第654話 小人族とのトラブル
イッスン派であり、小人族最強の戦士、シャルことシャルル・ペローの案内で、一緒にタウロ達一行はチービン派勢力圏近くの視察を続けていた。
「想像以上に勢力の境は良くない状態だね……」
タウロがエアリス達とその事について話していると、タウロに向かって林の茂みから数本の矢が飛んできた。
それらはタウロの肩の上にいたぺらが、簡単に防いでくれたので事なきを得たが、シャルをはじめエアリス達も戦闘態勢に入る。
そうすると茂みから首に黄色いスカーフを巻いた小人族達がわらわらと現れた。
「タウロ様、チービン派の連中でしゅ、気を付けてくだしゃい」
シャルがタウロに警戒を呼び掛けて、盾を構え、槍をしごいて間に入る。
「とうとうイッスン派が人間を自治区内に引き込んだもん!」
チービン派の小人族達はかなり興奮状態だ。
人間であるタウロ達を見て相当お怒りのようであった。
チービン派の小人族は全部で十人、こっちの戦力を考えると簡単に倒せそうではあるがどうしたものか……。
タウロが一瞬考えていると、先に動いたのは護衛兼案内役のシャルであった。
タウロが止める暇もないくらいの素早さでチービン派の小人族十人のもとに踏み込むと、目にも止まらぬ槍さばきで小人族が持っていた弓を両断し、剣を叩き落とす。
「シャルル・ペローだもん!」
シャルの存在はやはり有名なのか、チービン派はすぐに相手がシャルだとわかってたじろぐ。
そして、チービン派の小人族はイッスン派と違い、語尾に「もん」が付くようだ。
それはそれで可愛いと思ってしまうエアリスであったが、それは口にしない。
「でも、俺達はビビって逃げないもん! 逃げるのは戦士の恥だもん!」
チービン派の小人族は、不利とわかっていても引かない姿勢を取る。
「仕方ないでしゅ……。そちらがその気ならもう、手加減しないでしゅ」
シャルはそう宣言すると、槍をチービン派に突きつける。
「僕達が原因で殺傷沙汰はまずい。──セト、操作よろしく」
タウロはそう言うと、マジック収納から岩人形であるロックシリーズを三体前面に出した。
「お、大きいもん!」
「こいつ動くもん!」
「シャルル・ペローとこんな大きな人形相手でも俺達は逃げないもん!」
チービン派はロックシリーズを見てたじろいだが、まだ、逃げる様子はない。
だが、明らかに先程よりは怖気づいているのは見てわかった。
なら、トドメだ!
タウロはここぞとばかりに、マジック収納からさらにロックシリーズを三体追加する。
これには、チービン派の戦士達も圧倒されたのか、
「と、時には引くのも一流の戦士の証だもん! ──みんな、引くんだもん!」
隊長らしき小人族が仲間に命令すると、チービン派十人の戦士達は茂みに飛び込んで逃げていくのであった。
「タウロ様、お気遣いありがとうございましゅ。私もあいつらを斬らずにすみましゅた」
シャルはタウロの気遣いに気づいたのか感謝した。
「いえ、僕達が原因で斬り合いになるのも心苦しいので、穏便に済んでよかったです」
タウロはそう応じると、ロックシリーズをマジック収納に納め直した。
「タウロ様達は余計な殺生は行わないのでしゅね、感服したでしゅ」
シャルもその事に共感するところがあるのかタウロに感心する素振りを見せる。
「僕達は冒険者でもありますから。魔物には容赦しないけど、人相手は極力避けたいところです」
タウロは冒険者としての心情を苦笑して答えた。
「私達を人族と同等に扱ってくれるでしゅか……。感謝するのでしゅ」
シャルはタウロの事を尊敬できる相手と思ったのか、頭を下げた。
「もちろんですよ。ドワーフ族もエルフ族も小人族も等しく交流したい相手ですから。今後は蜥蜴人族や巨人族など一帯の異種族みんなと交流を持ちたいと思っています」
タウロは先程の動きで一流の戦士だとわかったシャルが、とても強いのに腰が低いのでますます好感を持った。
小人族の血気に逸る性格とは対照的である。
「私もタウロ様に協力できるように尽力するでしゅ」
シャルはそう言うとその場に膝を突きそうになる。
それは思わずとっさに出た行動であったが、本人もハッとしたのか、立ち上がった。
それはタウロ相手に忠誠を誓おうとしたように見えたが、タウロは気にせず、
「ありがとうございます。シャル、これからも力を貸してください」
と好意を受け止めてお願いするのであった。
その後、タウロ一行はチービン派勢力圏付近にこれ以上いると、また問題が起こると考えて退散し、イッスン派の街ハーリに戻る事にした。
「チービン派は本当に人族に対する考えが過激なのでしゅ」
シャルは帰り道、狼型人形ガロの上でそうタウロに言った。
「みたいだね。僕達を見て問答無用で矢を射かけて来るわけだし」
「それも、チービン派のリーダー、テヤン・デーが先導しているからでしゅ。彼は過去の歴史を問題にして人族を敵だと主張し始めましゅた」
シャルは暗い顔で話し始めた。
そして続ける。
「最初は人族側の差別に対し、怒りを覚えた者が一時的に賛同して支持していたのでしゅが、自治区の北の小人族は元々、過去の歴史もあって人族との交流を避けていた者が多い土地柄でもあった事から、現在の勢力になってしまったのでしゅ」
「それもこれも、異種族差別を始めた前領主がきっかけだよね。それが無ければ今の小人族の分裂もなかったはず……。僕はそれ以前の平和な関係に戻せるようにしたいな」
「私もそれを願ってホーシ様を支持しているのでしゅ。タウロ様、ご協力よろしくお願いしますでしゅ」
シャルは改めてタウロにお願いすると、頭を下げるのであった。
「もちろんだよ。協力は惜しまないし、交流再開を目指してお互いがんばろう!」
タウロはシャルを励ますと、笑顔で応じるのであった。




