竜人族の攻略組メンバーが三人、タウロ達の案内の為、待機していた。
「タウロ殿、お待ちしていました!」
竜人族の英雄の一人が、声を弾ませて挨拶する。
「ダンジョン攻略、やりましたね! ──それで他のみなさんは?」
達成感に頬を上気させると英雄達を見て、その苦労を労うと、確認する。
「最深部ですでにみなさんを待っているところです! それでは三百三十三階層に向かいましょう!」
竜人族の英雄はタウロ達の円陣に加わる。
「三百三十三階層!? 聞いてはいたけど、本当に深いですね」
タウロは軽く驚くと、月並みな感想を漏らして、最深部へと『空間転移』で移動するのであった。
ダンジョン『バビロン』三百三十三層、最深部の休憩室。
そこには、多少疲労困憊気味である竜人族の英雄達が待機していた。
「おお! タウロ殿、よくぞお越しくださいました!」
そう歓迎の言葉を口にしたのは、以前の『始まりのダンジョン』攻略の際にもいた大勇者スキル持ちの英雄だった。
「みなさん、よくやりましたね。まさか、このダンジョンを一年ちょっとで攻略するとは思いませんでした」
タウロは苦笑する。
「いえ、それも、タウロ殿が作ってくれた魔道具のお陰です。これがなければ、また、数百年かかっていたかもしれません」
大勇者の傍にいた大賢者がそう言うと、『空間転移』を込めて加工してある魔石を出して見せた。
「はははっ。それも、竜人族のみなさんでないと使用できないほど魔力を根こそぎ持っていく危険な道具ですからね。それを使用できるみなさんの実力ですよ」
タウロの言う通り、『空間転移魔石』は、竜人族の超一流の英雄クラスでも魔力をかなり消費しないと発動できないレベルの代物だ。
それを使用できるのは竜人族だからこそであった。
「実力を発揮する場を作ってくれたタウロ様には感謝です。──それでは、こちらへ」
大勇者を先頭に、タウロ達は『休憩室』を出て、三百三十三階層に降りる階段を下りていく。
数十段の階段を下りていくと、そこには以前にも見た事がある『迷宮核』の部屋へと続いていた。
『始まりのダンジョン』の『迷宮核』は濃い青色だったが、こちらは水色だ。
もしかしたら、ダンジョンによって色が違うのかもしれない。
それを知っただけでも、人類史上初めてかもしれない。
なにしろダンジョンは前人未踏の謎多き人工物だからだ。
「それでは、タウロ殿。破壊をお願いします」
大勇者がそう言うと、マジック収納から大きな戦槌を取り出してタウロに渡す。
「え? それなら、みなさんの誰かが破壊して望みの品を受け取るべきでは?」
タウロは立ち合うつもりで来ていたので、驚いて戦槌を押し戻す。
「はははっ! タウロ殿、忘れていませんか? ここにいる私達全員は『黒金の翼』のメンバーであり、そのリーダーはタウロ殿です。つまり、リーダーであるタウロ殿が破壊する、というのが正当な行為ですよ」
大勇者はそう言うと、また、戦槌をタウロに押し戻した。
「……わかりました。──ちょっと考えますね。……よし。それでは──」
タウロは返事をして少し考える素振りを見せてから戦槌を振りかぶる。
少し考える間をとったのは、何を望むか考えたからであろう。
そして、タウロは『迷宮核』を、迷う事なく砕くのであった。
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