62話 緊急クエスト完了
タウロが村に戻ると、ボブとクロエが村の出入り口で待っていた。
「遅いから心配したぞ。今から探しに行こうかと思ってたところだ。」
ボブはそう言うとタウロを抱きしめてきた。
「改めてありがとう…!奴らを討伐できたのはタウロのおかげだ!」
ボブは感極まったのか涙を流している。
「い、いえ。最後、ボブさんが助けてくれたじゃないですか!お互い様ですよ!」
「そうか、お互い様か。でも、ナイトに斬られた時はもう、自分は死ぬと思って気を失ったからな。タウロの判断がなかったら俺はこの世にいなかったよ。俺に使ってくれたポーション代はもちろん弁償する。」
「ギルドも今回の緊急クエストの成功報酬とは別に特別ボーナスもお支払い致します。Fランクのタウロ君を参加させたのはこちらの判断ですから。この度はありがとうございました。」
受付嬢兼ギルド緊急代理支部長のクロエが頭を下げて謝罪した。
「いえ、お礼はボブさんに言って下さい。ボブさんが今回の件に気づき、動いていなかったら僕は何もしてませんでしたから。あ、それとポーションは自作なので気にしないで下さい、材料も自分で採取したので費用はほぼかかってませんし。」
「「え!?」」
ボブとクロエがその返答に驚いた。
「え?」
タウロも驚かれたので聞き返した、変な事を言っただろうか?
「ポーションを作れるって…、薬剤師のスキルも持ってるのか、タウロは凄いな。」
ボブが驚くのも仕方がない。
見る限り弓矢も使え、剣も使える、木工も持っているはず、その上、薬剤師まであり、気配察知なども考えると盗賊系も持っていると思われるから最低でも5つはある事になる。
もしくは上位スキルで複数をカバーしてるとも考えられた。
「いえ、僕は残念ながら文字化けスキルひとつしかありませんから。」
タウロの答えにその場の空気が凍りついた。
文字化けスキル、それは別名残念スキル、もしくは役立たずスキル、他にも表現はいくつもあるが、良い表現は一つも無い。
つまり、この子はスキルのサポート無しの努力のみでやってきたのだ、とボブとクロエは思ったのだ。
「すまん…タウロ…、苦労してきたんだな…。」
「…ごめんなさい、何も知らずにずけずけと…、頑張ってきたのね…。」
二人が想像の翼を羽ばたかせ遥か彼方に旅立ったので、タウロはそれを眺める形になった。
苦労はしてきたと思うけど…、やっぱり、世間での文字化けスキルの不幸の印象は強いんだな…と、改めて思うタウロであった。
「と、ともかくポーションはそういう事なので大丈夫です!」
旅立った二人を地上に戻す様に語尾を強めに言った。
「お、おう!わかった。じゃあ、また今度、違う形でお礼させて貰うよ。」
ボブも引く気はないらしい、本当にお礼はいいのだがこれ以上はしつこいから断るのは諦めた。
緊急クエスト報酬はもちろんボブと二人で半分ずつ山分けした。
魔石については、クロエが鑑定できないので、ゴブリンナイトの魔石は倒したタウロが、ゴブリンソーサラーの魔石はボブが貰う事にした。
ちなみにタウロが『真眼』で鑑定してみるとゴブリンナイトの魔石は金貨5枚と高額で、ゴブリンソーサラーの魔石は金貨3枚の価値だった。
あれ?ナイトはソーサラーの部下じゃなかったの?と思ってさらに鑑定してみると、このゴブリンナイトは上位種のゴブリンライダーになる手前だったようだ。
…危ないじゃん!これ…なる前に倒せて良かったやつじゃん…!
タウロは1人、魔石にツッコミを入れるのだった。
この緊急クエストでボブはEランクからE+に昇格した。
タウロはF-のままである。
というのも、低ランク帯が本来受注できない高ランククエストを無断でクリアしても、昇格査定には加味しないとギルドのルールにあるのだ。
これがもし許されると低ランク帯が高ランククエストを進んで受注する事で死傷率が跳ね上がる可能性があるのでそれを未然に防ぐ処置だった。
なので、今回ゴブリン退治も含め希少種の討伐はランクに変化を与えなかった。
「ごめんなさい。こちら側が緊急で依頼してるのに…。」
受付嬢のクロエが申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、急を要してましたから、今回は仕方がないですよ。」
他の冒険者が来るのを待っていたら、最悪の事態もあり得たのだから仕方がないだろう。
タウロはそう割り切っていた。
それに、昇格にはあまり興味がなかった。
それより、祠の事が気になっていた。
明日また、祠に行こう、そうタウロは思うのだった。