第656話 小人族との一騎打ち
小人族自治区において、ミニモの街は元々領都として機能していた。
しかし、イッスン派、チービン派、ドージ派に分裂してからは、三者の闘争の場となり、かなり荒れ果てている。
そんな小人族自治区の象徴である都で、ついに人族との交流再開を承認してドージ派がタウロの提案に頷く事になった。
かなり強引なやり方ではあったが、元々小人族は好戦的で強いものには従う傾向にある種族であったから、タウロの脅しのような交渉はその中でもドージ派にはとても効果的であったと言っていい。
好戦的でありながら、主張している事は慎重というドージ派の説得は強引なやり方以外で頷かせるのはかなり難しかっただろう。
だからタウロのやり方についてはイッスン派のホーシも理解を示したし、現場でそれを目撃した小人族一の戦士、シャルことシャルル・ペローもシュテン以下チュー、イバラの説得は困難だと思っていたから、タウロが人の良さそうな雰囲気から一転、脅しに移行した時は驚きつつも痛快さを感じてしまった。
「チービン派と違って、ドージ派は三人で協議する形を取っている分、利害を説いて説得するだけでは難しいと思っていたでしゅ。それだけに一番効果的な方法を取られたなと感心しましたでしゅ」
シャルはタウロの事を手放しで称賛した。
「ははは……。さすがに慣れない事をしたので緊張しましたよ」
タウロは能力の『威光』まで駆使し、脅しを使っての説得交渉であったからガロに跨っての帰り道は安堵して脱力していた。
「でも、これで残るはチービン派のみね! タウロ、あの人族に対して敵愾心が強い相手をどう説得するの?」
エアリスは最後の難関とばかりに期待を持ってタウロに聞く。
「チービン派はそもそも聞く耳を持っていないからね。ドージ派以上に力に訴えるしかないかな。小人族は基本的に強い者が力を持ちやすいという傾向が強いんだよね?」
タウロは、エアリスに応じながら、シャルに確認する。
「はいでしゅ」
「ならば、僕も力を示さないといけないのかなって思う」
タウロは自分に言い聞かせるように、答えた。
「タウロ様の決意、了解したでしゅ。ホーシ様に相談してチービン派と決着をつけるべく改めてミニモの街に呼び出すでしゅ」
シャルはタウロの決意を聞くと力強く頷くのであった。
数日後のミニモの街。
そこにはイッスン派からリーダーのホーシ、小人族一番の戦士シャル、ドージ派からはシュテンと部下のチュー、イバラ、人族代表としてタウロとラグーネ、セト(エアリスとシオンは離れたところで待機)、そしてチービン派からはリーダーのテヤン・デー、腕利きの部下である小人族戦士二人が領都中央に位置する一番大きい建物に集合していた。
「よく来たでしゅ、テヤン・デー」
イッスン派のリーダー・ホーシが素直に来るとは思っていなかったチービン派のリーダーに声をかけた。
「お前達が人族に尻尾を振ったと聞いたからには、そろそろ決着を付けないといけないと思ったからだもん!」
チービン派のテヤン・デーはそう言うと、もう、戦うつもりなのか殺気だっている。
「……それでどうするにょ。ここで人族を殺して小人族を保護してくれている王国に滅ぼされるにょ?」
ドージ派のシュテンが殺気立つテヤン・デーに呆れて現実を突き付ける。
「小人族は勇敢なる戦士だもん! 最後の一兵まで、卑怯な人族と戦い続けるもん!」
引くに引けないテヤン・デーはタウロをこの場で殺して強引に小人族全体の問題にして一致団結させる気でいるようであった。
「そんな手段でみんなが従うと思わない事でしゅ!」
ホーシはテヤン・デーの短絡的な行動を非難した。
「この方法しかないもん! ここにいる全員を殺して人族のせいにすれば、みんな従うもん!」
テヤン・デーがそう言って連れていた戦士二人に合図を送ると、二人の戦士が、
「「みんな出て来るもん!」」
と大声で外に呼び掛ける。
すると、周囲に伏せていたチービン派を示す黄色いスカーフを首に巻いた小人族達が続々と現れた。
「……それが、テヤン・デーさんの最終判断でいいのですね?」
タウロは淡々とチービン派のリーダーに問いかけた。
「当然だもん! 今が最大のチャンスだもん!」
「テヤン・デー、後悔するでしゅよ!」
「そうだにょ!」
ホーシとシュテンがテヤン・デーの愚かな判断を非難する。
「後悔するのはお前達だもん!」
テヤン・デーはそう言うと剣を抜き、戦士達と共にタウロに斬りかかった。
だが、腕利きの戦士達二人はラグーネとセトにあっさりと阻まれる。
剣には毒が塗られているのが即座にわかったが、毒に耐性を持つラグーネと人形であるセトには効くわけもなく効果は全く無い。
そんな中、テヤン・デーの剣筋は小人族最強のシャルに並びそうな程の鋭さであったが、その斬撃はタウロがマジック収納から一瞬で出した小剣と盾に弾かれた。
さらにタウロは自分達の周囲に、男女大人型人形アダムとイブ、ロックシリーズ六体をマジック収納から一瞬で出してホーシ達も守る姿勢を取る。
これには周囲を囲んでいたチービン派の多くの戦士達も驚いて足が止まった。
そこに、外で待機していたエアリスが、魔法を詠唱し、その足が止まっている小人族に向けて放つ。
「『雷電』!」
エアリスの黒壇の杖から発した雷の光は周囲に対して普段のものより細く毛細血管のように広範囲に広がってチービン派の戦士達を襲う。
この魔法はエアリスの得意な雷魔法には珍しい麻痺による状態異常魔法であった。
チービン派の戦士達はその魔法をまともに喰らって痺れるとその場に次々に倒れていく。
邪魔者が入る余地を許さない状況を作って、タウロとテヤン・デーの一騎打ちという形になった。
剣を交えてわかった事は、テヤン・デーが一流の戦士という事だ。
タウロもB+の冒険者として一流の腕を持っているからその強さがよく理解出来る。
これは相当な腕の持ち主だ。
タウロは素直に驚くが、タウロも『竜の穴』で修行を積んで強くなった自信があったから、その小さい体躯からは想像できない程の力強い斬撃と素早さ、そして、歴戦の戦士の立ち回りを上手くさばいてテヤン・デーの剣先を体に近づけさせない。
これにはテヤン・デーも内心驚いていた。
シャルル・ペロークラスの戦士だもん!? いや、それ以上かもしれないもん!?
それは傍で周囲を警戒していたシャルも同様であった。
タウロ様は一流の戦士でもあるのでしゅか! と。
タウロはタウロで必死にテヤン・デーの変則的な攻撃を防いでいたのだが、それでもやはり経験の差だろうか?
タウロは徐々にテヤン・デーの癖を掴み、余裕が生まれてきつつあった。
そして、わざと前のめりになって隙を作り、テヤン・デーにそこを突かせる。
「もらったもん!」
テヤン・デーの剣による突き。
次の瞬間、タウロの小魔剣『魂砕き』がテヤン・デーの剣を絡み取るように巻き上げた。
剣は高々と舞い上がりはるか上の天井に突き刺さる。
タウロの小魔剣の剣先は呆然とするテヤン・デーの鼻先にピタリと当てられ、
「動かない方が身のためですよ? この魔剣はかすり傷でもあなたの魂に傷を付けます」
と脅した。
「ま、参ったもん……」
テヤン・デーは降参するとその場に座り込むでのあった。




