第665話 予定は未定
現在、ジーロシュガー子爵領との交流と交易再開を行った異種族が治める自治区は、ドワーフ自治区、エルフ自治区、小人族自治区、蜥蜴人自治区の四つである。
だが、これは領境を接しているところであって、この南西部地方にはいろんな自治区が集中しているからまだ、タウロの仕事は尽きないところだろう。
それと、すでに挨拶を終えて、盟約を交わしているジーロシュガー領の東に位置する隣領の領主ジョーゴ子爵領以外にも、南の領境を少し接している貴族もいるから正式な領主就任祝いの折には招待して挨拶しておかないといけないところだ。
タウロはそんなやることが多い中、領内の統治の為に領主代理で犬人族のロビン、その助手になっているエルフのグラスローの助言を受けながら、事務処理を行っていた。
「──こことここにサインをお願いするのです!」
「うん、わかった」
「タウロ様、この書類に目を通しておいてください。こちらの書類に関わる事なので」
「こんなに!? ……わかった目を通しておくよ」
「タウロ様、王家直轄領秘境特区との今月の交易内容書類なのです! サインをお願いするのです!」
「秘境特区は珍しい品が多いね……。って、感心している場合じゃなかった。サイン、サインっと……」
「タウロ様、エルフ自治区から、朗報です。ダークエルフ自治区の代表が、このジーロシュガー領との交流、交易の再開を望んでいるそうです。こちらがその書簡です。使者も三日後にはこちらに到着するようなので、面会日や時間はどうしましょうか?」
「本当に? エルフ自治区の代表フィリオンさんが周辺にうちの宣伝してくれているみたいだけど、うまくいっているみたいだね……。──到着したら、翌日の昼にお願い!」
「こちらが、一週間後のタウロ様のジーロシュガー領主就任式の予算になるのです! 承諾のサインをお願いするのです!」
「はい、はい。こっちにサインね? ……っておい! ロビンさん、しれっと、一連の流れで大掛かりなパーティーの予算通そうとしたよね!?」
タウロは膨大な書類を渡され、次から次にサインをしていたのだが、自分の就任祝いパーティーの予算を見てその手を止めてツッコミを入れる。
「……気づかれたのです。でも、そろそろタウロ様がこの領地に就任した事を領民にも周辺貴族達にも知らしめる必要があるのです!」
ロビンはそう言うと熱弁を始めた。
ロビンが言う事ももっともであった。
何しろタウロは現在、領主代理のロビンに任せたままの状態という事になっており、領民も領主であるタウロの存在を知らないのだ。
周辺貴族も隣領のジョーゴ子爵以外は、領主代理に統治を任せたまま領主不在という認識であったから、周辺自治区の代表達や、貴族達も招いてタウロの存在を認知してもらう事が必要だとロビンは考えたのである。
しかし、タウロは領民が平和に暮らせる状態になっていれば、何の問題もないと考えており、知らしめる必要性については重要視していなかった。
実際、領主代理ロビンに感謝している領民達は多いが、その任命責任者であるタウロの事も顔は知らないが良い領主様として、評価はしてくれている様子だ。
これ以上に何が必要だろうか?
それに、タウロは冒険者としても旅を続けるつもりでいるから、あまり有名になりすぎるのは避けたいところであった。
「──というわけで、タウロ様の就任式は絶対必要なのです!」
ロビンはそう言うと、グラスローにも賛同を求めた。
「タウロ様。周辺領の者も顔を知っているだけで付き合い方を考えてくれるものですよ。それに領民にとっては、自分達を統治する主人の事です。知らない者に統治されるより、知っている方が納得するというものです」
グラスローはロビンに味方してタウロを説得した。
「……グラスローさんまで!? うーん、わかったよ……。あまり派手なのは止めてね?」
タウロは二人に説得されると、さすがに承諾する。
「タウロにはあまり馴染みがない事だろうけど、パーティーは交渉の場にもなるから、ここは利用すべきよ。招待状をまだ、交流のない自治区にも送りましょう。ドワーフ自治区やエルフ自治区との交流、交易を再開しているから、以前よりも警戒心はないはず。就任式を理由に呼んで一人一人交渉していきましょう」
さすがに貴族社会をよく知っているエアリスである。
タウロの為の祝いの場というより、交流、交易再開の場として利用しようと提案するのであった。
「なるほどね……。そういう使い方か! 今みたいに一つ一つ巡って説得する手間が省けるのなら、それがいいかもしれない……。──ありがとう、エアリス!」
エアリスの言葉でようやくタウロも完全に納得するのであった。
「──そうなると、やはり、大きな就任披露宴にするのです! タウロ様の関係者も多く招くなのです!」
ロビンはそう言うと、就任披露宴は二か月後と決定した。
「え? そんなに先なの?」
タウロは一か月以内にはやるものと思っていたから、驚いて聞き返した。
「遠方から来る方もいると思うのです。タウロ様は有名人なのでお祝いに駆け付ける方も多いはずなのです!」
ロビンはガーフィッシュ商会の関係者として、タウロの活躍は多少他の者よりは知っているから、そう答えた。
「遠方って誰かいたかなぁ? うーん……、まあ、招待者はロビンさんに任せるよ。あ、竜人族のみんなは招きたいから、会場は大きくしたいところだね」
一番こぢんまりの披露宴をしたかったはずのタウロが会場を大きくしたいと言い始めた。
「どれだけ呼ぶつもりよ。普通に考えて族長のリュウガさんと夫人、護衛の数人だけでしょう?」
エアリスがツッコミを入れる。
「えー、でも、ラグーネのお兄さんやお世話になった警備隊のみんなとかいるじゃない?」
「それを言い出したら、本当に竜人族は関係者だらけになるから、駄目よ。それに大騒ぎになるわ」
エアリスは竜人族が大挙して訪れた時に、人や異種族の関係者への影響が大きすぎると考えたようだ。
「確かに……。そう考えると仕方ないか……」
タウロは妥協すると、ロビンに竜人族の代表もしくは代理とラグーネのお兄ちゃん、その近親者を招待名簿に追加しておいて、とお願いするのであった。
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