第669話 助っ人メンバー
タウロとエアリスとラグーネの三人は竜人族の村から、新たな『黒金の翼』のメンバーを引き連れて戻ってきた。
冒険者ギルド竜人族の村支部で活動していた者達で、ランクはすでにBランク帯以上になっている。
中には、Aランク帯の者もいて、それらが全員、『黒金の翼』の一員として登録してくれた。
だから、冒険者ギルド・領都シュガー支部に全員をタウロが連れてやってくると、ぱっちり二重のかわいらしい新人受付嬢のミュウがその目を何度も瞬かせ、活動登録を申請する新たな冒険者の実力を魔道具で確認して驚く。
「全員Bランク帯以上、Aランク帯の方も三名……。それが全員、『黒金の翼』の一員なんですか……? タウロさん達がB+の凄いチームだとは重々承知していましたが、これだけの実力者を抱える大所帯のチームだったんですね……」
新人受付嬢ミュウは、そう言うと、シュガー領のエースチーム『黒金の翼』がとんでもない事をこの時初めて知ったのであった。
「まあ、王都の方ではちょっと有名みたいですけど、地方ではそうでもないので」
タウロは苦笑して応じる。
実際、『黒金の翼』は、王都で今も活動しているAランク帯のメンバー達(実力的には伝説級のSランク帯)のお陰で、知名度だけは冒険者ギルドで一番になっている。
当然リーダーのタウロもその名は有名なのだが、貴族に叙爵されてからはほとんど王都に現れない冒険者だったので、チーム名と竜人族のメンバー達の顔の方が有名になっていた。
だが、地方では、特にこの南の地では、ほとんど無名だったし、新人受付嬢のミュウが知らなくてもそれは仕方がないだろう。
なにしろタウロがこのジーロシュガー領の領主である事もまだ知らないくらいなのだから。
「これなら、タウロさん達にお願いしようと思っていた上級クエストもなんとかなりそうです!」
ミュウはギルド職員として中々現れないタウロ達に仕事の依頼をお願いしたくて足を運んでくれるのを待っていたから、ほっとした。
「え、そんなに溜まっていたの?」
「はい。冒険者の数はこの一か月で増えましたが、ほとんどがB級以下の方々ばかりだったので中々お願いできなくて……。たまにアンクさんがやってきて、緊急のものは領兵隊で解決してくれていた状況です」
「そうだったの!? それはごめんなさい。これからは、このメンバーにも頑張ってもらうのでよろしくね」
タウロはアンクが領兵隊の訓練以外でも動いてくれていた事を知って感謝の気持ちになった。
クエストは領都以外の村などから依頼が来ることも多い。
特に田舎の冒険者ギルドでは解決できなくて領都のギルドに泣きついて来るのだ。
そういう時は緊急性が高いものが多いから、ギルドとしてはすぐに対応しないと信用問題に係わるし、その依頼主の被害も大きくなるから深刻な問題だった。
そういう意味では冒険者ギルドのように人材を即座に派遣する事が求められるから、それができないとシュガー領都自体の信用にも関わる。
「では、早速、お願いできますか?」
受付嬢のミュウは上級クエストを奥の棚から箱を持ってくると、受付にドンと置く。
「うん、それじゃあ、みんなよろしく」
「「「喜んで!」」」
竜人族のみんなは早速、タウロの役に立てるとわかって快く承諾する。
正直、自分達よりスムーズに、より圧倒的にクエストを完了してくれるであろう事はタウロ達もわかっているので、安心して任せられるのであった。
「落ち着いたら僕達も冒険者活動再開しないとね」
タウロはギルドからの帰路、狼型人形ガロの背中に跨った状態で同乗しているエアリス、ラグーネに声をかける。
「うふふっ。そうね。でも、タウロの領主就任式まではそっちの仕事に集中しないと駄目よ?」
エアリスが笑って応じる。
「タウロの仕事は沢山あるからな。あ、それとこっちに戻る時に先輩達からチラッと聞いたのだが、ダンジョン『バビロン』をもうすぐ攻略できそうだから、『迷宮核』破壊の時はタウロに立ち会って欲しいらしいぞ?」
ラグーネがしれっと重要な事を報告した。
「え、そうなの!? まだ一年しか経っていないのに、早くない!?」
タウロは驚いて聞き返す。
「そうか? 村の『始まりのダンジョン』に比べたら、まだ、楽だと言っていたぞ?」
ラグーネは呑気にそう応じる。
「……さすが竜人族きっての伝説のスキル持ち集団ばかりで結成しているチームだよ……。王国が国の威信をかけて長年攻略に挑んでも百階層が限界だったらしいのに……」
タウロは呆れて苦笑した。
そして、続ける。
「それで、『バビロン』の階層は何層くらいだったんだろうね?」
「それ、私聞いたら、三百は越えているって言ってたわよ?」
エアリスもしれっととんでもない事を言った。
「さ、三百!? 『始まりのダンジョン』よりも深いじゃない!」
「タウロ。ダンジョンは深さじゃないんだぞ? 質の問題なのだ。攻略しやすい深いダンジョンもあれば、攻略が難しい浅いダンジョンもある。一層、一層の大きさが全く違ったりな。その辺は『迷宮核』の意思にもよるんだろうが、例えばタウロが協力した『始まりのダンジョン』は、深く、濃く、最難関のダンジョンだったのに対し、『バビロン』は深いが多少薄く、中程度のダンジョンだったという事だろう。だからこそ、生成に時間をかけていない分、『始まりのダンジョン』より、深い階層を要する事になったんだろうけどな」
ラグーネがダンジョンの講義をしてくれた。
「へえー。そんなものなんだ……。でも、『バビロン』攻略が済んだとなると、また、みんな暇になりそうだね」
竜人族の戦士達が、『ダンジョン・ロス』にならないか心配する。
「はははっ。それは大丈夫だろう。世界には未攻略のダンジョンが沢山あるし、見つかっていない未知のものもある。そして、国家間の均衡を保つ役割も竜人族は昔から担ってきているから、やる事は沢山あるのだ」
ラグーネが、しれっと壮大な話をする。
「竜人族ってやっぱり、そうなんだ……」
タウロも竜人族の存在や役割については薄々感じていたから納得する。
「その竜人族をタウロが救ったんだけどね。うふふっ」
エアリスは婚約者を頼もしそうに見て笑う。
「そうだぞ。タウロのお陰で世界の均衡が保たれていると言っても大袈裟ではないな。はははっ!」
ラグーネも笑って応じた。
「二人とも茶化さないでいいから!」
タウロはこの過大な評価を冗談だと思って言い返すのであった。




