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【完結】自力で異世界へ!~優しい仲間と一緒に異世界生活を満喫します~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第619話 ドワーフの宿屋

 岩窟の街を目指して、タウロ一行と雇い主であるブサーセン商会の馬車二台は山に掘られたトンネル、通称「高速路」を移動していた。


 馬車二台がすれ違っても余裕がある程の幅と高さのあるこのドワーフ専用の街道は上下左右複雑に交差しており、余所者が案内もなく適当に進んだら目的の場所に到達するのは非常に難しそうであった。


 幸いタウロ達には検問所で付けてもらった道案内のドワーフがいたので、その彼が指さす道に従って御者が馬車を進めている。


 どうやら、この「高速路」は、道を正しく進めば目的地までどこによることもなくまっすぐ進む事が可能なようで、時折、日差しが入り込む竪穴によって外の時間もわかるようになっていた。


 そして、ごくたまに高速路を抜け、外に出る事があるのだが、そこから見える風景はほとんどが自然あふれる山々と高原でドワーフの街を一切見かけない。


 それを疑問に思ったタウロが道案内役であるドワーフのボーゼという男性に聞いてみた。


「ここに至るまでドワーフの住居などを全く見かけませんが、みなさんどんな生活をしているんですか?」


「うん? そりゃあ、寄り道をせずに進んでいるから、俺達ドワーフの住居を見かける事はないさ。例えば、この『高速路』から脇にそれて下っていくと開けたところに村がある。だが、それだと目的地である岩窟の街への到着が遅れるだろ? そんな無駄な事をしてどうする。ドワーフは効率重視だぞ?」


 ドワーフのボーゼは道案内役としての任務以外の事をする気はないらしい。


 そして、どうやらドワーフ族はとても効率を重視しており、無駄な事は滅多にやらないようだ。


 ドワーフのボーゼは続けて話す。


「──いや、違うな。俺達ドワーフ族も趣味やら遊びやらがあってな。その時間は無駄とわかっていてもやっちまうなぁ」


「へー! この自治区ではどんな事が流行っているんですか?」


 タウロはドワーフの日常の一部が垣間見えると思ったのか、興味を示した。


「穴掘りさ」


 ドワーフのボーゼの回答は一言簡潔なものだった。


「穴掘り?」


「ああ。ドワーフってのは、モグラと呼ばれる程、穴掘りが好きな種族だからな。仕事として穴を掘る者もいるが、ほとんどは趣味や遊びで穴を掘っている。とはいえ、『高速路』などに繋がる穴はご法度だから、暇を持て余すと旧鉱山に穴掘りに出かける事はよくあるな。俺も先日、流行の旧鉱山スポットに彼女と鉱石採取デートに出かけたばっかりだぞ?」


 道案内役のボーゼは自慢気に説明した。


「デートで穴掘り……。タウロ、それだけはやめてね?」


 エアリスが冗談交じりに言う。


「人間のデートはどこに出かけるんだ? 旧鉱山穴掘りデートは定番だが楽しいぞ? いい汗かけるし二人で共同作業が出来るからぐっと距離も近くなる。それに珍しい鉱石を運よく発見しようものなら、それを自分で指輪なんかに加工して、その日の記念に彼女にプレゼントもできるしな!」


 ボーゼはドワーフ独特の価値観で楽しそうに話す。


「一部ロマンティックな話もある気はするが、ほとんど穴掘り……、という事なのだな?」


 ラグーネがボーゼのデート内容を聞いて疑問を口にする。


「当然だろ。デートの一番の売りはそこなんだから」


「「「……(ドワーフの感性がわからない……!)」」」


 タウロ達はドワーフの価値観について謎を深めながら、岩窟の街に向けて旅を続けるのであった。


 日が落ちて、『高速路』を照らす竪穴の灯りが無くなると、道の両サイドのくぼみに光が灯る。


 よく見るとタウロの開発したクズ魔石で照らす魔道具ランタンが備え付けられていた。


 どうやら、少し改造してあり、時間になるとクズ魔石が投入される仕組みらしい。


『高速路』の両サイドの壁のくぼみから次々と光が道を照らす。


「時間だな。今日はこの先を左に入って少し降りたところにある村で一晩過ごそう」


 道案内のボーゼが道の分かれ目を指差して御者を誘導する。


 御者は素直に従うと左側の道に入った。


 ちょっと進むと、開けた場所が現れる。


 先程までは、無機質で人工的なダンジョンのような道や壁、天井であったが、道こそ変わらず綺麗に舗装されたものだが、天井や壁は剥き出しの岩で、そこに穴を掘って住んでいるのがわかる生活空間が見て取れた。


 玄関の傍にはその家の荷物が積まれていたり、何かの食べ物が干してあったりもしている。


 二階部分と思われる場所には洗濯物も干されていて、そこに人が住んでいるという事がよく理解出来た。


「本当に穴の中で暮らしているんですね……」


 タウロは夜という事で明かりも調整されているのか通りの暗さに、魔道具ランタンを取り出して道を照らしながら、感想を漏らした。


 ドワーフの村は、天井が二十メートルくらいありそうな大きな空間の壁に穴を掘って住んでいるから、壁に作られた窓から明かりが漏れ、それが、光る鉱石のようであった。


「あそこが、この村の宿屋だぞ」


 ドワーフのモーゼが指さしたところは、他と同じように壁をくり抜いたところに扉が付いており、宿屋を示す看板が掛かっている。


 そこの横に馬車を付けると、全員が下車した。


 宿屋の横は大きくくり抜かれて作られた広場みたいなスペースがあり、そこに馬車を止める。


 狼型人形(ゴーレム)のガロもその馬車の荷物の見張りを兼ねてそこに留まる事にした。


 見る限りちゃんと馬の為の納屋も確保されているから、利用する人は多いのだろう。


 そんな宿屋の玄関は意外にも、ドワーフの背丈に合わせた低いものではなく高身長のアンクでも普通に通れる高さに設定してあった。


「女将、人族用の部屋を数室頼むよ。隣領の使者だから丁重に頼む」


 ドワーフのボーゼが部屋の奥に声を掛ける。


 奥から身長が低い女性が現れた。


 タウロは意外にドワーフの女性を初めて見た気がする。


 いや、もしかしたら見ていたが、気づかなかっただけかもしれない。


 それくらいその女将は背が低めのただの女性に見えたのだ。


 少し横幅があるが、それはドワーフ特有の体形なのか年を経たからなのかは判断がつかない。


「人間の客がこんなに沢山来るのは珍しいわ。使者なら一番高い部屋でいいかい?他もその次に良い部屋をいくつか用意するよ」


 女将は人間に偏見がないのか、それともボーゼが間に入っているからか普通の対応をする。


「ああ、頼む。タウロ殿、ブサーセン殿それでいいかい?」


「はい、お願いします」


 とタウロ。


「私もそれで構わない」


 とブサーセン。


 女将は頷くと、カギを手にして、タウロ達を部屋へと案内する。


 タウロはエアリスと同室にしてもらい、一番高い部屋に入った。


 部屋は結構広く、壁にはタペストリーのような布が沢山書けられて彩鮮やかだ。


 そうする事で閉塞感を無くす努力をしているのだろう。


 当然ながら窓はなく、換気は天井に開けられた穴から行われているようだ。


 ベッドもドワーフサイズを想像していたが、人用サイズなのか大きい。


「何か御用の際は、ベッド横のこの筒の蓋を開けて話してくれると、声がこちらに届くシステムだから。お風呂はこっちね」


 女将はそう言うと、他のお客を案内する為に部屋を出て行く。


「穴をくり抜いた岩の宿屋……、か。こういうの初体験だよ!」


 タウロは少し興奮気味にエアリスに話す。


「ふふふっ。お風呂に入ったら食事を済ませてしばらく寛ぎましょうか」


 エアリスは興奮気味なタウロを宥めて、着替えをマジック収納から出してもらうと、お風呂に向かうのであった。

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