第643話 宝箱の中身
タウロはダンジョンもどきで水晶化して迷宮核になりかけていたもどきの物体を砕く事にした。
マジック収納から戦槌を取り出すと振りかぶって叩き落とす。
迷宮核もどきは、呆気なく砕けてしまった。
すると、その真下の地中が盛り上がる。
「あ! これってもしかして迷宮核破壊した時に入手できるアイテムかな?」
タウロは上の土を払うと予想通り、宝箱が現れた。
タウロは躊躇う事なく宝箱を開けると、そこには一振りの小剣が入っていた。
「小剣? 僕、そろそろ普通の剣が欲しかったんだけど、迷宮核もどきだから、欲しているものよりランクが下がるのかな?」
タウロはそうつぶやきながら、その小剣を手に取ってみた。
すると、脳内に『世界の声』が響き渡る。
「特殊スキル【&%$#】の発動条件の一つ<伝説から失われた小剣を得し者>を確認。[技の修繕]を取得しました。タウロ・ジーロシュガーを確認中……。確認しました。──技の修繕を行いますか?」
「え? 技の修繕ってどういう事?」
タウロは久し振りの『世界の声』のさらに久し振りの疑問形に思わず聞き返す。
「「「?」」」
その場に居合わせたエアリス達は、タウロの独り言に疑問符を頭に浮かべる。
「技の修繕を行いますか?」
脳内で響く『世界の声』は再度、タウロに確認してきた。
「えっと……。──はい?」
「技の修繕を行います。しばらくお待ちください……。──修繕が終了しました。聖騎士専用剣技として欠落のあった『聖光波動剣』が、『タウロ・ジーロシュガー専用剣技』に修繕変更され、『真・波動剣』となりました」
「……えっと、なんかダサい専用剣技に名前が変更されたんだけど……?」
タウロは思わず、『世界の声』にツッコミを入れる。
だが、すでに『世界の声』は、もう役目を終えて応答はない。
「それで、タウロ、もしかして、『世界の声』が聞こえたの?」
エアリスがタウロの独り言から察して、質問する。
「あ、ごめん。その通りなんだけど……、どこから説明して良いのやら──」
タウロは、順序良く先程起きた状況を説明していく。
「──さすが、タウロ様! タウロ様専用剣技なんて、聞いた事が無いです!」
シオンは手放しで称賛する。
「ふむ……。竜人族の長い歴史でもそのような話は聞いた事がないな。──タウロ、試しに使ってみたらどうだ?」
ラグーネは興味津々とばかりにタウロに専用剣技の使用を促す。
「そうね、確認してみないとわからないわ」
エアリスも婚約者の専用剣技を催促する。
「……じゃあ、使ってみようかな? 標的はあの岩にしてみるね?」
タウロはそう言うと、マジック収納から小剣タウロ・改を取り出して構えると、目の前の大きな岩に向かって、「真・波動剣!」と叫んで技を繰り出した。
すると、見えない斬撃が縦に走り、大きな岩を真っ二つにする。
だが、それと同時に魔力も沢山持っていかれる気配を感じた。
「「「おお!」」」
エアリス達や門番エルフは大岩が真っ二つになった事に素直に驚いて歓声を上げる。
「……魔力の使用量を考えると思ったよりも使い勝手は悪そうかな?」
タウロは切れ味は良いが、手応えとして物足りなさを感じたようでそう漏らした。
そして、ふと、新たに得た小剣を能力である『真眼』で鑑定してみた。
小魔剣『魂砕き』
・伝説に名を残さないタウロ・ジーロシュガー専用魔剣。
・属性無し剣技を増幅強化する。
・使用者の成長と共に力を増す。
・文字通り魂を砕き、吸収し、力にする魔剣。
「……これ、僕以外に使用できないタイプの小剣という事か……。属性無し剣技を増幅強化? という事は……」
タウロは念の為、魔力回復ポーションをマジック収納から出して飲み干しながら、小魔剣『魂砕き』を鞘から抜き放つ。
そして、改めてその小魔剣を構えて魔力を込めると、先程縦に真っ二つに斬った大岩に向けて、再び「真・波動剣……!」とつぶやいて横一文字に剣を振る。
すると、先程と同じように大岩が今度は横一線で真っ二つに斬れた。
今度はエアリス達も最初の威力を見ていたからさほど驚く事なく、軽めに「「「おお……!」」」と感嘆の声をあげる。
だが、タウロ本人は先程と威力は変わらないが、その技のキレから手応えを感じたのか、まじまじと小魔剣を見つめ、
「……これはまさしく、名剣だ……」
とつぶやく。
「見た限り、小魔剣を使用すると、魔力を多少抑えられる感じなのか?」
ラグーネがタウロと手にしている小魔剣を見比べて指摘する。
「うん。それに若干、技の出も早いし、硬直時間もほとんどないから、かなり使えると思う。それに僕の成長と共に力を増すみたいだから、アルテミスの弓同様、切り札になりそうかな。ただし、『魂砕き』という名称が気になるけど……」
タウロはそう言うと苦笑した。
「物騒な名前ね。対人戦闘では使用しない方がいいかもしれないわ」
エアリスが名称を気にしてそうアドバイスする。
「そうだね。『真眼』でも魂を吸収して力にするってあるから、文字通りの魔剣なんだと思う……」
「タウロ様、間違ってもその剣で自分を斬る事にならないように安全に使用してくださいね?」
シオンも想像してぶるっと震えた。
「魔の付く武器は何かしら危険を伴う場合があるからな。トロール皇帝の装備していた魔剣も扱いには気を付けないとな」
ラグーネは過去にエアリスを負傷させた過去があるから、注意を促す。
「うん、トロール皇帝の魔剣についてはセトにあげるつもりだから大丈夫だよ。それよりも今は、修理を優先したい」
タウロはそう言うと、マジック収納に収めていた狼型人形ガロと男女大人型人形イブを取り出すと、トロール皇帝戦で破損した部分を予備のダンジョン産謎物質を使用し、その場で創造魔法を使用して修復を始めるのであった。




