第613話 新領都の冒険者ギルド
タウロは領主代理であるロビンにお願いして、各自治区に使者を出してもらった。
いきなり押し掛けるわけにもいかないからだ。
その間、やる事はいっぱいある。
シオンとセト、ロックシリーズ十体は鉱山までの道を早速、整備する準備を始めた。
その中には、盗賊討伐や魔物退治も含まれている。
整備されていない人通りのなくなった道ともなれば、やはり物騒なもので盗賊や魔物も徘徊しているものだ。
シオンとセトはロックシリーズを使って盗賊の討伐から魔物の駆除まで引き受けつつ、タウロが王都で大量に仕入れていた品質の良い道具一式を使って整備を行う為に領都の北に続く道へと向かうのであった。
その光景を近くの領民達は何事かと眺めるのであったが、理由がわかるのは後日の事になる。
ちなみに男女型人形アダムとイブはタウロが使用する為にマジック収納に納めていた。
セトがいないと操作が大変そうな気もするが、そこは狼型人形ガロがセトの代わりをしてくれるから問題ない。
ガロは鳴き声こそ狼程度の発声しかできないが、頭脳はセト並みに頭が良いのだ。
当然タウロとも思考共有しているから、タウロの意思もちゃんと汲み取ってくれるから何の問題もない。
「じゃあ、僕達はこの新領都シュガーの現状視察と冒険者ギルドの様子と手続きをしておこうか」
タウロは旧ルネスク伯爵領都の新たな名称を口にした。
ロビンからシュガーの街という仮名にしたと聞いた為だ。
自分で言っていてむず痒いものがあるが、領主の家名、もしくはその一部が領都名になるのでロビンがジーロ・シュガーから取って仮名で名付けていたそうだが、領民からは以前の名より気に入られ、すぐに浸透したらしい。
だから、タウロは自分に言い聞かせる事も含めて、そう口にしたのであった。
「ふふふっ。タウロ、少し耳が赤いわよ?」
慣れない領都名を口にしてタウロが照れたのがわかってエアリスが微笑ましく感じて指摘した。
「あ、本当だ。──リーダー、これも慣れだぜ。俺だったら恥ずかし過ぎて無理だけどな」
アンクがタウロを茶化す。
「もう、みんないいから、いくよ!」
タウロは茶化されて今度は顔を赤くして応じる。
「そうだな。私もこの街の冒険者ギルドは気になるから行こう」
ラグーネは茶化すことなくタウロに賛同すると、城館を出て街へと繰り出すのであった。
領都シュガーの街の冒険者ギルドは、意外に大きい建物であった。
それはここが、各自治区や秘境特区へ向かうのにとても適した土地だからで、各地の冒険者も南西部に向かう際はここに集まって来るからだろう。
だが、交易が止まり、人の移動も無くった今となっては、冒険者ギルド内に入っても、まだ朝なのに職員以外では冒険者らしい姿は数人いるだけであった。
「いらっしゃいませ、新領都シュガーの冒険者ギルドにようこそ! ──見たところ新人冒険者ではなさそうですね。経験者は大歓迎ですよ。今日は活動手続きですか?」
ギルド内の雰囲気は必ずしもよくはなかったが、新人と思われる十六歳くらいの受付嬢である黒髪のポニーテールにぱっちり二重の黒目で可愛らしい雰囲気の女性は、その元気の良さで、唯一、ギルド内を明るくするものであった。
「はい、今日からこちらを拠点にして活動する予定です」
タウロはそう言うと、タグを外して渡す。
新人受付嬢は、もたつきながらも、タグを魔道具に通して手続きを済ませる。
「『黒金の翼』ですね? え? B+冒険者チームなんですか!? その若さで凄いです!」
新人受付嬢は、驚いて声を上げる。
そして続けた。
「私、新人受付嬢のミュウといいます。みなさんのこの新領都シュガーでのご活躍を期待しますね!」
と自己紹介するとタグをタウロに返却する。
どうやら、タウロがその新領主である情報は見逃したようだ。
「ミュウさんよろしく。ちなみに僕達、ここは初めてなんですが、ここはどういうところですか?」
「──そうですね……。例えば、前領主の破産から王家直轄領になって、この領地は貧乏していたんですが、一年ほど前にこの領地に就任してくれた新領主、ジーロシュガー子爵様の代理であるロビン様が来てからは、ギルドの雰囲気はだいぶ良くなりました。以前は交易も止まっている事もあり、冒険者のみなさんからの人気は皆無でこの街は素通りされていましたから……。でも、少しずつ活気を取り戻していると思いますよ。お陰で私もここに就職できましたし!」
受付嬢のミュウはそう言うと笑顔で応じた。
この雰囲気で良くなっているの!?
とタウロ達は内心驚くのであったが、お金のないところに人が集まらないのは道理だから、以前は相当酷かったのだろう事は想像がついた。
だからミュウの言葉は理解出来る。
領主としてはこれから冒険者ギルドにも色々動いてもらう事になるだろうから、仕事の依頼もする側になる。
そうする事で、仕事が増えるから冒険者も少しずつ増えるはずだ。
ただ、自分も一冒険者だから、依頼を引き受けて盛り上げていきたいところではある。
そんな中で、この明るい新人受付嬢の存在はこの冒険者ギルドの顔になりそうであった。
「……ちなみに、僕たち向けの依頼は奥の特別室でしょうか?」
タウロはかなり大きな建物にも拘らず、明らかに職員の数も少ない状況であるギルドの雰囲気を感じながら、駄目元で確認する。
「本来は奥の特別室に案内するところなんですが、今は職員が少なくて対応しているのはこの受付だけなんですよ。──Bランク帯冒険者用の依頼ですよね? 少々お待ちください」
受付嬢のミュウはそう言うと、後ろの棚から箱を一つ取り出すと、タウロの元に置いた。
そこには、一枚の依頼書が入っている。
「あ、これは今朝、支部長が承認したばかりの依頼書ですね。地元の商人の護衛依頼になっています」
受付嬢のミュウはそう言うとタウロに渡して見せた。
「出立は四日後。ドワーフ族自治区の岩窟の街までの護衛、か」
タウロは依頼書を読み上げると、エアリス達に視線を送る。
「丁度良いんじゃない? タウロにとっても私達にとっても」
エアリスが良いタイミングとばかりに頷く。
「そうだな。商人なら険悪なはずのあちらとも多少は関係性を築けているだろうし良いんじゃないか?」
アンクも賛同する。
「シオンはどうする? 今日、北の鉱山に向かったばかりだが?」
「セトに一応伝えるけど、シオンは街道の整備にやる気を見せていたから、どうだろう?」
タウロはそう言うと、なにやら、ポカンとした顔になり、固まる。
どうやら、セトと思考共有してシオンへの確認をお願いしているようだ。
ちなみにセトがシオンに意思を伝える方法は身振り手振りの他に、字を書いて詳細を伝える手段もある。
今は、その辺の枝でセトが地面に簡単な字を書いてシオンに伝えているようだ。
タウロはセト視界共有しているから、その光景が見て取れた。
「セト一人に任せるのは嫌なので、今回は一緒に道の整備を頑張ります!」
シオンが、セトにそう答える。
視界共有でセトの目からタウロが直接見ているのがわかったのだろう。
「──シオンは残るって。──それじゃあ、この依頼を引き受けて、僕達も目的の一つを果たそうか」
タウロはポカンとした顔から元に戻ると、エアリス達にそう告げた。
「……相変わらず、セトと視界共有している時のタウロはちょっと間が抜けているわね。ふふふっ」
エアリスがそう指摘するとラグーネとアンクもつられて笑う。
みんな同じ事を思っていたようだ。
ただし、新人受付嬢ミュウは何が起きているのか分からず、蚊帳の外であった。




