第659話 蜥蜴人自治区内
タウロ達一行は、ところどころ水没している街道を、狼型人形のガロに跨って想像よりもスムーズに進んでいた。
「これは想像以上に道が進みにくいところだね。ガロでなければ、正直困っていたかも」
タウロはガロの体を撫でて労いながら、それを口にする。
「本当ね。そもそもここを利用する人は困らないのかしら?」
エアリスもガロを撫でて労うと疑問を口にした。
「蜥蜴人族は手足に水掻きがあるので、水の中を進むのはむしろ得意でしゅからね。きっと、あまり、気にしていないと思うでしゅ。それに、この数年の交易は蜥蜴人族の方から小人族自治区に訪れて領境で商売をする形だったので、こちらから訪れる機会はほとんどないでしゅ」
ガロの先頭に跨る小人族のシャルが、蜥蜴人族について解説してくれた。
「なるほどね。他所から訪れないから道が浸水しても自分達にあった道になったと思って再整備する事もないわけか……。でも、荷物なんかが濡れるのは困るよね?」
タウロは当然の疑問を口にする。
「それは蜥蜴人の固有魔法『水遮断』があるから大丈夫みたいでしゅよ」
「「「蜥蜴人固有魔法の『水遮断』?」」」
タウロ達は聞いた事がない魔法に聞き返した。
「そうでしゅ。蜥蜴人族にも色々いて、中には水が苦手な者もいるのでしゅ。その為にはるか昔に生まれたのが、蜥蜴人固有魔法の『水遮断』でしゅ。これにより、自分とそれらと接触する物を全て水から遮断する事ができるそうでしゅ。実際これは魔法というより、蜥蜴人固有の能力みたいなものでしゅね。だから他の種族は真似ができないと聞いた事があるでしゅ」
「へー。そんな便利そうな能力を蜥蜴人って持っているんだ……。知らなかった」
タウロは初耳なのでシャルの言葉に感心する。
「私も知らなかったわ……。──やっぱり、旅をしていても知らない事はいっぱいあるわね」
エアリスもシャルの言葉に感心して感慨深げに言う。
「竜人族にはそんな固有能力ないから、うらやましいな! ──私にできる事と言ったら火を吐くことくらいか」
ラグーネは雨に濡れない能力をうらやましく感じてそうぼやいた。
火を吐ける固有能力がもっと凄いけどね?
タウロ達はラグーネに内心でツッコミを入れるのであったが、本人は気づかないのであった。
しばらくガロがそんな道を進んでいると、少し水深のある場所に来た。
ガロの膝下くらいの深さだ。
その足元を魚が泳いでいく。
「……魚が泳いでいるのは、『真眼』にリンクさせている『気配察知』でもわかるのだけど……、大きな魚影がいくつかこっちに近づいて来ているんだよね。あれ、なんだろう?」
タウロが指さす先には、タウロが言う通り大きな黒い影が五体程波を立てながらこちらへと向かってきている。
「魔物かしら? タウロ、『気配察知』ではどんな感じなの? なんなら私が迎撃するわよ」
エアリスはそう言うと、黒壇の杖を天にかざして詠唱を始める。
「ちょ、ちょっと待ってエアリス! 確かに『気配察知』の感じだと魔物っぽいんだけど、今、詠唱しているの得意の雷魔法だよね!?」
「──『雷撃槍』×五!」
エアリスはタウロの心配をよそに向かってくる魚影? めがけて控えめな中級魔法を放った。
雷魔法『雷撃槍』は、文字通り雷の槍となって水面を這うように飛んでいく。
そして、魚影の出鼻に直撃した。
いくら控えめな中級雷魔法とはいえ、エアリスの魔法である。
威力は絶大であった。
水柱が五本立ち、それと同時に水を伝って周囲に感電する。
ガロの下にもビリビリとしたものが、流れてきた。
「うわ、電気が!」
タウロは感電して髪を逆立てながら、痺れる感覚に身を震わせる。
魔法を使ったエアリス当人や、ラグーネ、シオン、シャルも同じように髪を逆立てて震えた。
「……そうだったわ。水とは相性良すぎるから、あまり使ったらいけないんだった……。──みんな、ごめんなさい!」
エアリスは感電に震えながら、タウロ達に謝る。
その間に、感電が全然平気なダンジョンの謎物質で出来ているセトが、ガロから降りて、水の中に入り、エアリスが仕留めた個所に歩いていく。
周囲には感電してショック死した魚が何匹もぷかぷか浮いている。
その中に、見た目が頭が魚の半魚人のような魔物が五体、絶命していた。
セトが絶命を確認すると、こちらに合図を送る。
それを確認してタウロが今度はガロから水面に飛び降りる。
しかし、水に落ちる事なくその上に浮いていた。
しばらく使う機会がなかったが、『浮遊』の能力だ。
タウロは水面に浮いた状態で歩いてセトの下に歩み寄り、一緒にエアリスが仕留めた魔物を『真眼』で鑑定する。
「……サハギン、か。──シャルさん、蜥蜴人自治区ではサハギンってよく見かける魔物なのかな?」
タウロはサハギンをマジック収納で回収しながら、蜥蜴人に詳しいシャルに聞く。
「少なくとも自分が訪れていた数年前までは聞いた事がないでしゅ」
「中級魔法『雷撃槍』で仕留められる魔物なら大した事はないんだろうけど……。近くの村に到着したら一応、警告ついでに報告しておこうか」
タウロはそうみんなに提案するとセトをガロの背中に引き上げて乗せると自分も跨るのであった。




