第655話 小人族に謀る
タウロ達一行は、イッスン派拠点の街であるハーリで数日滞在していた。
その間、同行していたエルフのアグラリエル女史はイッスン派リーダーのホーシと交渉を重ね交流の再開を一足先に決め、一度戻る事にした。
なので、狼型人形ガロに領都森林の街まで送り届けさせる事にした。
「一足先に戻って我が自治区やジーロシュガー領からの品々をこちらに運び込む体制を作りますね」
アグラリエル女史はそう言うと、タウロやホーシと握手を交わしガロに跨る。
「それではお願いするのでしゅ」
ホーシとしても、エルフ自治区産の品々がまた、入ってくるのは助かる。
エルフ自治区産の魔道具はとても優れているからだ。
そこにプラスして人族の商品も入って来てくれるのは、とてもありがたい。
特に武器などの類は入手困難になっていたから、ここのところは守りに徹していたのだ。
それらについてもアグラリエル女史とは話し合いを進めていく中で、交渉したのは大きい。
それにドワーフ自治区は一足先に人族との交流を再開してすでに交易所で商品を流通させているらしいから、意外に早くドワーフ自治区産の武器類は入って来そうであった。
そういった思いからホーシはアグラリエル女史を期待を込めて見送るのであった。
「両者の利害が一致して良かったです。──それでは僕も小人族自治区全体と交流再開できるようにそろそろ動かないといけないわけですが……」
タウロはエルフ自治区とイッスン派の交流再開を祝福しつつ、ホーシにチービン派、ドージ派の両勢力に送った使者についてどうなったのか探りを入れた。
「ああ、その件でしゅが……。チービン派の使者からは人族を領内に入れた事について激しい非難の嵐で話になりませんでしゅた。それに対しドージ派からはエルフ自治区との交流再開に一枚嚙ませてもらえるなら、人族の使者と会ってもいいと、先程返答がありましゅた」
ホーシはあまり芳しくないとばかりに答えた。
「条件付きながらドージ派は会ってくれるのですか? それは意外ですね」
タウロはジーロシュガー領と領境を接しながらも、全く交渉に応じないドージ派だったから、あまり期待はしていなかったので、少し驚いた。
「慎重派のドージ派はエルフ自治区と交流再開する事で、力を蓄える為の一つにしたいと考え、人族の使者とは会うだけで済ませる気だと思いましゅ」
「……それはつまり、人族……、僕達の事は二の次という事ですね?」
「多分そういう事だと思いましゅ……」
ホーシは余計な期待をさせたくないと思ったのかタウロにドージ派の思惑を素直に伝えた。
「それでも会えるなら会ってみましょう。あちらの代表の特徴は何かありますか?」
「特徴でしゅか? 名前は、シュテン。その下にチューとイバラという部下がいて三人で協議する形を取っているでしゅ。……慎重派とはいうものの、人族と対等な力を持つ為に力を蓄える事に専念しているのは前にも言ったでしゅよね? 私にしてみると、過激なチービン派はまだわかりやすいでしゅが、こっちは三人で協議して対応してくる分、わかりづらい相手でしゅ」
「その三人を説得出来れば、なんとかなる……、という事ですね? わかりました。すぐにでも会えるように準備をお願いできますか?」
「……わかったのでしゅ。でも、気を付けてくだしゃい。ドージ派は間者を潜り込ませて情報戦を仕掛けて来たりする相手でしゅ」
ホーシも相手をするのが苦手なのか少し嫌な顔をした。
基本的には好戦的な小人族にとって、ちょっと陰湿なタイプなのかもしれない。
だが、そういうタイプの方が、今はこちらにとってはありがたいかもしれない、と思うタウロであった。
ホーシによって会う段取りがなされ、数日後にはイッスン派、ドージ派、チービン派の勢力圏が交差するミニモの街でジーロシュガー領の代表タウロとドージ派の会談が行われる事になった。
「こんな三勢力のぶつかる場所で会談とは、頭がおかしいにょ」
「シュテン様の言う通り、人族は大きい分、頭の巡りが悪そうですにょ」
「会談の途中でチービン派に邪魔されてもこちらの責任ではないですにょ」
タウロ達一行は、ミニモの街の中央広場にある小人族の建物にしてはとても大きな建物の中で面会する事になったのだが、会ってそうそう皮肉を言われた。
どうやらドージ派は最初からエルフ自治区との交流再開が出来れば、人族とはどうなってもいいらしい。
ちなみにドージ派の語尾には「にょ」が付くようだ。
こちらも、小人族らしくてかわいいが、それを言ったら揉めるので黙っているエアリス達であった。
「最初から手厳しいですが、僕はジーロシュガー領の領主であるタウロ・ジーロシュガーです。こちらも最初に言っておきますが、僕はこの通りサート王家とも親しくさせてもらっています。あまり、失礼な物言いはこの国の中央に喧嘩を売る事でもあるのでお気をつけた方がよろしいと思いますよ」
王家の紋章の入った小剣を見せつつ、タウロらしからぬ高圧的な権力を盾にした物言いであったが、これは好戦的な小人族でもあるドージ派の面々にも効果的で、三人共言い返せず言葉を詰まらせた。
大きすぎる相手に喧嘩を売るのは愚かだという事は理解出来ているようだ。
やはり、ホーシから聞いた通り慎重なのは確かだろう。これなら話し合いの余地がありそうだ。
タウロはそう分析すると進んで話し合いのテーブルにつく。
ドージ派のシュテン、チュー、イバラも続いて座った。
「それでは交流再開について話し合いを始めましょうか」
タウロは改めてそう切り出すと交渉に移るのであった。
ドージ派はタウロに最初にガツンと言われた事で出鼻をくじかれた形であったから、話はタウロを中心に進んだ。
タウロの話は簡潔にだが、小人族の未来を考えて三者が手を結び直して一つになる事が、人族と対等に渡り合う体制になるという事を利害も踏まえて説明する。
シュテンは終始ケチをつけてこの会談をおじゃんにしようとしていたが、タウロの話にぐうの音も出ないのか段々言葉数も少なくなっていく。
「──でも、人族は信用できないにょ!」
シュテンの部下であるイバラが、このままでは人族有利の展開になると思ったのか感情論を口にしてちゃぶ台返しを行おうとした。
「そ、そうだにょ! 口だけなら何とでも言えるにょ! 小人族はもう人族には騙されないにょ!」
チューがそれに賛同して立ち上がる。
ここでタウロはある能力をシュテンの部下達に対して発揮する事にした。
それはこれまでほぼ使用する事が無くなっていた『威光』である。
この能力は自分より弱い相手に対してのみ効果があるもので、使い勝手が悪い事からタウロの中で封印していると言ってもいいものであったから、これには背後にいるエアリス達も内心驚いた。
だが、その『威光』は効果てきめんで、チューとイバラの二人はタウロの圧力に先程までの言い掛かりもピタリと止まって口を噤んだ。
「シュテンさんに聞いているのでお二人は黙っていてください。──シュテンさん、どうしますか? 僕達としてはイッスン派、ドージ派、チービン派三者が手を結び、こちらとの交流再開を求めています。ただし、ここで僕の手を振り払ってしまうとその後、僕がチービン派を説得して手を結んだら、ドージ派はどうなりますか?」
「……脅すのかにょ!?」
「僕がなぜ、三勢力がぶつかるミニモの街で交渉したかわかりますか? それはチービン派にこの事実を知ってもらう為です。念の為にこちらからも会う事は知らせていますが……。つまり、あちらはドージ派が手の平を返して人族と会っていると思っているはず。当然あちらはあなた達にお怒りでしょうね。そんなチービン派の怒りの矛先はドージ派に向くかもしれません。僕とイッスン派はそんな両者がぶつかるのを静観する事になるでしょう」
「「「謀ったにょ!?」」」
三人は驚いて立ち上がる。
「三人共理解されているでしょう? あなた達の慎重論は絵に描いただけの理想だと。僕が先程提案した三者が手を結び、人族と交流を再開する事が一番だとわかっているはずです。僕はそれを理解してもらう為に策を弄したにすぎません」
タウロはそう言うと、立ち上がる。
「さあ、ご決断を……!」
タウロがそう強気に出ると、リーダーのシュテンは数瞬の沈黙後、観念したのか静かに頷くのであった。
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