66話 定住します
村に滞在して一か月が経っていた。
村は活気が出てきていた。
そんな中、ずっと周辺の街や村々を回ってダンサスの村を留守にしていたボブが昼過ぎに戻ってきた。
「お帰りなさい、ボブさん。」
タウロが宿屋でボブを迎えた。
「タウロただいま。そうだ、思った以上に街の冒険者ギルドには良くない噂が広まってて困ったよ…、はぁ…。」
「そうなんですか?」
「うん、だから呪いの話をして、魔石をみせたらギルドも信じてくれたけど、1人信じない人がいたなぁ…。」
「信じない人?」
「このダンサス支部の元支部長だよ。」
「…あ、…なるほど。」
タウロは納得した。
時期的にその支部長が就任直後に気づいていればまだ、ここまで大事になっていなかったかもしれないのだ。
それも、EランクとF-ランクの二人で解決できたくらいだ、支部長が解決どころか気づかず、短気で辞めたとあっては資質を疑われる問題だった、それは認めたくないだろう。
「まぁ、ギルドは新たな候補を検討してくれてるみたいだよ。ここも、村にしては大きい方だし、問題も解決したから、近いうちに誰か来てくれると思う。」
「それは良かったです、今は受付嬢のクロエさんが1人で全部やってて、大変なので僕も手伝ってるんですよ。」
「大変って…、よそから冒険者が来てくれたのか?」
ビックリしたボブは聞き返した。
「ボブさんのおかげで新人さんが2人、他所からの冒険者Cランクチーム一組とソロの人が4人来てくれました。」
「思ったより反応が早いな!」
「ここからアクセスが良い村や山、森もありますからね。魔物も沢山いる地域も多いですから需要は十分ありますよ。クエストも近くの村からも依頼がくるようになりました、街のギルドに依頼するには遠いですからね。」
「そうか…。クエスト依頼も来るようになったか。」
「はい、それと村人のみなさんがボブさんをお待ちですよ。」
「うん?俺??」
「村の英雄に改めてお礼がしたいそうです。という事で村長宅に行って下さい。」
タウロはボブの背中を押すと宿屋から村長宅に送り出した。
ごめんボブさん、厄介事はあなたに押し付けました!
タウロはあくまでもボブの助手をしただけ、と村の人達には説明している。
そう説明されれば、村人達は信じざるを得ない。
まだ11歳の子供が活躍した方が信じがたい。ボブが活躍したと素直に受け入れるのが普通だろう。
村長宅を訪問したボブは英雄扱いされた事に戸惑い、自分ではなく、タウロの活躍を説明した。
だが、この行為はボブが謙遜してると誤解された。
タウロがあらかじめ、ボブが謙遜して自分を褒めると思うが誤解しないで下さいと念押しをしていたのだ。
村長はタウロの言う展開になったので、素直にタウロの言っていた事を信じ、ボブが謙遜していると解釈した。
なんて謙虚な冒険者さんなんだ、と村長はとてもボブを気に入り、お礼にと空き家を一軒ボブに譲る事を提案した。
ボブは最初断ったが、この村にボブが住んでくれると村人も安心すると説明されると断りづらくなった。
元々、ボブはこの村を拠点に活動するつもりでいたので、渡りに船だったがタダで貰うには気が引けた。
なので家賃を支払う事で納得した。
その家賃、銀貨1枚。
最初、ボブも渋ったのだが、村長に家の管理をちゃんとしてくれると助かると言われて頷いた。
そう、ここまでタウロと村長の計画通りだ。
お礼をしたい村長側と、人が良すぎる犬人族のボブの幸せを願うタウロの意見が一致した結果、この流れは一から十まで計画されたものだった。
ボブは見事にタウロの手の平の上で良い方向に踊らされていた。
宿屋に戻ってきたボブから一軒家を借りる事になったという報告を聞いたタウロは、
よし!
と内心ガッツポーズをした。
「宿を引き払って家に移る事にしたから。」
「いいですね!手伝います。」
「そうだ、部屋多いからタウロも家に来ないか?」
ボブは、タウロを誘ってみた。
「いえいえ、その部屋は将来の奥さんに空けておいて下さい。」
「なっ!まだ、呼び寄せると決めたわけじゃないぞ!?」
ボブがあからさまに動揺した。
どうやら、彼女がいるらしい。
これは呼び寄せた方がその彼女の為にもなりそうだ。
「いるんですね彼女。こんな良い村なんですから呼び寄せて一緒に住んだらいいじゃないですか!そうしましょう。」
タウロの提案に、思わず頷くボブであった。




