第657話 小人族との交流再開
小人族チービン派のリーダー・テヤン・デーは、過激な主張と行動をとっていた割に、潔い男であった。
タウロとの一騎打ち(騙し討ちの末ではあるが)で敗北すると、あっさり負けを認めた。
まあ、伏せていた兵士達もエアリスの魔法で無力化されていたのでこれ以上の抵抗は無駄である事を察しての事ではあったのだが。
「わかったもん……。自分もリーダーとしての誇りがあるもん。賛成するかは別だが話し合いには応じるもん……」
テヤン・デーはそう言うと、タウロとの交渉の席につくことを認めるのであった。
こうして、小人族自治区は分裂から数年ぶりに三代表による話し合いの場が設けられ、統一に向けて前向きな検討が始まることになる。
ただし、人族であるタウロのジーロシュガー領都の交流再開まで行うかは、別だとチービン派のテヤン・デーは念を押す。
イッスン派のホーシは、当然、交流再開については前向きであったし、慎重なドージ派のシュテンも領境を接している以上、自分達にも利益が生まれやすいと前向きな検討をしていた。
そうなるとこれまで人族との交流再開を反対してきたチービン派勢力が問題であるが、テヤン・デーの今回の反対は意外に合理的な内容であった。
それは、小人族に対する人権の保証を改めて求める事から、異種族がジーロシュガー領に集う為の通り道にもなりやすい立地である小人族自治区内の今後の権利の尊重や、自治区内でのやり方について人族が介入してこない事、そして、小人族仕様の街道については、各種族に資金を出してもらい再整備する事などの約束を取り付ける事や、それ以外での資金の調達などである。
つまり、しっかり自治区としての権利を主張し、今後もそれらが守られる事を改めて確認するという内容であった。
これは、やはり、体が小さい小人族がどうしても異種族に舐められやすいという根本的な理由があるからだろう。
小人族は元々、自治区外に出ていく事が非常に珍しい。
それは過去に小人族が売買の対象になっていた歴史に原因があり、よそから異種族が自治区内に入ってきて妙齢の小人族をペット奴隷として攫っていく事件も多発したからである。
その為、とても排他的になり、交易以外で小人族を他所で見かける事は非常に稀なくらい小人族は自治区から出てくる事がない。
それが、よそ者を受け入れ、その為の街道整備まで応じるというのは、実はかなりの前進であり、その為にテヤン・デーは権利の確保や協力、資金の提供を求めるというものであった。
これにはイッスン派のホーシやドージ派のシュテンも目から鱗とばかりに同意する。
確かに、自治区だから権利は元々あるのだが、今後の事を考えると改めてその確認をしておく必要はあるだろう。
人族に現れたルネスク伯爵のような差別主義者がまた、現れるかもしれない。
それは人族だけでなく、ドワーフ族やエルフ族に現れるかもしれないし、可能性はこれからもずっとあり得る事であったから、明文化しておく事は間違ったことではない。
それらの意見をまとめると、三代表会議はようやくそこで小人族自治区の内乱終結を宣言。
そして、ようやく新たな小人族自治区の政治システム・三代表会議制のもと、人族との交流再開に向けてタウロとの話し合いに応じるのであった。
「「「──これからの異種族間交流は、これらの内容の種族間差別をしないという誓いの下に、再開したいと思っている(でしゅ)(もん)(にょ)」」」
ホーシ、テヤン・デー、シュテンの三代表は声を揃えてそうタウロに主張した。
「──なるほど……。これはいいですね! 僕は差別について意識した事があまりありませんでしたが、旧ルネスク伯爵のような人物がまた現れないように、これをこの王国南西部一帯の各種族自治区と各貴族間で交わされる契約の冒頭に明文化しておくとお互いの為にも安心です」
タウロもこの小人族の提案に全面的に賛同した。
王国には法があり、種族間の差別や奴隷売買などは禁止されているが、法的拘束力については各貴族領、自治区によってまちまちだったので、この南西部全域だけでも統一した決まりがあるのはいいかもしれない。
各自治区も一種族として自分達が周囲からどんな扱いをされているのかについては色々と考えるところはあるだろうから、理解を示してくれるはずだ。
実際、小人族以外にも差別を嫌って自治区内に閉じこもっている種族はいる。
巨人族などがそうだ。
タウロは交流と交易の再開について、小人族と差別をしない事を明文化した上で契約を交わす事にした。
これはすでに交流再開しているドワーフ自治区、エルフ自治区とも契約の最初の条項に追記される事になる。
こうして、タウロ一行は小人族自治区の内乱を終結させ、無事交流と交易の再開を果たすのであった。
場所は、ミニモの街、人族用の宿屋。
「これでジーロシュガー領にとって地理的に一番交流再開しておきたかった小人族自治区との間に再開の契約が交わされたから、あとはもう楽だよね?」
タウロは一番の難題をクリアした事に正直安堵していた。
「そうね。あとは蜥蜴人自治区と交流再開できればほぼ大丈夫じゃないかしら? 他にはドワーフ族自治区の奥にある巨人族自治区やエルフ自治区の奥のダークエルフ自治区などもあるけど、そこは境を接する各自治区に任せていいかもしれないわ」
エアリスも頭の中に王国南西部の地図を思い浮かべて、そう返答する。
「これからどうする? このまま、蜥蜴人自治区に向かうのか?」
ラグーネは今回、活躍の場がほとんどなかったので物足りなさそうだ。
とはいえ、ジーロシュガー領を離れてすでに二週間ほどが経っている。
「どうしようか……。蜥蜴人族自治区なら、交流がある小人族の誰かに紹介してもらえるとすんなりいきそうな気もするのだけど……」
タウロは考える素振りを見せるとそうつぶやく。
「ならば自分が付いて行くでしゅよ」
という声と共に、シャルことシャルル・ペローが扉の横でそう提案した。
「シャル、いいんですか! ──……あ、そうだ。ついでにそのまま、うちで働きません?」
タウロも歓迎とばかりに聞き返すといきなり勧誘する。
「ホーシ様の警護も不要になったので、暇でしゅし……、それに──」
シャルは自分の仕事を終えた事を告げ、続ける。
「タウロ様の下で働きたいと思っていたので丁度いいでしゅ。お願いしましゅ」
「「「おお!」」」
意外にあっさりシャルが勧誘に乗ってきたので、タウロ達も驚いた。
「それじゃあ、気が変わる前に、蜥蜴人自治区に向かおうか! これからよろしくシャルさん」
「よろしくお願いするでしゅ!」
シャルはそう応じると、その小さな体で恭しくお辞儀をするのであった。




